〘名〙 (動詞「おくる(送)」の連用形の名詞化)
① 品物などを先方に届くようにすること。
② 去って行く人などを、ある所まで見守ってついて行くこと。見送りや護送。また、その人。
※竹取(9C末‐10C初)「仕うまつるべき人人みな難波まで御送りしける」
③ 死者を守って墓所まで行くこと。死者を送っていくこと。葬送。
※落窪(10C後)四「御忌なき日とて、三日といふに、をさめ奉り給ふ。大将殿御おくりに、四位五位いと多く歩みつづきたり」
⑥ 謡曲で、八個の拍を一連とする基本型に対して、二拍を一連とする拍子をいう。
⑦ (七五の句の途中から、次の場へ節
(ふし)を送る、または登場人物を送るところから)
浄瑠璃で、場面の終わり、変わり目、人物の
出入りなどの時につける節。
浄瑠璃本では普通、
片仮名で「ヲクリ」と表示される。
※浄瑠璃・八百屋お七(1731頃か)上「中に立たる御師匠の ヲクリ 心
遣ぞ殊勝なる」
⑧
歌舞伎で、俳優が舞台から引っ込むときなどにうたわれる下座唄
(げざうた)。おくり唄。
※歌舞伎・天満宮菜種御供(1777)八「送りになって、白太夫・輝国・小磯こなしあって、皆々引連れ奥へ入る」
⑨ 歌舞伎で、下座
(げざ)の
鳴り物の一つ。鳴らす鐘の最初の音(鐘の頭
(かしら))に続いて打ち鳴らすもの。
幕切れ、道具替わり、引っ込みなどに多く用いる。送り鐘。
※歌舞伎・高麗大和皇白浪(1809)四立「『行け』『
合点だ』と捨て鐘の送
(オク)りにて、向うへ追ひ駈け入
(はひ)る」
⑩
遊女屋で、前の客が遊女をあげて遊べる時間の
余りを次の客が引き継ぐこと。
※洒落本・通言総籬(1787)二「松さんはかへりしたが太兵衛どんがをくりにしてやろふから、でろとって」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「
勘定を供の男にさせ〈箱持にはあらずおくりなり〉」
⑫ (芸娼妓の
送り迎えの料とするところから) 遊里吉原の
茶屋で、酒肴
(しゅこう)の費用。
※
随筆・
守貞漫稿(1837‐53)二〇「酒肴の価を号けて送りと云。
妓院の送迎の料とする也」
⑬ (俳優の
楽屋の出入りにつき従うところから) 俳優の供をする者。
⑭ 遊里で、遊客を遊女屋へつれていくこと。また、その人。
※
冷笑(1909‐10)〈永井荷風〉四「茶屋の送りと云ふ職務上から」
※歌舞伎・
島鵆月白浪(1881)五幕「三日と立たず捕へられ、送
(オク)りになったら賊と違って、人を殺せば
斬罪の
処刑は言はずと知れたこと」
※
当世商人気質(1886)〈
饗庭篁村〉五「何とか片名
(かたな)のあるスリとの事に、直ちに其筋へ送りになりしが」
⑰ 物事を次へ回すこと。活字を前や後の行へ移すこと。「膝送り」「行送り」
⑱ 工作・印刷機械などで、機械が規則的に動くこと。また、機械が加工するものや、印刷する紙などを規則的に動かすこと。
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉一一「僕は、フト旋盤に送りをかけて、腰を下す途端に考へたんだ」