〘名〙 (形動) (「片輪」は、
発音による
あて字)
① 不完全であること。欠点があるさま。また、不十分な点。欠点。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「京にみ給ふるに、ひとの御らんぜんもことなるかたはなき女などは、おほかるものにこそあめれ」
※能因本枕(10C終)七七「露のくせ、かたはなくて、かたち心ありさまもすぐれて、世にあるほど、いささかのきずなき人」
② 肉体的、または精神的、知能的に、一部、障害をもっていること。また、その人。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「いぶかしさに、さいつころ、おとどのうちにものし給しころ、みにものしたりしかど、さらに見せ給はず。なにしにかは。かたはやつきたる」
※
太平記(14C後)二五「生れ給ひし後、三年迄御足立たずして、片輪
(カタワ)に坐
(おは)せしかば」
③ 見苦しい様子。不都合でよくないこと。けしからぬこと。
※伊勢物語(10C前)六五「をとこ、女方ゆるされたりければ、女のある所に来て向ひ居りければ、女、『いとかたはなり。身もほろびなん。かくなせそ』といひければ」
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「やんごとなき人おほく候給ふとて、この人たちのはかなくてまじらひ給はん、かたはにはこそあなれ」
④ 不体裁できまりが悪いこと。みっともないさま。
※蜻蛉(974頃)上「『いとかたわなるほどになりぬ』などいそげば、『なにか、いまは粥などまゐりて』とあるほどに、昼になりぬ」
※宇津保(970‐999頃)内侍督「あな苦し。ことやうなる参りかな。さる心も思はぬものを。かたはなるめををも見るかな」
⑤ (多く「かたはなるまで」の形で用いる) 常軌を逸したさま。異常。度はずれていて不体裁であるさま。
※枕(10C終)三一五「なほつねにものなげかしく、世の中心にあはぬ心地して、すきずきしき心ぞ、かたはなるまであ
べき」
⑥ 考え方などがかたよっていること。つりあいがとれていないさま。
※読本・雨月物語(1776)貧福論「此士いと偏固(かたわ)なる事あり。富貴をねがふ心常の武扁(ぶへん)にひとしからず」
[
補注]
カタは不完全、不十分の意。
類例に「かたおび」「かたこと」「かたとき」「かたなり」などがある。ハは「はし(端)」の意で、
間人(はしひと)皇女〔
書紀‐舒明天皇二年正月〕の「間」の例、また「
万葉‐三四〇八」の「新田山ねにはつかな
なわによそり波之
(ハシ)なる子らしあやにかなしも」に見られる例などから、「はし」にも中ほど、
中途半端の意があり、「かた」「は」でどっちつかず、十分でない
状態を意味する。