〘名〙
[一] 物の外面の様子、有様。また、外見から受ける感じ。
① 自然界の有様。目にうつる
情景から感じられるけはい。物の様子。
※続日本紀‐養老五年(721)二月甲午「亦猶風雲気色。有レ違二于常一」
※枕(10C終)三「正月一日は、まいて空のけしきもうらうらと、めづらしうかすみこめたるに」
② 顔にあらわれた表情。顔色。顔つき。また、人の容姿、態度、そぶりなどについてもいう。
※竹取(9C末‐10C初)「かくや姫のある所に至りて見れば、猶物思へるけしきなり」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「悲しうあはれにおぼさるれど、けしきにも出だし給はず」
※俳諧・犬子集(1633)一一「敵よりも猶こはき
女房 うはなりのいかり来にける其気色〈由己〉」
③ 物事があらわれるけはい。きざし。兆候。特に出産の兆候をいうことが多い。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「いとたひらかに、男みこむまれ給へり。けしきもなくておはしつるほどにむまれ給へり」
④ すこしであるさま。わずかであるさま。いささか。→
気色ばかり。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「かの君もいといたくおぢ憚りて、『けしきにても、漏り聞かせ給ふ事あらば』と、かしこまり聞こえ給ひし物を」
⑤ いっぷう変わった趣。興味をそそるようなさま。風流なさま。また、風流心。通常、「けしきあり」の形で使われる。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「一院の上はけしきおはする御心にて」
⑥ あやしげな様子。ぶきみな感じのするさま。通常、「けしきあり」の形で使われる。
[二] 外から観察することのできる、心の内面の様子、有様。
① 外からうかがうことのできる、感情の起伏。きげん。気分。
※伊勢物語(10C前)六三「三郎なりける子なん、『よき御男ぞいでこむ』とあはするに、この女、けしきいとよし」
② 心中にいだく考えを内々に示すこと。また、その考え。意中。意向。
※平中(965頃)二七「ものいひつくべきたよりなかりければ、『いかなるたよりして、気色みせむ』と思ひて」
③ 特別に目をかけること。寵愛。おぼえ。
※落窪(10C後)四「げに少し物しと思へれど、親の御けしき得給ふ人の御有様、いふべきにあらねば、うちも出でず」
[補注]中古以前の漢文体の資料はどう読んでいたか明らかではないが「続日本紀」の例は参考のため、「きしょく」の項と重複してあげた。→
きしょく。
[語誌](1)「気色」の呉音読みによる語。和文中では、はやく平安初期から用いられているが、自然界の有様や人の様子や気持を表わす語として和語化していった。
(2)鎌倉時代以降、人の気分や気持を表わす意は漢音読みの「きそく」「きしょく」に譲り、「けしき」は現在のようにもっぱら自然界の様子を表わすようになった。それによって表記も近世になって「景色」があてられるようになる。→
けしき(景色)