日本大百科全書(ニッポニカ) 「当て字」の意味・わかりやすい解説
当て字
あてじ
日本語を表記する際に、その語と意味のうえで直接関係のない漢字の和訓や字音を借用する用法、またはその漢字をいう。「宛字」とも書く。本来、漢字を用いて日本語を書き表すには、「やま―山」「たに―谷」のように、意味上の対応関係をもつ漢字を使うのが通常であるが、対応する漢字がない場合に、便宜的にある漢字の音や訓を借りて書き記し、さらに和語以外の外来語、外国語の表記にも及んだ。これが「当て字」である。
これには、広く社会に認められた慣用的な表記と、個人的な臨時の表記(しばしば「誤字」とされる)を含む。前者には亜細亜(アジア)、仏蘭西(フランス)、珈琲(コーヒー)のように外来語や外国の固有名詞を漢字の音を借用して表記したもの、素敵(すてき)、兎角(とかく)のように漢字音を借りて和語を記すもの、背広(せびろ)のように漢字の和訓を借用して外来語を表記するもの、矢張(やはり)、出鱈目(でたらめ)のように漢字の和訓を借用して和語を表記するものなどがあり、実際には型録(カタログ)のように、これらの用法が組み合わされることも多い。このほか、五月雨(さみだれ)、紅葉(もみじ)のように和語一語を漢字2字また3字で表記するもの(熟字訓)や、選考、世論のように、当用漢字(現在は常用漢字)の施行に伴って書き換えられた(銓衡(せんこう)、輿論(よろん)から)ものも当て字とされることが多い。
[月本雅幸]
『亀井孝・大藤時彦・山田俊雄編『日本語の歴史』7巻・別巻(1963~1966・平凡社)』