精選版 日本国語大辞典 「後退」の意味・読み・例文・類語
あと‐ずさり【後退】
〘名〙 (「あとすさり」「あとすざり」とも)
① 前を向いたままで後ろにさがること。あとじさり。
※農具便利論(1822)中「此源五兵衛耒耜の用やうは、〈略〉あとすざりに一通りひけば、鍬をもてうち和げたるよりむらなく土も深く和らぎ」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「用心しながら退却(アトスザリ)をして」
② 思いきって行動しないで、ぐずぐずすること。ためらって消極的な態度をとること。しりごみ。逡巡(しゅんじゅん)。
※読本・椿説弓張月(1807‐11)続「人夫等は応(いらへ)も得せで、互(かたみ)に面(おもて)をあはしつつ、逡巡(アトスサリ)して立もあがらず」
③ 近世の和船が荒天の時、安全を保つためにとる処置。船尾をさきにして船首から風波をうけるようにして流される状態をいう。その際、船首から碇(いかり)をつけた綱を数条「たらし」に引かせ、方向の安定を保つ。逆艫(さかども)。
※東航紀聞(1851)「碇二頭を舳の左右へ二房綱にして、跡すさりにし」
あと‐ずさ・る【後退】
〘自ラ五(四)〙 (「あとすさる」「あとすざる」とも)
① 前を向いたままで後ろにさがる。あとじさる。
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉前「人影に気が付いてか、男も女も驚いて、後去(アトスサ)った」
② 思いきって行動しないで、ぐずぐずする。しりごみする。逡巡(しゅんじゅん)する。あとじさる。
③ 物事の程度が後退する。
※頭書大全世界国尽(1869)〈福沢諭吉〉一「仁義五常を重じて、人情厚き風なりとその名も高かく聞えしが文明開化後過去(アトスサリ)風俗次第に衰て」
あと‐じさ・る【後退】
〘自ラ五(四)〙 (「あとしざる」とも)
① =あとずさる(後退)①
※滑稽本・七偏人(1864)五「恟(びっくり)しながら後(アト)じさり」
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉三三「恐ろしい砂地である。〈略〉一足毎に後(アト)しざる様で」
② =あとずさる(後退)②
※門三味線(1895)〈斎藤緑雨〉五「未(まだ)ほんとに知らねえものと此れには困りて逡巡(アトジサ)るを」
こう‐たい【後退】
〘名〙
① 後方へ退くこと。後ろへ下がること。あとずさり。⇔前進。
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉二五「全速後退を命令して」 〔宋史‐律歴志三・応天乾元儀天暦〕
② 力や勢いが次第に衰えること。物事が好ましくない事態に向かって進むこと。
※縮図(1941)〈徳田秋声〉裏木戸「銀子の病気もそれから又少し後退した」
あと‐じさり【後退】
〘名〙 (「あとしさり」「あとしざり」とも)
① =あとずさり(後退)①
※承応神事能評判(1653)八嶋「あとしざりに退きし間」
② =あとずさり(後退)②
※書言字考節用集(1717)九「逡巡 アトシザリ」
しり‐しさり【後退】
〘名〙 (「しりじさり」とも) 前を向いたまま後ろへそろそろと退くこと。しりすさり。あとじさり。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)八「逡━は、しりしさりに退くぞ」
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