精選版 日本国語大辞典 「角」の意味・読み・例文・類語
かく【角】
つの【角】
かく‐・す【角】
かく‐・い【角】
かく‐・し【角】
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有蹄類などの哺乳類の頭部に生ずる,角質または骨質の硬くて細長い突出物で,攻撃,防御などに用いられることが多いが,二次性徴と思われるものもある。中実角(ちゆうじつづの),洞角(ほらづの),枝角(えだづの)に大別できる。中実角はサイ類に見られる,中に空洞も骨質の芯もない角で,毛状の繊維(毛ではない)が固まってできていて,絶えず成長する。鼻骨ときに前頭骨の上面正中線にあたる部分に,雄雌とも1~2本生じ,一般に雄の角のほうが大きい。洞角horn coreはウシ科の動物に見られる角で,中空の角質の鞘(さや)(角鞘(かくしよう))と,頭骨につながる骨質の芯(角芯)からなり,前頭骨か頭頂骨に1対,まれに2対(ヨツヅノレイヨウ)生ずる。角鞘は,成長するにつれてその内側に新しい層が形成され,古い層は上方に押し上げられるが,抜け落ちない。洞角は,ウシ,ヌー,カモシカなどのように雄雌ともに生ずることが多いが,クーズー,ウォーターバックのように雄にしか生えないこともある。北アメリカのプロングホーンの角は洞角に酷似するが,角鞘には枝があり,毎年抜け変わる。枝角antlerはシカ科動物の雄(トナカイは例外)にだけ生える骨質の角で,普通枝分れしているためこの名がある。枝角は,皮膚で覆われた頭骨の突起(角座)に乗っていて,普通春になると接合部が崩壊して脱落する。角が落ちると,直ちに角座の先端部の皮膚が延びて,袋角(ふくろづの)を形成する。袋角は血管に富んだ軟らかい角で,ビロード状の毛を密生した皮膚で覆われている。これは,数ヵ月間急速に成長するが,カルシウムが沈着して骨のように硬くなるとともに成長が止まり,表面を覆っていた皮膚がはげ落ちて,骨状の物質だけからなる枝角になる。枝角は,一定の年齢までは生え変わるごとに大きくなり,枝の数が増えることが多いが,枝の数は栄養に大きく左右されるから,これで年齢を推定することはできない。キリンやオカピの角は,シカ類の枝角の角座に相当する。角は有蹄類以外の哺乳類では,北アメリカの中新世~鮮新世に栄えたミラガウルス(ヤマビーバーに近縁の齧歯(げつし)類)にも見られる。この角は骨質で,前頭部に1本生ずる。哺乳類以外の動物でも,頭部や頭胸部に生じた角状の突起を角と呼ぶことがある。
執筆者:今泉 吉典
角は地上の権威を象徴し,そのよりどころとなる〈力〉を表現する。兜や冠に角を飾れば,それをかぶる者の力が倍加し,知力や霊力が横溢するとも信じられた。同時に,角は生産力のシンボルとされ,コルヌコピア(豊穣(ほうじよう)の角)はその神話化の一例である。そこでは角自体が男性,内部の空洞は女性を示し,全体として両性の力の結合が表されている。これらの象徴性の起源は,古代の最も有用な家畜であった牛と豊穣をつかさどる地母神を表現した月,とくに三日月と角との結びつきにあると考えられる。突出したもの,角あるものは土地の生産力を絶やさぬ力をもつと同時に,外敵の侵入を許さぬ防御の役も果たし,土地を囲う柵や門には角やウニのとげを飾る風習が生じた。これは後に,角に代わって蹄鉄を飾る風習へ変化している。生産力や豊穣あるいは力を体現する神には角を有する例が多く,エジプトのイシスやハトホルは牛の角と日輪を頂く姿,ギリシアのパンやサテュロスも角をもつ姿で表される。オウィディウスの《転身物語》には,突然角を生じたピクスPicusが,これを王となる前兆と解釈する話がある。またユダヤ教,キリスト教,イスラム教の祭壇には神の力の象徴として角が置かれる。
他方,角は妙薬として珍重された。ギリシア・ローマ時代には,ユニコーン(一角獣)の角と誤って信じられたサイの角が,解毒剤やてんかんの治療薬として重視され,16世紀以降は鎖でつながれたイッカクの角が薬局の看板代りとなり,これを削って作った粉薬が売られた。また北方民族が古くから用いていた角杯は,毒が混入されると泡を出して解毒するといわれ,毒殺が流行した時代にはヨーロッパの王侯や貴族に広く使われた。また角は怒りの象徴に用いられることがあり,興奮し狂暴となった牛のイメージなどがここに盛りこまれているという。シェークスピア時代には寝とられ亭主は額に角を生やすといわれた。日本でも嫉妬(しつと)して怒ることを〈角を生やす〉というが,同様の連想が働いているのかも知れない。
このように角に対する関心は古くから高く,動物学的にもアリストテレスが《動物誌》において角の形態や性質について詳しく論じ,2本角をもつ獣は必ず双蹄であって,単蹄でなおかつ2本角の例はないなどの観察結果を報じている。また大プリニウスの《博物誌》には,若牛の角を四つに切り離して,4本角にするなどの施術法がすでに存在したことが述べられている。
なお日本語で角を〈つの〉とも〈かど〉とも読むように,英語のcorner(かど)とhorn(つの)はともにラテン語cornu(つの)に由来する。角は角笛を作る材料であったことから,〈笛〉の意味を併せもち,英語には〈大ぼらを吹くblow one's own horn〉などの成句がある。
執筆者:荒俣 宏
平面上に同一の端点をもつ二つの半直線が与えられたとき,平面はこれらの半直線によって二分されるが,これらの部分のおのおのを半直線上の点も含めて角という。端点を角の頂点,半直線を角の辺といい,角からその辺を除いた部分を角の内部,平面から角を除いた部分を角の外部という。二つの辺が1直線上にあって反対を向いているとき,生ずる角はこの直線の片側となるが,これを平角という。平角より大きい角を優角,小さい角を劣角という(図1)。同一の端点をもつ二つの半直線が与えられたとき,これらを辺とする角は二つあるが,これらの半直線が1直線上にないとき,それらの角の一方は劣角で,他方は優角である。多くの場合,劣角のほうを単に角という。Oを頂点とする角の1辺上に点Aがあり,他の辺上に点Bがあるとき,この角は∠AOBと表される。平角の半分の大きさの角を直角といい,∠Rで表す。直角より小さい角を鋭角,直角より大きく平角より小さい角を鈍角という。平角をその頂点からでる半直線で二分したとき生ずる二つの角を互いに他の補角といい,同様に直角を二分したとき生ずる二つの角を互いに他の余角という。直角を1/90等分したときの角の大きさを1度(記号で1°)といい,1度の1/60を1分(記号で1′),1分の1/60を1秒(記号で1″)という。これらを単位として角の大きさを測る方法を六十分法という。円周上に半径の長さの弧をとるとき,これに対する中心角は円のとり方によらず一定であるので,この角の大きさを1ラジアンradian(記号rad)または1弧度といい,これを単位とする角の大きさの測り方を弧度法という。180°=π(rad)であるので,1radは約57°17′45″である。∠AOBはまた半直線OPがOAの位置からOのまわりを回転してOBの位置に達したときにできる図形であるとみなせる。このとき,回転数に制限をつけなければいくらでも大きい角が得られ,左まわりと右まわりを区別するため,それらに応じて正,負の符号をつければ,負の角も得られる。このように回転の量と考えた角を一般角という。∠AOBの大きさがθ°ならば,これの一般角の大きさは360°×n+θ°(nは整数)の形で表せる(図2)。
2直線が交わるときに四つの角が生ずるが,向かい合った2角を互いに他の対頂角という。対頂角の大きさは等しい。平面上に2直線とそれらに交わる1直線があったとき,図3のような八つの角ができるが,このときαとα′,βとβ′,γとγ′,δとδ′を同位角といい,γとα′,δとβ′を錯角という。平行な2直線に1直線が交わったときにできる同位角や錯角は互いに相等しい。
執筆者:中岡 稔
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…有蹄類などの哺乳類の頭部に生ずる,角質または骨質の硬くて細長い突出物で,攻撃,防御などに用いられることが多いが,二次性徴と思われるものもある。中実角(ちゆうじつづの),洞角(ほらづの),枝角(えだづの)に大別できる。…
…ヨーロッパの装飾モティーフ,図案の一つ。〈豊穣の角〉と訳され,一般に花と果物に満たされた角の図柄で表される。富と安寧を象徴し,〈幸運〉〈勝利〉そして〈平和〉のおのおのの女神や河神の持物でもある。…
※「角」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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