精選版 日本国語大辞典 「ゆ」の意味・読み・例文・類語
ゆ
① 自発。ある動作が自然に行なわれること、無意識的にある行為をしてしまうことを表わす。
② 受身。他から動作を受ける意を表わす。動作の受け手(「ゆ」が付いた動詞に対する主語)は、人間・動物など有情のものであるのがふつうで、また、その動作を受けることによって、被害や迷惑、または恩恵などを受ける意味をも含むことが多い。動作の行ない手は、「…に」の形で表現される例が多い。
※万葉(8C後)五・八〇四「手束杖(たつかづゑ) 腰にたがねて か行けば 人に厭(いと)は延(エ) かく行けば 人に憎ま延(エ)」
③ (打消の助動詞を伴って) 不可能の意を表わす。
[語誌](1)「らゆ」とともに、中古以降の「る」━「らる」に対応する。ただし、上代にも「る」の例は少数ある。命令形は現われない。
(2)語源上、「見ゆ」「燃ゆ」「消ゆ」「絶ゆ」など、いわゆる他動詞を対応形にもつヤ行下二段動詞の語尾と同じもので、作用を自然に発動する変化またはその状態としてとらえるのが原義と考えられる。それが、「見ゆ」にも「人に見ゆ」(見られる意)などの用法のあるように、受身の意味を明らかにするために用いられ、一方、否定を伴うと、不可能の意を示すことになった。
(3)四段活用動詞の未然形に付くものを助動詞として取り扱うが、「思ふ」「聞く」に付いた場合のように、早く「思ほゆ」(さらに「おぼゆ」)「聞こゆ」となって、一動詞の語尾として扱われるものがある。
(4)上一段活用動詞「射る」について、「射ゆ」の受身用法の例があり、これを普通に助動詞の「ゆ」と説く。「書紀‐斉明四年五月・歌謡」の「射喩(ユ)獣(しし)を認(つな)ぐ川上(かはへ)の若草の若くありきと我が思(も)はなくに」や「万葉‐三八七四」の「所射(いゆ)鹿を認ぐ川辺のにこ草の身の若かへにさ寝し子らはも」など。そのほか枕詞に用いた「所射(いゆ)ししの」もある。これらはすべて「ゆ」の形を連体法に用いており、しかも「しし」につづく固定的な表現であるが、「見ゆ」に合わせて、古くは上一段動詞にも「ゆ」が付いたとすることができよう。
(5)中古には、漢文訓読に「地蔵十輪経元慶七年点‐七」の「当来に有ら所(エ)む罪咎を防護すべし」のように、多少引き継がれ、また、「あらゆる」「いはゆる」のように連体詞として固定したものが後世まで用いられたほかは、一般に「る」に代わった。なお、ラ変動詞「あり」に付くのは、漢文の「所有」の訓読のために生じた語法か。
(2)語源上、「見ゆ」「燃ゆ」「消ゆ」「絶ゆ」など、いわゆる他動詞を対応形にもつヤ行下二段動詞の語尾と同じもので、作用を自然に発動する変化またはその状態としてとらえるのが原義と考えられる。それが、「見ゆ」にも「人に見ゆ」(見られる意)などの用法のあるように、受身の意味を明らかにするために用いられ、一方、否定を伴うと、不可能の意を示すことになった。
(3)四段活用動詞の未然形に付くものを助動詞として取り扱うが、「思ふ」「聞く」に付いた場合のように、早く「思ほゆ」(さらに「おぼゆ」)「聞こゆ」となって、一動詞の語尾として扱われるものがある。
(4)上一段活用動詞「射る」について、「射ゆ」の受身用法の例があり、これを普通に助動詞の「ゆ」と説く。「書紀‐斉明四年五月・歌謡」の「射喩(ユ)獣(しし)を認(つな)ぐ川上(かはへ)の若草の若くありきと我が思(も)はなくに」や「万葉‐三八七四」の「所射(いゆ)鹿を認ぐ川辺のにこ草の身の若かへにさ寝し子らはも」など。そのほか枕詞に用いた「所射(いゆ)ししの」もある。これらはすべて「ゆ」の形を連体法に用いており、しかも「しし」につづく固定的な表現であるが、「見ゆ」に合わせて、古くは上一段動詞にも「ゆ」が付いたとすることができよう。
(5)中古には、漢文訓読に「地蔵十輪経元慶七年点‐七」の「当来に有ら所(エ)む罪咎を防護すべし」のように、多少引き継がれ、また、「あらゆる」「いはゆる」のように連体詞として固定したものが後世まで用いられたほかは、一般に「る」に代わった。なお、ラ変動詞「あり」に付くのは、漢文の「所有」の訓読のために生じた語法か。
ゆ
〘格助〙 (体言または体言に準ずるものを受けて「より」と同様に用いられる上代語)
① 動作・作用の起点を示す。時間的な場合と空間的な場合とがある。
※書紀(720)景行一七年三月・歌謡「はしきよし 我家の方由(ユ) 雲居立ち来(く)も」
② 動作の行なわれる場所・経由地を示す。時間的・空間的・抽象的な用法がある。
※書紀(720)神武即位前・歌謡「伊那佐の山の 木の間由(ユ)も いゆきまもらひ」
③ 動作の手段を示す。
※万葉(8C後)一四・三三九六「小筑波のしげき木の間よ立つ鳥の目由(ユ)か汝(な)を見むさ寝ざらなくに」
④ 比較の基準を示す。
※万葉(8C後)九・一七五三「うちなびく 春見まし従(ゆ)は 夏草の しげきはあれど」
[補注]「書紀‐歌謡」と「万葉集」に用例が見られるのみである。語源に関しては格助詞「ゆり」の語誌を参照。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報