精選版 日本国語大辞典 「辺」の意味・読み・例文・類語
あたり【辺】
〘名〙
① 基準とする所から近い範囲。また、範囲を明確に定めないでその付近の場所をいう。その辺の場所。付近。近所。わたり。
※古事記(712)下・歌謡「わが見が欲し国は 葛城高宮 わぎへの阿多理(アタリ)」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「あたりさへすごきに板屋のかたはらに堂建てておこなへる尼の住ひいとあはれなり」
② 血縁的に近いこと。また、その人。近親。縁故。
※大鏡(12C前)三「御あたりをひろうかへりみ給御こころぶかさに」
③ おおよその目安、目当てを示す語。また、それとはっきり示さず、漠然とあるいは間接的、婉曲(えんきょく)にそれをさす。
(イ) 場所についていう。
※万葉(8C後)八・一四四六「春の野にあさる雉の妻恋ひに己が当(あたり)を人に知れつつ」
(ロ) 人についていう。
※源氏(1001‐14頃)蓬生「かかる貧しきあたりと思ひあなづりて言ひくるを」
※徒然草(1331頃)二三四「世に古りぬる事をも、おのづから聞もらすあたりもあれば」
(ハ) 時についていう。ころ。時分。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「素人口じゃア屠(しめ)て二日目あたりが最上だネ」
(ニ) 数量、程度などについていう。くらい。
(ホ) 事柄についていう。
※後裔の街(1946‐47)〈金達寿〉三「よかった、よかったと西洋映画あたりの場面だったらさしずめ頬っぺたに接吻でもしかねまじく」
へん【辺】
〘名〙
① 国と国と境を接する地帯。国境。
※続日本紀‐養老六年(722)閏四月乙丑「是以聖王立レ制、亦務実レ辺者、蓋以レ安二中国一也」 〔史記‐韓長孺伝〕
② 漠然とある場所や位置、また、その場所に住んでいる人を示していう語。ほとり。あたり。そば。付近。へ。
※加賀本竹取(9C末‐10C初)「舎人やつれ給ひて、難波のへんにおはしまして」
③ 漠然と物事の程度や目安などを示していう語。大体の程度。おおよその状況。ほど。くらい。
※咄本・醒睡笑(1628)四「何へんともなき者ども、三人つれだち」
④ 遠まわしに漠然と出来事や事実を指摘する語。
※上井覚兼日記‐天正一三年(1585)八月八日「先日凡被レ仰候石崎と徳之淵口事辺出来候」
※海底軍艦(1900)〈押川春浪〉一二「読者諸君も恐らく此辺(ヘン)の想像は付くだらう」
⑤ かぎり。はて。「一望、辺なし」
⑥ 数学で、多角形をつくっている線分。空間図形の二つの面が交わってできる線分。角をつくっている線分または半直線。〔工学字彙(1886)〕
⑦ 数学で、方程式・不等式などの関係式の両側の項。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
⑧ 囲碁で、盤面を大ざっぱに区分したとき、隅(すみ)と隅との間の部分をいう。棋譜にとった場合や対局者の位置によって、それぞれ上辺・下辺・右辺・左辺と呼ぶ。〔モダン新用語辞典(1931)〕
ほとり【辺】
〘名〙
① 物の占める空間の縁辺、末端など。
(イ) 端(はし)。はずれ。はて。辺際。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)二「亦は虚空の際(ホトリ)有ること無きが如し」
(ロ) 特に、川や海などのきわ。ふち。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「海の浜(ホトリ)に遊猟して」
② ある物の近辺。それに近いあたり。かたわら。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「州城門の首(ホトリ)の堂の上にして」
※源氏(1001‐14頃)蓬生「この宮の木立を心につけて、はなち給はせてむやと、ほとりにつきて案内し申さするを」
[補注]「あたり」が、基準となる場所も含めて付近一帯をさすのに対して、「ほとり」は、基準となるもののはずれ、ないし、その近辺をさしていう。
わたり【辺】
〘名〙
① ある場所の、そこを含めた付近。また、そこを漠然とさし示していう。その辺一帯。あたり。へん。へ。近所。
※催馬楽(7C後‐8C)山城「山城の 狛(こま)の和太利(ワタリ)の」
※伊勢物語(10C前)五「東の五条わたりにいと忍びていきけり」
② 特定の人のもとを、婉曲にさしていう。人のもと。人のところ。
※源氏(1001‐14頃)手習「かかるわたりには急ぐ物なりければ」
③ 人や、人々のことを漠然とさしていう。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「かのわたりは、かくいともむもれたる身に引きこめてやむべきけはひにも侍らねば」
④ ある時間、時刻を漠然とさしていう。
※醍醐寺文書‐(年未詳)(16C)六月一九日・僧亮淳書状「明後日わたり罷下可二申上一候」
べ【辺】
〘名〙 ⇒へ(辺)
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