(読み)エ

デジタル大辞泉 「え」の意味・読み・例文・類語

え[間助]

[間助]呼びかけの語または文末に付く。

㋐親しみを込めて問いかける意を表す。
「これからはどうしていくつもりだ―」〈二葉亭浮雲
かたきは誰でござんす―」〈浄・盛衰記
㋑親しみを込めて呼びかける意を表す。
「御新造さま―」〈人・娘節用・後〉
㋒軽い感動を表す。
「あれあれ、お姫様の見てござるぞ―」〈伎・万歳丸〉
呼びかけの意を表す。上代東国方言で、一例のみ。「よ」の転じたものか。
父母とちははいはひて待たね筑紫つくしなる水漬みづく白玉取りて来までに」〈・四三四〇〉

え[感]

[感]
驚きを感じたときに発する語。えっ。「、すごいじゃないか」
相手の言うことが理解できなかったり疑問を感じたりして、問い返すときに発する語。えっ。「、なんですか」
承諾や肯定を表すときに発する語。ええ。「、そうです」
感動や苦痛を表すときに発する語。ああ。
「―、苦しゑ」〈天智紀・歌謡〉

え[終助]

[終助]上代語》文の終わりに付く。嘆息の心持ちを表す。…なあ。…よ。
上野かみつけの佐野の茎立くくたち折りはやしあれは待たむ―今年来ずとも」〈・三四〇六〉

え[五十音]

五十音図ア行の第4音。五母音の一。前舌の半閉母音。[e]
平仮名「え」は「衣」の草体から。片仮名「エ」は「江」のつくり
[補説]五十音図ヤ行の第4音としても重出。ただし、平安初期までは、ア行のエにあたるもの(発音[e])とヤ行のエにあたるもの(発音[je])とには発音上の区別があった。

え[接頭]

[接頭]名詞に付いて、愛すべき、いとしい、の意を表す。
「あなにやし―をとめを」〈・上〉

え[助詞]

[助][助詞]

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精選版 日本国語大辞典 「え」の意味・読み・例文・類語

〘感動〙
① 嘆息、苦痛などを表わす時にいうことば。ああ。
書紀(720)天智一〇年一二月・歌謡「鮎こそは 島辺も良き 愛(エ)苦しゑ 水葱(なぎ)の本 芹(せり)の本 吾は苦しゑ」
② 呼び掛ける時に言うことば。
※洒落本・遊子方言(1770)発端「『どこへ、つけますゑ申』『そんなら山本の、さん橋へつけろ』」
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)三「ヱモシ若旦那」
③ 意外なことに驚いたり、聞き返したりする時にいうことば。
浄瑠璃・狭夜衣鴛鴦剣翅(1739)四「そいたくば此一こしをやるほどに、しうとうりうのくびをとれ。ゑ。いやさこりゃ、ぢいにもせよおやにもせよ、どふでたすからぬ命」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「『コウこりゃア何だ』『狸餠』『ヱ狐色だぜ』」
④ 言いよどむ時、つなぎにいうことば。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)二「『なんだネ』『ヱ。何さ。あすこの小僧火鉢の火をふきながら、貧乏震(びんばうゆすり)をしてゐると』」
⑤ 人に呼ばれて返事をする時にいうことば。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「『お兄(あに)イさん』『ヱ』」
⑥ 承諾、肯定を表わす返事のことば。
魔風恋風(1903)〈小杉天外〉後「『手紙を遣ったってぢゃ無いか?』『然(エ)、それは遣ったけれど』」

(上代の助動詞「ゆ」の未然形連用形)
自発の意を示す。
万葉(8C後)五・八八〇「あまざかる鄙(ひな)に五年(いつとせ)住まひつつ都の手ぶり忘ら延(エ)にけり」
② 受身の意を示す。
※万葉(8C後)五・八〇四「手束杖 腰にたがねて か行けば 人に厭(いと)は延(エ) かく行けば 人に憎ま延(エ) 老男(およしを)は かくのみならし」
③ 可能の意を示す。
※万葉(8C後)五・八五三「漁(あさり)する海人(あま)の子等(ども)と人はいへど見るに知ら延(エ)貴人(うまひと)の子と」

〘間投助〙
① 中央語の「よ」に相当する上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四三四〇「父母江()斎ひて待たね筑紫なる水漬く白玉取りて来までに」
文中の呼び掛けの語、あるいは連用語に付き、また文末に用いて聞き手に働きかける。近世以後の用法。現在、京都女性語。
※浄瑠璃・曾我会稽山(1718)四「もうわかれんす、其中
※咄本・春袋(1777)吸物「何か小さなさかな。是は骨沢山のやうすと、こそと女郎に聞やした。『ソレカ。生の白すぼしさ』」

え【役・

〘名〙 (「え」は元来ヤ行のエ) 古代、朝廷が人民に課した労役。えだち。「えつき(役調)」「えよほろ(役丁)」のように、多く他の語と複合した形で用いられる。
※観智院本名義抄(1241)「 エタス エ」

〘接頭〙 愛すべきだ、いとしいの意を示す。
※古事記(712)上「あなにやし 愛袁登古(エをとこ)を」

〘終助〙 文の終わりに添えて嘆息の心持を表わすことば。
※書紀(720)天智一〇年一二月・歌謡「え苦し衛()」

〘格助〙 ⇒へ〔格助〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「え」の意味・わかりやすい解説

五十音図第1行第4段の仮名。平仮名の「え」は「衣」の草体から、片仮名の「エ」は「江」の旁(つくり)からできたものである。平安初期まで、ア行の「え」とヤ行の「え」/je/とが区別されていたので、万葉仮名では、ア行に「衣、依、愛、哀(以上音仮名)、榎、荏(以上訓仮名)」、ヤ行に「延、叡、曳、要(以上音仮名)、兄、江、枝、吉(以上訓仮名)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(盈)」「(要)」「(江)」「(得)」などがある。音韻的には5母音の一つ/e/にあたる。東京語では、国際音声記号の[e]よりはやや口の開きが大きく[ε]に近寄る。「おねえさん」などのように、わずかながらエ段長音の引き音節部分を表す。

 古くワ行の「ゑ」「ヱ」は別音で、/we/を表した仮名であり、「ゑ」は「恵」の草体から、「ヱ」も「恵」の草体の終画かといわれる。万葉仮名では「恵、慧、衛、廻(以上音仮名)、画、咲(以上訓仮名)」などが使われ、ほかに草仮名としては「(衛)」「(慧)」などがある。

[上野和昭]

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