牧草(読み)ぼくそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「牧草」の意味・わかりやすい解説

牧草
ぼくそう

家畜の主要な飼料として栽培されている飼料作物には、牧草と青刈り作物が含まれ、比較的小形で群として草地栽培されるものを牧草という。イネ科、マメ科に属する草本植物が多い。牧草は、遊牧時代からよく繁茂し、家畜の好みに適することが知られていた野草を選抜、改良したものが多く、ウシ、ウマ、ヒツジなどの草食家畜にとってもっともたいせつな飼料である。

 牧草は、多くは多年生草本植物で、牧草として選抜されてきたものは再生能力が強く、1年のうち何回も刈り取られたり、放牧されたりしてもそれに耐える特性をもつ。牧草は、生育の形から、直立して草丈の高い立型と、地面を低くはう匍匐(ほふく)型に分けられる。立型は刈り取りに適し、匍匐型は家畜の踏みつけにも耐えるので放牧地に適する。すなわち、利用法の面からみれば、立型は乾草・サイレージ用の刈り取り型で、匍匐型は耕地・山地用の放牧型ということになる。牧草はさらに、発生地にしたがった生態型としては、寒冷地に適する耐寒性の強い寒地型と、夏の高温や乾燥に強く暖地に適する暖地型に区分される。

 寒地型牧草はイネ科のオーチャードグラスイタリアンライグラス、マメ科のアカクローバー、シロクローバー、アルファルファなどで、暖地型牧草にはイネ科のローズグラス、バヒアグラス、ギニアグラス、マメ科のスイートクローバー、クロタラリア、デスモディウムなどがある。牧草地や採草地には永年草のチモシー(オオアワガエリ)、オーチャードグラス、アルファルファ、シロクローバーが、畑作には一年草のイタリアンライグラス、ベッチ類が適し、アカクローバーのような短年草はそのいずれにも適する。乾草・サイレージ用にはオーチャードグラスのような立型が、放牧地にはレッドトップ、シロクローバーのような匍匐型がよく、またアルファルファのようにどちらにも適する中間型もある。

 日本で栽培される牧草のほとんどは外国起源のものである。畜産の地域的広がりに対応していくためには、地域に適した牧草新品種の育種が必要である。日本では、1950年代後半から本格的な育種が始まり、1964年(昭和39)に牧草育種体制が整備され、全国各地域に牧草育種指定試験地が設置された。65年以降、これらの指定試験地では、さらに多くの新品種が導入され、選抜と評価が行われた結果、多くの新品種が成立し、牧草品種として登録されることになった。国公立の試験場および一部の民間会社で育成された新品種は、市販用種子として海外で委託増殖され、再輸入されて国内の種苗会社を通して農家に広く供給されている。

 イネ科牧草は繊維が多く、反芻(はんすう)胃家畜の粗飼料として不可欠である。マメ科牧草はタンパク質や無機質に富む。普通は両者を混播(こんばん)栽培し、収穫もいっしょに行う。混播するとマメ科植物の根粒による窒素供給などを通して共生関係をもち、単播の場合よりも肥料が少なくて収量を増す利点もある。また、草丈の高いもの(上繁草)と低いもの(下繁草)を混播すると、土地の利用度が高くなり合理的である。牧草は傾斜地や果樹園に下草などとして栽培されることが多く、土壌保全の役割も担っている。

[西田恂子・星川清親]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「牧草」の意味・わかりやすい解説

牧草
ぼくそう
grasses

牛,馬,羊などの飼料にする草類。飼料作物のうち茎葉を飼料にするために栽培される。植物学上はイネ科とマメ科に分けられる。マメ科にはクローバー,ベッチ,アルファルファ,レンゲなど,イネ科にはオーチャードグラス,チモシー,イタリアンライグラス,メドウフェスキュなどがある。刈取って青草のまま,または干し草,サイレージとして用いられるほか,直接牧草地に家畜を放牧する場合もある。牧草栽培では,成乳牛1頭に1日あたり生草で 50~75kg,干し草で8~15kgぐらい給与するだけの量を生産する必要があり,大量の種子をマメ科,イネ科とりまぜて混播するのが普通。混播は作柄を安定させ,栄養価の高い多収穫を実現する方法として認められている。

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百科事典マイペディア 「牧草」の意味・わかりやすい解説

牧草【ぼくそう】

茎葉を家畜の飼料にする目的で草地栽培される草本(そうほん)。家畜の好む野草を品種改良してできたイネ科,マメ科のものが多い。一般に多年生牧草は放牧地,採草地に,一年生牧草は畑作や水田裏作に適する。また放牧に適した放牧型と乾草に適した刈取型とに大別。イネ科牧草にはスーダングラスイタリアンライグラスオーチャードグラスチモシーローズグラス,バーミューダグラス,ケンタッキーブルーグラスなど,マメ科牧草にはクローバーコモンベッチアルファルファレンゲソウなどがある。→飼料作物
→関連項目放牧

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精選版 日本国語大辞典 「牧草」の意味・読み・例文・類語

ぼく‐そう ‥サウ【牧草】

〘名〙 家畜の飼料用として大量に草地栽培される植物。イネ科の植物と、マメ科植物とに大別される。
※西洋聞見録(1869‐71)〈村田文夫〉前「阿爾蘭は気候温和にして甚だ牧畜に適し常に牧草鬱蒼たれば」

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デジタル大辞泉 「牧草」の意味・読み・例文・類語

ぼく‐そう〔‐サウ〕【牧草】

家畜の飼料とする草。
[類語]干し草飼い葉草本千草春草若草夏草秋草冬草枯れ草蔓草水草浮き草薬草ハーブ野草庭草雑草下草下生え山草

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世界大百科事典 第2版 「牧草」の意味・わかりやすい解説

ぼくそう【牧草 pasture plant】

葉や茎を飼料として利用する目的で栽培される,主として多年生の草本植物。牧草は,古くから家畜の飼料として用いられてきた野生の草本のうち,家畜がとくに好んで食べ,栄養価が高く,収量も多いものを選抜して改良したものである。レンゲのような緑肥作物や野草も,栄養価が高く,嗜好しこう)性もよいため,飼料として利用する目的で栽培されるときには牧草と呼ばれる。これに対し,食用となる子実植物や根菜類が粗飼料生産用に改良されたものは,牧草と区別してふつう青刈作物と呼ばれる。

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世界大百科事典内の牧草の言及

【飼料作物】より

…家畜や家禽(かきん)の餌(えさ)とするために栽培される植物。牧草や飼料用根菜類だけでなく,普通は子実やいもを人間が食用としている作物であっても,これを家畜の餌用に栽培する場合は飼料作物とされる。たとえばトウモロコシやオオムギ,ライムギ,ダイズ,サツマイモなどの子実やいもは,人類にとって重要な食糧であり,一般には食用作物として扱われるが,これらの子実やいも,茎葉を餌として与えるために栽培される場合は飼料作物として扱われる。…

【麦】より

…なぜなら,19世紀の中ごろまで,肥料は家畜の糞尿(ふんによう)であったから,家畜頭数の増加が農業生産力の発展と密接に結びついていたのである。まず,夏作物のオオムギといっしょに牧草(おもにクローバー)が混播(こんぱん)され,オオムギが刈り取られたあとはクローバー畑となる。そして,その翌年も休閑せずにそのままクローバー畑として利用された。…

※「牧草」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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