五十音図(読み)ゴジュウオンズ

デジタル大辞泉 「五十音図」の意味・読み・例文・類語

ごじゅうおん‐ず〔ゴジフオンヅ〕【五十音図】

五十音を、縦5字ずつ、横に10字ずつ配列した表。縦をぎょう、横をだんという。子音が同じものを同行に、母音が同じものを同段に配置。現代では、撥音の「ん」を末尾に示したり、濁音半濁音拗音ようおんの仮名を同様の行・段に配列して添えたりする。その起源は平安中期で、悉曇学しったんがくの影響で成立したとも、漢字音反切のために作られたものともいわれる。
[補説]五十音図
 
 
 
 
 
 
 
   
 
 

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精選版 日本国語大辞典 「五十音図」の意味・読み・例文・類語

ごじゅうおん‐ず ゴジフヅ【五十音図】

〘名〙 いろは四七字を縦五段、横一〇行のわくの中に、音韻上の性質から、子音を同じくするものを同行に、母音を同じくするものを同段に配置したもの。清音の直音音節を整理配列した、音節表と見ることができる。また、現代では、濁音、半濁音、拗音の表記を同様の行、段に配列して添えたものをもいう。
※通略延約弁(1834)(古事類苑・文学三)「さてのち顕昭法橋、仙覚律師など、五十音図にかけて古言をときけり」
[語誌](1)平安時代には単に「五音(ごいん)」といい、鎌倉時代の「悉曇輪略図抄」では「五韻十音図」といい、江戸時代初期の韻鏡刊本等には「五音拗直之図」とある。しかし、これらの時代を通じて「五音」が一般的で、近世、「五音図」とも呼ばれた。
(2)古くから仮名遣い、活用、語源などの説明に用いられてきた。平安時代中期にその起源はあり、悉曇学(しったんがく)の影響で成立したとも、漢字音の反切(はんせつ)のためにできたともいわれている。行段の順序は、当初一定していたわけではない。
(3)現存最古の音図は醍醐寺蔵「孔雀経音義(くじゃくきょうおんぎ)」に付記されたもので、寛弘元~長元元年(一〇〇四‐二八)頃成立した。「イ」「エ」はそれぞれア行とヤ行に両出し、「ウ」はア行とワ行に両出しているが、当時の音韻で両行の「イ」「ウ」「エ」に区別はなかったと見られる。「オ」と「ヲ」の発音は鎌倉時代に区別されなくなり、五十音図上で「オ」と「ヲ」とが誤って転換したものが江戸時代まで普通に用いられた。
(4)「ン」は図中に収められないが、現代では、これを張り出しわくに入れて示すことがある。最近では、ヤ行に「イ」「エ」を書き入れず、ワ行を「ワ」だけとし、または「ワイウエオ(ヲ)」のように改めたものがある。五音図。反音図。仮名反(かながえし)の図。五十連音図。五十音。

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改訂新版 世界大百科事典 「五十音図」の意味・わかりやすい解説

五十音図 (ごじゅうおんず)

仮名5字ずつ1組を縦に1行とし,横に10組をつらねた,総数50の仮名をふくむ図。古くは,ただ〈五音(ごいん)〉とか,〈五音図〉〈反音図〉〈仮名反(かながえし)〉などとよび,江戸時代になって〈五十音〉の名がおこり,和風に〈いつらのこえ〉といったり,また〈五十聯音図〉などともいった。通常は図のように右から左に進むものとして書かれる。五十音図を横書きに書くことは,古くはほとんどなかった(ローマ字横書きの書物の中では,イエズス会士ロドリゲスの《日本小文典》中の五音のような横書例はみられる)。五十音図の仮名の配置のうち,すでに早くオとヲは平安時代から,イとヰ,エとヱは室町時代に,互いに位置が入れかわった図が作られていた。発生時の正しい姿が,現在のように復古し一定したのは,浄厳,契沖,富士谷成章,本居宣長らの研究を経てからである。現在学習用や文法書の活用の説明のための図には,手が加えられているものが多く,末尾に〈ン〉(〈ん〉)をつけたのは字母表としての完全を考えたものらしいが,本来は存しない。

 五十音図の縦の5字1組を行(ぎよう)といい,横の10字1組を段(だん)または列(れつ)とよぶ。各行各段は,その頭初の字を上につけてア行カ行サ行,ア段イ段ウ段とよぶ。用いられる仮名のひとそろいは,万葉仮名平仮名片仮名どれでも,実例がある。起源に即してみると片仮名が多く,現代の実用では平仮名が多くなっているが,〈いろは〉は平仮名,〈五十音〉は片仮名というのが従来の常識であった。登録される仮名の字種は〈いろは〉と同じく,47個で,そのうちイ・ウ・エは,いずれも2度あらわれて,延べで50個である。ほぼ全部の仮名の字種が一定の配列をもって並んでいる点で,字母表の一種であり,明治以後は〈いろは〉にとって代わって,アルファベットとほぼ同じような実用的な有用性を活用されている。いわゆる五十音順(アイウエオ順)がそれで,右から左に1行1行追ってとなえる順を用い,ア段イ段ウ段と横に行く順を用いることはほとんどない。

 この五十音図は,日本語の音節表として見られることもあるが,十分なものではなく,いわゆる濁音・半濁音・拗(よう)音・促(そく)音・撥(はつ)音については,この図のうちのどの一字も,単独で本来それらを十分にあらわしうる機能をもたないし,現代語音ではエとヱ・イとヰ・オとヲの3対は,互いに音の区別を反映していない。しかし,この伝統的な五十音図の拡充という方法によって,日本語の音節表が作成されることが多いのは,その組織が,字の発音の共通性に従って,縦横に整備しているからで,古来,語源,語釈,てにをは,仮名遣い,活用など国語の研究において尊重された歴史的事実と照応するが,さらにこの図の発生,伝承,実用の沿革が有用性をよく物語る。現存最古の図は醍醐寺蔵の《孔雀経音義(くじやくきようおんぎ)》に見えるもので11世紀初めのものであるが,その起源について悉曇(しつたん)から出たという説(大矢透),国語のために作られたのではなく,外国語学ことに漢字音の反切はんせつ)のために作られたとする説(橋本進吉),儒家に端を発し,反音を簡明に示すために仮名を用いた図が,日本の語音の組織を明らかにするに足るものに発展したとする説(山田孝雄),悉曇反音を理解しやすくするために悉曇章のひな形を示すものとして作ったとする説(小西甚一)などがあるが,発生の契機や,その後の整備の目的とか暗示,また実用例の多様性を考えると,作者を吉備真備(きびのまきび)個人に帰する伝説が疑わしいことは当然にしても,現存の資料だけからは,決定的な断案が下されない。とにかく,古い図では,行・段の順がまちまちであり,悉曇の母音,子音の順に暗示を得た整理の事実は判然としているが,根底に漢字音や国語の音についての省察が存したことも疑うことができない。
仮名 →国語学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「五十音図」の意味・わかりやすい解説

五十音図
ごじゅうおんず

50字の仮名を、縦に5字ずつ10行に並べた図表。

 古くは「五音」「五音五位之次第」などともよばれた。また、縦の5字を「行」といい、横の10字を「段(または列)」という。古くは片仮名や万葉仮名で書かれるのが例であったが、近年では平仮名で書かれることも多い。

 五十音図は、原理としては、それぞれの仮名の発音のうち、子音要素の共通するものを行に、母音要素の共通するものを段にまとめたものである。したがって、本来は50の異なった発音を示しているべきであるが、現在では同音となって区別のないものも多く(イとヰなど)、音節の一覧表としては不十分なものとなっている。また、古くさかのぼっても、ヤ行のイ、ワ行のウなどは、ア行のものと別の音韻として存在したことは確かめられていない。しかし、日本語における各種の音韻変化や、活用形にみられる音韻交替(あ―あがさ、書ない、書ます等)を説明する表としてきわめて便利なものであり、現在でもヤ行・ワ行を改編した形で学校教育を中心として広く用いられている。さらに、仮名をすべて含んでいて体系的で記憶しやすいことから、辞典・名簿などで語の配列の基準(五十音順)として用いられている。

 現存する最古の五十音図は、醍醐(だいご)寺蔵の『孔雀(くじゃく)経音義』(平安時代末期写)に付記されたものである。これは行も段も現行の順序とは異なり「キコカケク」から始まっている。このように、古い時代のものは配列の順序が一定せず、現在の形に一定したのは南北朝時代以降のことである。なお、現在の順序は明らかに悉曇(しったん)章(サンスクリットの字母表)に基づくものであるが、五十音図の起源自体は、むしろ日本語の音韻表あるいは漢字音の反切(はんせつ)の便宜のためにつくられたものとみられている。成立年代は平安時代の初期であり、おそらく僧侶(そうりょ)の学問研究の世界で生まれたものであろう。

[近藤泰弘]

『大矢透著『音図及手習詞歌考』(1918・大日本図書/復刻版・1969・勉誠社)』『山田孝雄著『五十音図の歴史』(1938・宝文館)』『橋本進吉著『国語音韻の研究』(1950・岩波書店)』『馬淵和夫著『日本韻学史の研究』(1963・日本学術振興会)』


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百科事典マイペディア 「五十音図」の意味・わかりやすい解説

五十音図【ごじゅうおんず】

日本語の音節表の一種。古くは五音(ごいん),五音図とも称し,片仮名の場合が多かった。縦に5字ずつ,横に10字ずつ,計50字を収めた表。イ・ウ・エの3字は2度あらわれるので実質は47字。後に拗音(ようおん)や濁音を書き加えることもある。横の列(段)に同じ母音の音節を配し,縦の行に同じ子音または類似の子音を有する音節を配する。現存最古の音図は《孔雀経音義》に付載された11世紀初めごろの書写のもので,キコカケク・シソサセスのように,行も段も今とは異なっていた。現今の形は悉曇(しったん)の字母の順に従って整理したもので,鎌倉時代から見えるが,それ以後も不統一だった。ことにアイウエヲ・ワヰウヱオと誤った形が長く行われ,江戸中期に至って訂正された。五十音図の作られた目的については諸説あるが,仮名反(かながえし)(漢字の反切(はんせつ)を仮名によって解く法)のためとみる説が有力である。古くは音韻学の書にのみ見え,語の配列順に使用されたのは《温故知新書》(1484年成立)が最初であり,一般に普及したのは明治以後である。末尾に〈ン〉を加えるのは学習に便なため。→いろは歌
→関連項目濁音

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「五十音図」の意味・わかりやすい解説

五十音図
ごじゅうおんず

日本語のモーラを列挙表示した図。かな書き (かつては片仮名 ) であるが,縦に同一ないし類似の子音をもったもの同士を並べて「行 (ぎょう) 」 (ア行など 10行) と呼び,横に同一の母音をもったもの同士を並べて「段」 (ア段など5段) または「列」と呼ぶ。現代日本語からみると,いわゆる濁音,半濁音,拗音,撥音,促音が欠けていたり,同音の重複がある (ただし,新しくこれらの点を調整した表もあり,それも五十音図と呼ぶ) が,過去のある時代ではもっと音韻組織に合うものであったとみられる。しかし,現代語でも,活用などの形態音韻論的現象を説明するうえに便利である。また,この配列順 (五十音順) は現代の辞書・索引などの配列基準となっている。起源については,諸説があり,不明であるが,漢字の反切からとする説が有力で,悉曇 (しったん) の影響で現行の配列順序となったものと考えられる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「五十音図」の解説

五十音図
ごじゅうおんず

日本語の字母表。「いろは」47字からなり,イ・ウ・エがそれぞれ2カ所に重複する。縦の段を行,横の段を列・段という。同じ母音の音節を横に,類似の子音の音節を縦に並べてある。古くは五音・五音図・五重聯・五十連音などといった。10世紀頃の成立とされ,醍醐寺蔵本「孔雀経音義」の巻末に「キコカケク,シソサセス,チトタテツ,イヨヤエユ,ミモマメム,ヒホハヘフ・ヰヲワヱウ,リロラレル」が記されている。現存最古の完全な文献は「金光明最勝王経音義」(1079成立)である。明治初期に「いろは」のかわりに字母表としての地位を確立した。辞書などの見出し語の配列の基準として用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内の五十音図の言及

【国語学】より

…それらは,直接,明治の国語学に摂取されて,その実質を形づくっている。
[国学以前]
 今日の五十音図の原形は,平安時代の中期から後期にかけて作られたと思われる。これは,それ自体,日本語の音韻組織を明らかにしたものであるとともに,いろいろと,後世まで,国語研究の基礎として利用された。…

※「五十音図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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