最新 心理学事典 「色」の解説
いろ
色
color,colour(英),Farbe(独)
【色の基礎】 ヒトに光として知覚されるのは約380~760nmの波長の電磁波であり(20ページ図2),特定の波長の光だけを取り出してみると,その光は色づいて見える。ごく狭い範囲の波長のみを含む光を単色光monochromatic light,もしくはスペクトル光spectral lightとよぶ。単色光の色は波長に応じて変わり,短波長から長波長に向かって,すみれ→青→青緑→緑→黄緑→黄→橙→赤という連続的な変化をたどる。青色に見える短波長光と赤色に見える長波長光とでは光の波長のみが異なるが,感じられる色は青と赤というように質的に異なる。このことは,色が光の属性ではなく感覚であることを端的に示している。光の波長と色はある程度対応するため,ある光にどの波長光がどれだけ含まれているかによって,光に対して感じる色は変わる。波長の関数として光の強度を示したものを,分光強度分布spectral power distribution,あるいは分光エネルギー分布spectral energy distributionといい,これによって色に関する光の特性は記述できる。たとえば,図1の⒜に示した照明光(白熱電灯)は長波長領域のエネルギーが強く,橙色がかった光となる。
照明からの光が物体に当たると,その一部は反射される。どの波長の光をどの程度反射するかを示したものが分光反射率spectral reflectanceである。この分光反射率が物体表面の色を決める主要な物理的要因である。今,照明の分光強度分布をE(λ),物体表面の分光反射率をR(λ)とすると,物体からの反射光の分光強度分布I(λ)は両者の積により求められる(図1を参照。λは波長を表わす)。
I(λ)=E(λ)・R(λ)
図1の⒝はあるピーマンの分光反射率を示しており,緑色に見える中波長光を強く反射するため,反射光の分光強度分布においても中波長光が相対的に強い。
色は,ピーマンの緑色のように物体表面に張り付いているかのように見える場合や,青空の青のようにどこに色が付いているのか位置関係がはっきりしないように見える場合など,さまざまな現われ方をする。こうした色の見え方の違いを,色の見えのモードmode of color appearanceの違いという。これまでさまざまな分類がなされているが,量も単純な分類としては,物体色モードと光源色モードに分ける。物体色モードobject color modeとは,ピーマンの例のように物体表面に色が付いているように見え,物体表面の属性として知覚される場合の色の見え方を指す。これに対して光源色モードlight source color modeとは,自ら発光しているように知覚される場合の色の見え方を指す。色の見えのモードは,通常は,実際に対象が光を発しているか反射しているかによって決まるが,物理的な条件ではなく観察条件によって決まることもある。たとえば,実際には色紙が光を反射している場合でも,暗黒中に単独で配置されると光源色モードとして発光して知覚される。逆に,カラーテレビの画面のように実際に発光している場合でも,周囲にさまざまな明るさや色の対象があると,物体色モードとして見える。色の見えのモードによって,色の広がり方や定位の明確さなどといった属性も変化するが,感じられる色そのものも変わる。たとえば,茶色や金色,銀色は物体色モードに特有の色であり,光源色モードで知覚されることはない。
光の色は,色相,明るさ,彩度という三つの属性から成っている。色相hueは青や赤といった色合いのことであり,明るさbrightnessはその色がどれだけ明るいかを表わす。彩度saturation(飽和度ともいう)は,その色がどれだけ鮮やかであるかを表わす。たとえば,赤,ピンク,白の違いが彩度の違いである。色みを含んでいない白,灰色,黒の彩度はゼロであり,これらを無彩色achromatic colorとよぶ。それ以外の色は,有彩色chromatic colorという。光の色に対して物体色の三属性は,色相,明度lightness,彩度となる。明るさと明度の区別は難しいが,厳密には明るさは知覚される光の強度であり,明るい,暗いで表わすのに対し,明度は物体表面の見かけの反射率であり,白い,黒いで表わす。
色の三属性は図3のような3次元空間(色立体)で表わす。色相は,可視範囲内の色相に紫を加えて,すみれ(青紫)→青→青緑→緑→黄緑→黄→橙→赤→赤紫→紫→すみれ…といった一連の閉じた円環形の推移として記述できる。色相の変化を円環で示したものを色相環hue circleとよぶ。色立体では,色相環の中心に無彩色を配置し,そこからどれだけ離れているかによって彩度を表わす。そして,色相環に直交する方向の変化で明るさや明度を表わす。
【色覚理論theory of color vision】 色刺激が視覚系でどのように処理されるかを説明する伝統的な色覚理論としては,三色説と反対色説を挙げることができる。
三色説trichromatic theoryとは,3種類の光受容器の応答の組み合わせにより色の感覚を説明する色覚理論であり,19世紀初頭にヤングYoung,T.が提唱し,19世紀後半にヘルムホルツHelmholtz,H.L.F.vonが発展させ体系化した。三色説は,加法混色による等色実験に基礎をおく。加法混色additive color mixtureとは,複数の光を足し合わせる操作を指し,足し合わせる光を原刺激primary stimulusという。加法混色において各原刺激の割合を調整すると,別の光(検査光)の色と見かけ上は等しくすることができる。この操作を等色color matchingという。この際,混色光と検査光の分光強度分布は物理的に異なっているが,見かけ上は区別できなくなる。こうした等色を条件等色metameric color matchという。等色実験により,互いに独立な原刺激が3種類あれば,それらの加法混色により,任意の光と等色できることがわかっており,これを色覚の三色性trichromacyという。互いに独立とは,二つの原刺激の混色により残りの一つと等色できないことを指す。三色説によれば,色光は3種類の光受容器をある割合で応答させ,この応答の割合の違いにより色光の色が区別される。このため,たとえ物理的には異なる光であっても,光受容器に生じる応答が等しければ区別することができない。条件等色が生じるのは,このためである。
反対色説opponent-color theoryは,19世紀後半にヘリングHering,E.によって提案された色覚理論である。今,赤色光に緑色光を混ぜていくと,赤緑色が知覚されることはなく,赤と緑は互いに打ち消し合う。このように赤と緑,そして黄と青は共存しないという観察から,ヘリングは,その背後にあるメカニズムを洞察した。反対色説によれば,視覚系には赤-緑過程と黄-青過程という2種類の色処理過程が存在し,光の波長に応じて互いに拮抗する応答を示す。極性の違いを正と負で表わすと,赤-緑過程で生じる正の応答が赤の感覚,負の応答が緑の感覚に対応する(応答の正負と色の組み合わせは恣意的なものである)。黄-青過程においても同様である。特定の光によって生じるのは正か負の応答のいずれかであるので,赤と緑,あるいは黄と青を同時に感じることはない。赤-緑過程と黄-青過程の応答の組み合わせで,色の感覚は説明される。このほかに,明るさの感覚を媒介する白-黒過程も仮定されている。こうした反対色過程を仮定することで,色順応においてある色光に順応するとその反対色(補色)に対する感度が相対的に向上すること,色残像(継時的対比)が刺激色の反対色となること,色対比現象(周囲との差を強調する方向に色が誘導される現象)において誘導色が反対色となること,などをうまく説明することができる。
三色説と反対色説は,当初は互いに対立する理論として優劣を競い合っていたが,その後の研究によりそれぞれの妥当性を示す証拠が示され,現在では段階説として統合されている。段階説stage theory of color visionとは,色覚を階層的処理によって説明する理論であり,現在のすべての色覚モデルはこの立場を取っている。図4は段階説の概要を示す。色刺激を処理する最初の段階は,光の受容を行なう錐体過程であり,ここでは三色説的な処理が行なわれる。錐体は,光を吸収してそれを神経信号へと変換する形で応答する。多くのヒトの眼には錐体が3種類存在し,どの波長領域に対して最も感度が良いかに応じてS錐体,M錐体,L錐体とよばれている。光が眼に届くと,各錐体の感度に応じて異なる強度の応答が生じる(図5)。
その次の反対色過程color-opponent process(錐体拮抗過程)においては,異なる種類の錐体からの信号が比較される。反対色説で想定されていたような拮抗性応答は,網膜神経節細胞や外側膝状体の細胞などにおいて,ある範囲の波長光に対しては興奮性の応答(スパイク発射頻度の増加),別の範囲の波長に対しては抑制性の応答(スパイク発射頻度の減少)が生じるという形で,広く認められる。拮抗性応答を示す網膜神経節細胞は複数種の錐体から入力を受けており,錐体の種類と入力の符号(興奮性入力か抑制性入力か)により,大きく二つのタイプに分類される(図4)。一つは,L錐体とM錐体から拮抗性の入力を受ける細胞(L-M型細胞)であり,もう一つはS錐体とそれ以外の錐体から拮抗性の入力を受ける細胞[S-(L+M)型細胞]である。光の強度情報は,L錐体とM錐体から興奮性の入力を受けるL+M型細胞により伝達される。
このように,段階説においては,三色説と反対色説に対応する処理過程が想定されているが,錐体過程や反対色過程における応答が直接的に色の感覚に結びついているという考えは現在では否定されている。それぞれの段階は,あくまでも色処理の中間段階に当たり,色の感覚が生じるためには,さらに高次の段階(高次過程)での処理が必要となる(図4)。大脳皮質における色処理は,現在盛んに研究されており,特定の色相や彩度に対応する狭い色範囲に選択性を示す細胞や,特定の色カテゴリーに選択性を示す細胞の存在が示唆されている。
【色覚型】 色覚の基本的な機能を,光の強度の違いとは独立に分光強度分布の違いを識別することだと考えると,これは,錐体が2種類あれば十分に実現できる。実際に,錐体(厳密には錐体視物質)を2種類しかもっていないヒトもおり,この場合の色覚を二色覚dichromatismという。いわゆる色盲のことであるが,色が区別できないわけではないので,この名前は適切ではない。二色覚は,等色の際に2種類(2色)の原刺激しか必要としないことから,かつては二色型色覚とよばれたが,色盲の名称を一掃するために日本医学会により改訂された色覚関連用語では,この名前が採用されている(表)。
等色の際に3種類の原刺激を必要とするのが三色覚trichromatismである。三色覚者は,多数派を占める一般色覚者(正常色覚者)と,多数派とは等色の際の原刺激の混色率が異なる異常三色覚者anomalous trichromatに分かれる(異常三色覚は,かつては色弱とよばれていた)。混色率の違いは,ある錐体視物質の分光吸収特性が一般色覚者と異なることにより生じる。分光吸収特性の変化の程度はさまざまである。二色覚と異常三色覚に関しては,どの錐体視物質が欠けているか,あるいは分光吸収特性が変化しているかによって分類されており,L錐体,M錐体,S錐体に問題がある場合を,それぞれ1型,2型,3型という。さらには,錐体を1種類しかもっていないヒトもごくまれにおり,その色覚を錐体一色覚とよぶ。また,錐体をすべて欠いている色覚障害もあり,これを桿体一色覚という(表)。これらの場合には,色覚が成立せず,分光強度分布の違いを区別できない。
二色覚や異常三色覚といった色覚異常color vision deficiencyのうち先天性のものは,L錐体もしくはM錐体に問題がある場合がほとんどである。これらの錐体視物質に関する遺伝子はX染色体に存在し,分子遺伝学的研究が進んでいる。S錐体視物質に関する遺伝子は,常染色体に存在する。疾病などによる後天性の色覚異常に関しては,S錐体過程に障害が現われることが多い。
一般色覚者であっても,条件によっては色覚が制限される。視細胞のうち桿体は1種類しかないため,桿体のみが働く暗所では,だれでも分光強度分布の違いを色の違いとして区別できない。また,視野周辺部では色を見分けることはできなくなる。視野内で色を見分けることができる範囲を色視野color zoneとよぶが,色によって広さが異なり,赤,緑よりも,黄,青の方が広い。中心窩のさらに内側の中心小窩とよばれる領域(視角約20′)にはS錐体が存在しない。そこでの色覚を微小領域3型二色覚small field tritanopiaという。
以上のようにヒトの色覚型は多様であり,あるヒトには見分けられる色の違いが別のヒトには区別できないといったことが起こる。このため,すべてのヒトに情報が適切に伝わるように配慮した視環境を構築し,色彩設計を行なうことが望まれる。こうした利用者の側に立ったデザインを,ユニバーサルカラーデザインuniversal color designという。具体的には,できるだけ多くのヒトが見分けることのできる配色を選ぶこと,色の違いだけでなく,記号や文字,形など他の視覚情報を同時に用いることなどが重要となる。
【表色系color specification system】 色を定量的に示す体系である表色系は,色の見えに基づく顕色系color appearance systemと,等色実験に基づく混色系color mixing systemとに分けられる。前者の代表例がマンセル表色系であり,後者の例が国際照明委員会Commission Internationale de l'Eclairage(CIE)により定められたXYZ表色系である。マンセル表色系Munsell color notation systemは,マンセルMunsell,A.H.が自らの観察を基に色の見えを体系化したのが始まりである。その後,アメリカ光学会によって,実験結果に基づいて修正された。これを修正マンセル表色系というが,「修正」を付けずによばれることも多い。図6の⒜のマンセル表色系は,物体の色(表面色)を表わす体系であり,色相,明度,彩度に対応するヒューhue(H),バリューvalue(V),クロマchroma(C)の値によって色を特定する。この三属性が,それぞれ等歩度(感覚的に等間隔)となるように数値化されている(ただし,異なる属性間ではスケールが異なるので,比較はできない)。
三属性のうちヒューに関しては,図6の⒝に示されているように,基本色相である赤(R),黄(Y),緑(G),青(B),紫(P)を色相環上に等間隔に配置し,次にそれらの間に混合色の黄赤(YR),緑黄(GY),青緑(BG),紫青(PB),赤紫(RP)を等間隔に配置して,色相環が10等分されている。さらに,隣り合う色相の間を10等分し,その数字を色相名に付けることによって細かい色相の違いが表わされる。各色相を代表する色は5の付いた色相であり,たとえば5Rが最も赤らしい色となる。クロマは色みの量を表わし,無彩色でゼロとなる。無彩色は色相環の中央に配置される。そこから放射状に外側に延びる線が等色相線であり,中心から離れるにつれてクロマは大きくなる。バリューに関しては,黒をゼロ,白を10とし,感覚的に等間隔となるように目盛りが付けられている。マンセル表色系では,色をHV/Cのように指定する。たとえば,5BG 4/6の色は,ヒューが5BG,バリューが4,クロマが6ということになる。ヒュー,バリュー,クロマの値を感覚的に内挿することで,小数点以下の値も使用される。
混色系では,3種類の原刺激をどのような割合で加法混色すれば等色できるかによって色を特定する。等色に必要な原刺激の量を三刺激値tristimulus valueといい,等エネルギーの単色光に対する三刺激値を等色関数color matching functionという。
CIEによって1931年に提案されたRGB表色系は実際の等色実験との対応が明確であり,標準観測者standard observerという平均的な観察者を想定し,その等色データとして作られている。ただしRGB表色系には,一部で等色関数が負の値を取るという特徴があり,三刺激値の計算の際に厄介な問題を引き起こす恐れがあった。このためCIEは,等色関数がすべて正の値を取るXYZ表色系も提案した。XYZ表色系の等色関数を図7の⒜に示す。XYZ表色系の原刺激は,実用上の使いやすさを重視して選ばれており,等色関数のうちȳ(λ)は明所視の標準比視感度standard relative luminous efficiencyと一致する。色刺激を特定する三刺激値X,Y,Zの計算は,等色関数 x̄(λ),ȳ(λ),z̄(λ)と色刺激の分光強度分布E(λ)を用いて以下の式により行なう(kは定数)。得られる三刺激値のうちYは輝度値となる。

混色系において,明るさを考慮せずに色のみを特定する場合に使用されるのが,色度座標chromaticity coordinateである。これは,各三刺激値を表わす軸から構成される直交座標系を考えたときに,色刺激を表わす色ベクトルと単位面との交点の座標である。色刺激の三刺激値をX,Y,Z,色度座標をx,y,zで表わすと,色度座標は以下の式で定義される。

x+y+z=1
色度座標の和はつねに1となるため,通常は図7の⒝の単位面をxy平面に投影したxy色度図xy chromaticity diagramを色の表示に使用する。色度図上に単色光の色度座標を示したものをスペクトル軌跡spectral locusとよび,スペクトル軌跡の短波長端と長波長端をつないだ線を赤紫線purple lineという。実在するすべての色刺激の色度座標は,スペクトル軌跡と赤紫線で囲まれた領域内に位置する。
XYZ表色系を用いれば色の特定と表示は可能であるが,色の違いを示すときに問題が生じる。表色系内で同じ距離だけ離れていても,色差が等しいとは限らないのである。こうした問題点を補正し,均等な(つまり,色空間内の距離が感覚的な色差と対応する)色空間を得ようとする試みがこれまで数多くなされている。CIEは1960年に,xy色度図を線形変換したuv色度図を,そして1976年にはこれを修正したu′v′色度図を採択した(図8)。この色度図では,補正の結果,図7の⒝に示したxy色度図と比較して,スペクトル軌跡の形状が変化している。CIEは,同じく1976年に物体色に関する均等色空間として,L*u*v*色空間とL*a*b*色空間を提案した。前者はu′v′色度図を継承する形で定義され,後者はそれとは別個に定義されている。u′v′色度図では色度座標のみを扱い2次元平面で色を表示するが,L*u*v*色空間とL*a*b*色空間は明度の軸を含む3次元空間で色を表示するため,色相,彩度,明度の違いをすべて扱える。ただし,L*u*v*色空間とL*a*b*色空間はともに,照明光ごとに定義されるものであり,異なる照明のもとでの物体の色の差を比較することはできない。
【色の諸側面】 色の三属性である色相,明るさ,彩度は,概念的には独立なはずであるが,この独立性は完全ではない。波長が一定であっても,光の強度が変わると色相が変わって見えることがあり,これをベツォルト-ブリュッケ現象Bezold-Brücke phenomenonという。一般に,光の強度が上がると黄や青の感覚が増し,逆に強度が下がると赤や緑の感覚が増す。ただし,特定の波長の光では強度変化にかかわらず色相が変化しない。これを不変色相invariant hueという。他にも,彩度によって色相が変わる現象があり,これをアブニー効果Abney effectという。ある波長の単色光に白色光を加えると,白色光の量に応じて光の彩度は変化する。この際,単色光の波長は一定であるので色相は変化しないと考えられるが,実際には彩度の変化とともに色相も変化することがある。さらに,輝度が等しくとも,彩度が高い光ほど明るく見えるヘルムホルツ-コールラウシュ効果Helmholtz-Kohlrausch effectも知られている。
図1に示したように,物体からの反射光は,物体表面の分光反射率だけでなく,照明の分光強度分布によっても変わる。このため,分光反射率が一定であっても,照明が変われば反射光の分光強度分布も変化することになる。しかし,異なる照明のもとでも同じ物体は同じ色に見えることが多い。このように,照明の違いにもかかわらず,物体の色が比較的恒常に保たれる現象を色の恒常性color constancyという。色の恒常性は,形や大きさの恒常性とともに物体の区別や同定に重要な役割を果たしている。色の恒常性が成立するためには,物体の分光反射率の特徴を反映できるよう照明光の分光強度分布が十分に広帯域でなくてはならず,空間的文脈が豊かで視野内に分光反射率の異なる物体が複数存在することが重要である。色の恒常性のメカニズムとしては,錐体過程における色順応が重要な役割を果たしている。3種類の錐体は,それぞれが照明光に応じて独立に順応し,感度を変えるため,これにより照明光の分光強度分布の変化はかなり相殺できる。
ヒトは,わずかな波長の違いを色の違いとして見分けることができる一方で,ある程度の違いがあったとしても,ある範囲内の色をまとめて同じ色(たとえば赤)として扱うことができる。こうした色処理をカテゴリカル色知覚categorical color perceptionとよぶ。バーリンBerlin,B.とケイKay,P.は,言語における色名の発達には国や文化によらない普遍性があり,よく発達した言語にはどれも,白,黒,灰,赤,緑,黄,青,茶,紫,橙,ピンクという11の基本カテゴリー色に対応する色名が存在するとした。これら色名の使用に関しては,同一個人内,あるいは個人間で一貫性が高く,色の命名の際の反応時間も短いことがわかっている。また,チンパンジーでも同様の色カテゴリーが確認されている。こうした異なる言語における色名の共通性により,基本カテゴリー色の神経基盤は生得的に決まっていることが示唆されるが,基本カテゴリー色の普遍性を否定する研究もあり,今後さらに研究が必要とされる。なお,色の記憶も色カテゴリーの影響を受け,記憶した色はカテゴリーの代表色に近づくことが知られている。
色は他の感覚効果や印象を生じさせることもある。まず,暖かい,暑いという印象を与える暖色warm colorと,その逆に冷たいとか寒いという印象を与える寒色cold colorがある。赤や黄系統の色が暖色であり,青系統の色が寒色である。この他にも,色によって対象の奥行きや大きさが異なって見えることも知られており,たとえば物理的には同じ距離に置かれていたとしても,手前に見える進出色advancing colorと,逆に奥に引っ込んで見える後退色receding colorがある。色相が重要な規定因であり,暖色の赤や黄系統が進出色となり,寒色の青系統が後退色となる。この他にも,物理的には同じ面積であるのに,大きく膨らんで見える膨張色expanding colorと,その逆に小さく縮んで見える収縮色contracting colorがある。膨張色と収縮色に関しては,重要な規定因は明度であり,明度が高いほど大きく,低いほど小さく見えるとされている。 →明るさの知覚 →恒常現象 →視覚 →視覚刺激
〔木村 英司〕
図8 u'v'色度図
図7 CIEによる XYZ表色系
図6 マンセル表色系
図5 3種類の錐体の分光感度
図4 色の段階的処理
図3 色の三属性
図2 電磁波と可視スペクトル
図1 物体の色の知覚を規定する要因
表 色覚型の分類
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報