〘形口〙 わる・し 〘形ク〙 本来「いい(よい)」「よろしい」などに対して、適切でない、劣っているなどの消極的意味をもつ。上代には「あし」があるが、「わるし」は「わろし」とともに平安時代に入って例を見るようになり、さらに口語としては「わるい」が一般化した。
① あるべき状態でない。
(イ) 不適切である。不都合である。また、好ましくない。感心しない。いけない。「口がわるい」
※枕(10C終)二四「宮仕する人を、あはあはしうわるきことにいひおもひたる男などこそ、いとにくけれ」
※羽なければ(1975)〈小田実〉二八「だんだん寒うなって来て、老人にはわるい季節ですわ」
(ロ) 道徳上よくない。社会的な通念、道に反する。また、性質がよくない。
※寛永七年刊本大学抄(16C前)「桀紂がわるい事をする程に天下の民も暴虐をする也」
(ハ) めでたくない。運にめぐまれない。不吉である。「日がわるい」「わるい知らせ」
※枕(10C終)九〇「宮の五節いださせ給ふに〈略〉女御・御息所の御方の人いだすをば、わるきことにすると聞くを」
② 価値や品質、機能、成績などの程度が低い。
(イ) 上等でない。十分そなわっていない。「頭がわるい」「質がわるい」「安かろうわるかろう」
※京大本臨済録抄「木塔禅は老婆のこせついたやうな禅でわるいぞ」
(ロ) 地位や身分、生活程度が低い。
※古今(905‐914)雑下・九九四・左注「この女おやもなくなりて、家もわるくなり行くあひだに」
※虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初)「いのちをうしなふとも、みめわるふなる事は、めいわくでござる」
③ 気持がよくない。快くない。不愉快である。
※蜻蛉(974頃)下「わるく聞えさする、御気色もかかり」
④ 期待される状態でない。のぞましくない。
(イ) 食べ物がいたんでいる状態である。「冷蔵庫に入れ忘れたこのサラダはわるくなってしまった」
(ロ) 病気や故障が望ましくない状態・程度である。
(ハ) 活気がない。劣勢である。
※伊豆の踊子(1926)〈
川端康成〉三「『これぢゃ仕方がありません。投げですよ』『そんなことがあるもんですか。私の方が悪いでせう〈略〉』」
(ニ) 取引市場で用いる語。相場が下がって活気がない。〔取引所用語字彙(1917)〕
⑤ 間柄がうまくいっていない。むつまじくない。「二国間の関係が悪くなる」「仲が悪い」
⑥ 好ましくない結果をまねく。ためにならない。
(イ) 不都合を起こした原因である。「夕べの飲み過ぎがわるかった」「この状況は政治が悪い」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四「母が恩ある家へ対して、済ぬのなんのと
得手勝手、みんなわたしがわるかった」
(ロ) 申し訳ない。相済まない。「わるいけど、このコピーをとってください」
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)初「大人しい息子を、唆のかしちゃア悪(ワル)いと思って」
⑦ 善意でない。悪意がある。「意地が悪い」
※浮雲(1887‐89)〈
二葉亭四迷〉三「おねがひ申して置くンですよ。わるくお聞きなすっちゃアいけないよ」
⑧ やり方や程度が適切でない。
(イ) やり方が下手である。上手でない。
※浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)上「わるい工面な為され様」
(ロ) 配慮が十分でない。丁寧でない。ぞんざいである。
※洒落本・
傾城買二筋道(1798)冬の床「意地にかかってわるくしなんすが、ついぞはらをたちなんした事もなく」
(ハ) 度が過ぎる。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「おきやアがれ。悪(ワル)くおりるぜへ」
わる‐が・る
〘他ラ五(四)〙
わる‐げ
〘形動〙
わる‐さ
〘名〙