[1] 〘形動〙
[一] (副詞「なかなかに」から転じたもの)
① 中途半端で、どっちつかずのさま。不徹底であるさま。なまじっか。
※後撰(951‐953頃)恋五・九八五「葛城
(かづらき)や久米路に渡す
岩橋の中中にてもかへりぬるかな〈よみ人しらず〉」
※
源氏(1001‐14頃)藤袴「中将もなかなかなることをうちいでて、いかに思すらむと苦しきままに」
② 中途半端でよくないさま。そうでないほうがましだ。かえってよくない。かえってつらい。
※源氏(1001‐14頃)
桐壺「わが身はかなきありさまにて中中なる物思ひをぞし給」
[二] (副詞「なかなか」から転じたもの)
① 肯定できる程度であるさま。かなりよいさま。軽い評価を示す。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「Nacanacano(ナカナカノ) コトヂャ」
※去来宛芭蕉書簡‐元祿七年(1694)正月二九日「中々の出来にて候」
② ①の
用法のうち、
かんばしくない面についての評価、あるいは皮肉まじりの評価を示す場合。
※虎明本狂言・
墨塗(室町末‐近世初)「いや中々の事じゃ。あのをんなにたらされて、身がいふ事を誠にめされぬ」
※
網走まで(1910)〈
志賀直哉〉「『まだ却々
(ナカナカ)?』『ええ、却々ですからね』」
[2] 〘副〙
※後撰(951‐953頃)恋四・八七二「思ねの夢といひてもやみなまし中々なにに有としりけん〈よみ人しらず〉」
[二]
文脈から予想されたり、一般に期待されたりすることとは逆の事態を述べるときに用いる。「に」を伴うことも多い。
① 予想とは逆の結果・状況を述べる場合。かえって。むしろ。
※
蜻蛉(974頃)下「なかなかいとこころやすくて」
② 一般に期待されること、あるいは相手の考えとは逆なことを、
決断して述べるときに用いる。いっそ。→
なかなかに②。
※
日葡辞書(1603‐04)「Nacanacani
(ナカナカニ) シンダガ マシヂャ」
[三] 予想・期待されることが成立しない
現状を述べるときに用いる。打消や
否定の意味の
表現を伴う。「に」「と」を伴うことがある。とうてい。決して。どうしてもなお。容易に(…ない)。
※続
古事談(1219)二「なかなか人に云あはすることなし」
[四] 現状を肯定する場合に用いる。
① 決断や判断を強める場合。「に」を伴うこともある。たしかに。なるほど。
※
古今著聞集(1254)一六「此本鳥
(もとどり)切たりと聞ゆる男、
かまへてとらへてまゐらせよと仰られければ、承て、中々かれが
ゆかりを尋て、母の
尼公が家を暁夕暮ごとにうかがひけり」
② 肯定してよい程度に。相当に。ずいぶん。非常に。
※御伽草子・蛤の草紙(室町末)「一ぱいのみてみれば、中々かんろのあぢはひみちみちて」
[3] 〘感動〙 相手の発言の内容を肯定する時の返事のことば。その通り。もちろん。もっともだ。
※御伽草子・三人法師(室町末)「夜目に見つれども今二十二三まではよもなり給はじ、十八九の人なりと申しければ、中中と申し」