精選版 日本国語大辞典 「ゆ」の意味・読み・例文・類語

〘助動〙 (活用は「え・え・ゆ・ゆる・ゆれ・◯」四段・ラ変動詞の未然形に付く) 自発・受身・可能の助動詞中古の「る」に当たる。
① 自発。ある動作が自然に行なわれること、無意識的にある行為をしてしまうことを表わす。
万葉(8C後)五・八五三「漁りする海人の子どもと人は言へど見るに知ら延(エ)ぬうまひとの子と」
② 受身。他から動作を受ける意を表わす。動作の受け手(「ゆ」が付いた動詞に対する主語)は、人間・動物など有情のものであるのがふつうで、また、その動作を受けることによって、被害や迷惑、または恩恵などを受ける意味をも含むことが多い。動作の行ない手は、「…に」の形で表現される例が多い。
※万葉(8C後)五・八〇四「手束杖(たつかづゑ) 腰にたがねて か行けば 人に厭(いと)は延(エ) かく行けば 人に憎ま延(エ)
③ (打消の助動詞を伴って) 不可能の意を表わす。
書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡「山越えて海渡るともおもしろき今城のうちは忘ら庾(ユ)ましじ」
[語誌](1)「らゆ」とともに、中古以降の「る」━「らる」に対応する。ただし、上代にも「る」の例は少数ある。命令形は現われない。
(2)語源上、「見ゆ」「燃ゆ」「消ゆ」「絶ゆ」など、いわゆる他動詞を対応形にもつヤ行下二段動詞の語尾と同じもので、作用を自然に発動する変化またはその状態としてとらえるのが原義と考えられる。それが、「見ゆ」にも「人に見ゆ」(見られる意)などの用法のあるように、受身の意味を明らかにするために用いられ、一方、否定を伴うと、不可能の意を示すことになった。
(3)四段活用動詞の未然形に付くものを助動詞として取り扱うが、「思ふ」「聞く」に付いた場合のように、早く「思ほゆ」(さらに「おぼゆ」)「聞こゆ」となって、一動詞の語尾として扱われるものがある。
(4)上一段活用動詞「射る」について、「射ゆ」の受身用法の例があり、これを普通に助動詞の「ゆ」と説く。「書紀‐斉明四年五月・歌謡」の「射喩(ユ)(しし)を認(つな)ぐ川上(かはへ)若草の若くありきと我が思(も)はなくに」や「万葉‐三八七四」の「所射(いゆ)鹿を認ぐ川辺のにこ草の身の若かへにさ寝し子らはも」など。そのほか枕詞に用いた「所射(いゆ)ししの」もある。これらはすべて「ゆ」の形を連体法に用いており、しかも「しし」につづく固定的な表現であるが、「見ゆ」に合わせて、古くは上一段動詞にも「ゆ」が付いたとすることができよう。
(5)中古には、漢文訓読に「地蔵十輪経元慶七年点‐七」の「当来に有ら所(エ)む罪咎を防護すべし」のように、多少引き継がれ、また、「あらゆる」「いはゆる」のように連体詞として固定したものが後世まで用いられたほかは、一般に「る」に代わった。なお、ラ変動詞「あり」に付くのは、漢文の「所有」の訓読のために生じた語法か。

〘格助〙 (体言または体言に準ずるものを受けて「より」と同様に用いられる上代語)
① 動作・作用の起点を示す。時間的な場合と空間的な場合とがある。
※書紀(720)景行一七年三月・歌謡「はしきよし 我家の方(ユ) 雲居立ち来(く)も」
② 動作の行なわれる場所・経由地を示す。時間的・空間的・抽象的な用法がある。
※書紀(720)神武即位前・歌謡「伊那佐の山の 木の間(ユ)も いゆきまもらひ」
③ 動作の手段を示す。
※万葉(8C後)一四・三三九六「小筑波のしげき木の間よ立つ鳥の目(ユ)か汝(な)を見むさ寝ざらなくに」
④ 比較の基準を示す。
※万葉(8C後)九・一七五三「うちなびく 春見まし(ゆ)は 夏草の しげきはあれど」
[補注]「書紀‐歌謡」と「万葉集」に用例が見られるのみである。語源に関しては格助詞「ゆり」の語誌を参照。

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デジタル大辞泉 「ゆ」の意味・読み・例文・類語

ゆ[格助]

[格助]《上代語》名詞に付く。
動作・作用の起点を表す。…から。
「朝にに見まく欲りするその玉をいかにせばかも手―れずあらむ」〈・四〇三〉
動作の移動・経由する場所を表す。…を通って。
「川沿ひの岡辺をかへの道―昨日こそ我が越えしか」〈・一七五一〉
比較の基準を表す。…に比べて。…より。
「衣手葦毛あしげの馬のいなく声心あれかも常―に鳴く」〈・三三二八〉
動作の手段・方法を表す。…によって。…で。→ゆりより
小筑波をづくはの繁きの間よ立つ鳥の目―かを見むさ寝ざらなくに」〈・三三九六〉

ゆ[助動]

[助動][え|え|ゆ|ゆる|ゆれ|○]《上代語》四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
受け身の意を表す。…れる。
「手束杖腰にたがねてか行けば人にいとかく行けば人に憎ま」〈・八〇四〉
可能の意を表す。…ことができる。
「日な曇り碓氷うすひの坂を越えしだにいもが恋ひしく忘らぬかも」〈・四四〇七〉
自発の意を表す。自然に…となる。→らゆ
「大君の継ぎてすらし高円たかまとの野辺見るごとにのみし泣か」〈・四五一〇〉
[補説]「る」に先行する助動詞。2の意味で用いられるときは、打消しの語を伴い、不可能の意を表すことが多い。平安時代以降は「る」が使われたが、「聞かゆ」「思はゆ」などは音変化して一語化し、「聞こゆ」「おもほゆ」(さらに転じて「おぼゆ」)の形で用いられた。平安時代以降では、連体詞「あらゆる」「いわゆる」などに連体形「ゆる」の形をとどめている。

ゆ[五十音]

五十音図ヤ行の第3音。硬口蓋と前舌との間を狭めて発する半母音[j]と母音[u]とから成る音節。[ju]
平仮名「ゆ」は「由」の草体から。片仮名「ユ」は「由」の末2画の変形によるもの。
[補説]「ゆ」は、また、「きゅ」「しゅ」「ちゅ」などの拗音の音節を表すのに、「き」「し」「ち」などの仮名とともに用いられる。現代仮名遣いでは拗音の「ゆ」は、なるべく小書きにすることになっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゆ」の意味・わかりやすい解説

五十音図第8行第3段の仮名で、平仮名の「ゆ」は「由」の草体から、片仮名の「ユ」は「由」の終画からできたものである。万葉仮名では「由、遊、喩、愈、瑜、踰、臾(以上音仮名)、湯(訓仮名)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(由)」「(遊)」「(游)」などがある。

 音韻的には/ju/で、舌面と歯茎硬口蓋こうがいとを狭めて発する摩擦音[j]を子音にもつ(母音の[i]と非常に近い音なので半母音ともいう)。

[上野和昭]

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