日本大百科全書(ニッポニカ) 「飼料」の意味・わかりやすい解説
飼料
しりょう
家畜、家禽(かきん)、カイコなどの飼育下の動物に対して、栄養素の供給を目的として給与するものをいう。養魚の場合には餌料(じりょう)の語を用いることもある。畜産業、養蚕業、栽培漁業における基礎的生産資材であり、わが国の畜産業において飼料費は生産費のなかばを占める。
[正田陽一]
分類
飼料はその栄養価によって濃厚飼料と粗(そ)飼料とに分類される。濃厚飼料とは繊維含量が少なく、含有エネルギーやタンパク質の多い飼料であり、粗飼料は逆に粗繊維が多くエネルギー、タンパク質の少ない飼料である。しかし粗飼料は草食動物にとっては基礎飼料として健康の維持には不可欠のもので、生理的意義は大きい。また飼料給与量の算出のために、飼料を維持飼料と生産飼料に分けて考えることもある。維持飼料とは家畜が生命を維持するだけでなんの生産も行っていない状態で必要とする飼料で、生産飼料とは泌乳、肥育、産毛、産卵、妊娠、発育、労役などの生産活動のために必要な飼料である。飼料の市場性からは自給飼料と購入飼料に分類される。このほか、対象家畜によってウシ用飼料、ブタ用飼料とか、ニワトリ用飼料をさらに幼雛(ようすう)用飼料、成鶏用飼料とかに分類する。
[正田陽一]
種類
以上の分類のうち、栄養価によるものである濃厚飼料、粗飼料、および特殊飼料に含まれる飼料の種類を次に述べる。
[正田陽一]
濃厚飼料
〔1〕種実類 コムギ、エンバク、トウモロコシなどの穀類で、エネルギー量が高くタンパク含量も普通である。ニワトリ、ブタ、ウマの飼料として重要である。
〔2〕糠(ぬか)類 穀物を精製した副産物で、米糠、麬(ふすま)、麦糠などが含まれる。米糠は油が多いので脱脂したものが用いられる。
〔3〕粕(かす)類 ダイズ、ナタネ、ゴマなどの油実から採油した残りの油粕類は一般にタンパク質の含量が高く、濃厚飼料として優れている。あまに粕、ココヤシの油粕(コプラミール)も同様である。サツマイモ、ジャガイモなどからデンプンをとった残りのデンプン粕の主成分は残存したデンプン質で、タンパク質は少ない。醸造粕(酒粕、しょうゆ粕など)、豆腐粕などはタンパク質が多く、糠類に匹敵する価値を有している。
〔4〕動物質飼料 魚粉、魚粕、フィッシュソリュブル(魚類から得た新鮮な液状物を濃縮したもの)、肉粉、血粉、羽毛粉、脱脂粉乳、乾燥ホエー(牛乳からチーズ、脱脂乳からカゼインを製造する際の残液であるホエーを乾燥したもの)などで、タンパク質給源として重要であり、植物性タンパク質では不足しがちなメチオニン、リジン、トリプトファンの含量が高い。動物性の油脂はエネルギー価が高いのでエネルギー給源として有用である。
〔5〕その他 このほか、飼料用酵母、クロレラなどもタンパク質飼料として用いられ、海藻もヨード給源として利用される。
[正田陽一]
粗飼料
〔1〕生草 野草、牧草、青刈り飼料作物がある。水分が80%と多く、飼料価値は草種、刈り取り時期、草の部分などの条件によって異なる。マメ科牧草であるクローバー、アルファルファなどは、イネ科牧草であるオーチャードグラス、チモシー、イタリアンライグラス、メドウフェスク(ヒロハノウシノケグサ)などに比べて水分、タンパク質が多いが、嗜好(しこう)性は劣る。青刈り飼料作物にはトウモロコシ、ソルガム(モロコシ)、テオシント、エンバク、ライムギ、ダイズなどがある。結実前に刈り取って植物体全部を飼料として用いる。
〔2〕根菜類 飼料用カブ、飼料用ビート、ルタバガ(カブカンラン)などの根菜類は冬季の多汁質飼料として酪農家に利用されている。
〔3〕サイレージ 生草、青刈り作物、穀実をサイロに詰めて乳酸発酵させた貯蔵飼料であり、家畜の嗜好性も高い。最近では、スチール製の気密サイロで詰め込みと取り出しが連続して可能なハーベストア(金属性のサイロ)を用いて、乾草とサイレージの中間のものとしてヘイレージをつくり、粗飼料として終年給与する酪農家も増えている。
〔4〕乾草 野草、牧草を刈り取って乾かしたもので、草食家畜の飼養上きわめて重要な飼料である。品質は材料の種類、刈り取り時期、調整法、貯蔵法で大きく異なる。
〔5〕藁稈(こうかん)類 種畜用の作物の藁稈(わら)は繊維分とくにリグニンが多く、タンパク質、ミネラルの含量が低くて栄養的に劣り、家畜の嗜好性も低い。しかし稲藁(いねわら)は、わが国の自給粗飼料の不足する地域での重要な粗飼料資源となっており、嗜好性と消化性を高めるための加工技術が開発されている。
〔6〕樹葉類 マメ科の樹葉(ニセアカシアなど)はタンパク質に富みかつ家畜も好食するので、飼肥料木として、また庇陰(ひいん)樹として、これらの樹木を利用するとよい。
[正田陽一]
加工貯蔵法
〔1〕細断・粉砕 生草、乾草、藁稈は長いままでは採食しにくく、残食などのむだが多くなるので細断する。穀実類は破砕することで消化液の作用を受けやすくなる。粉砕の程度は家畜の種、年齢、穀物の種によって異なる。
〔2〕加熱 加熱処理は微生物や酵素を壊して貯蔵性を増す。残飯を養豚飼料に用いる場合などは加熱滅菌する必要がある。反面、加熱によりタンパク質が変性したりビタミンが破壊されるおそれがある。
〔3〕水浸 穀類を粒のまま給与するときとか、乾燥ビートパルプを与えるときには、あらかじめ水に浸して柔らかくすると嗜好性を増し消化率もよくなる。
〔4〕薬品処理 藁稈類をアルカリ処理することにより消化率をよくし、飼料価値を高めることができる。
〔5〕成型 粉状の飼料(濃厚飼料、粗飼料、または両者の混合物)を固形化すると取扱いに便利であり、家畜の摂取も均一になるなどの利点があるので、ペレットに成型したり、ペレットを再度粗く砕いてクランブルとして給与することがある。乾草も圧縮成型してヘイキューブとする。
〔6〕乾草調整 生草、青刈り作物を水分含量15%以下に乾燥して貯蔵するが、刈り取り後、圃場(ほじょう)(耕作する畑)でときどき反転して天日で乾かす自然乾草と、燃料を燃やして人工的に加熱・乾燥する人工乾草がある。
〔7〕サイレージ調整 サイロの型にはタワーサイロ、トレンチサイロ、バンカーサイロなどいろいろある。原材料を水分75%ぐらいに調整し細切してサイロに詰め込み、密封して乳酸発酵させる。水分が多いと酪酸発酵がおこって品質が劣化する。初期の乳酸発酵を促進するため乳酸菌を添加したり糖蜜(とうみつ)吸着飼料を混ぜたり、乳酸、リン酸を加えて水素イオン濃度(pH)を人工的に下げたりする。
〔8〕根菜類の貯蔵 呼吸による養分の損失を防ぐため低温・低湿で蓄える。凍結すると腐敗しやすくなるので、寒冷地では注意を要する。
〔9〕濃厚飼料の貯蔵 十分乾燥したものを低温・低湿で、直射日光を避け、できれば空気に触れにくくして貯蔵する。脂肪含量の高いものには抗酸化剤を用いる。カビの種類によってはアフラトキシンのような発癌(はつがん)性のある物質や毒性物質が生産されるので十分な注意が必要である。
[正田陽一]
価値評価法
飼料の価値は主として栄養価によって決まるが、嗜好性その他も考慮しなければならない。栄養価は飼料の成分と消化率によって決定される。飼料の一般成分は水分、粗タンパク質、粗脂肪、可溶無窒素物、粗繊維、粗灰分の6成分として表される。飼料は家畜の消化管で消化され吸収されて初めて利用される。摂取された飼料の養分のうち、消化、吸収されたものの比率を消化率という。つまり摂取養分量から糞(ふん)中排出養分量を引いて吸収養分量を算出し、これを摂取養分量で割った数を100倍して%で示したものが消化率である。飼料分析によって得られた成分値に消化率を掛けたものが可消化養分である。たとえば粗タンパク質に消化率を掛けたものが可消化粗タンパク質である。飼料の栄養価を表す単位としては、熱量素としてエネルギーを供給する養分の価値を示す単位と、他成分で代替できないタンパク質の価値を示す単位とがある。
前者のエネルギーに関する価値評価法としては、飼料のエネルギー含量を可消化エネルギー、代謝エネルギー、正味エネルギーの値で評価する方法や、可消化養分総量(略称をTDNといい、可消化粗脂肪を2.25倍し可消化粗タンパクと可消化可溶無窒素物に加えた値で、飼料の可消化エネルギー含量に比例したもの)、デンプン価(略称をSVといい、飼料の体脂肪生産能力を可消化デンプンの量として評価する単位で、正味エネルギーを表す)、スカンジナビア飼料単位(略称をFUといい、オオムギ1キログラムの牛乳生産価を一単位として、飼料の代替価を示した単位)などが用いられている。
一方、タンパク質に関する価値評価法には生物価(略称をBVといい、消化吸収された窒素に対する体内保留窒素の割合)やケミカルスコア(タンパク質のアミノ酸組成を分析し、栄養評価の基準と比較算出する係数)などが広く用いられている。
そのほか、飼料エネルギーとタンパク質の比率を示す栄養比(略称をNRといい、可消化養分総量を可消化タンパク質で割った値)、カロリータンパク比(略称をCPRといい、ニワトリの飼料で用いられる値で、飼料1キログラム中の正味エネルギーを飼料のタンパク含量で割ったもの)などがある。
[正田陽一]
給与方法
家畜が栄養的に過不足なく、しかも十分に生産をあげるためには、必要な養分を定められた飼養標準によって算出し、それが供給できるように、成分の異なる種々の飼料を組み合わせて給与しなければならない。飼養標準には、家畜の体重によって必要な維持飼料の量が、また、生産量に従って生産飼料の量が定められている。飼養標準に示されている養分量は、可消化エネルギー、可消化養分総量、可消化粗タンパク質、ビタミン、ミネラルなどである。飼料の配合により適切な栄養素を供給するとともに飼料の容積も適当になるよう配慮する。反芻家畜では粗飼料を十分に与えて維持飼料をまかなっておき、不足する分や生産に従事するため余分に必要となる部分を濃厚飼料で補ってやるのが基本である。しかしブタ、ニワトリのような雑食性の家畜は、粗飼料を必要とせず、栄養比の幅が狭い濃厚飼料が必要である。この場合、単味では栄養素が偏るので、数種の濃厚飼料にミネラル飼料やビタミン飼料を混ぜた配合飼料を給与する。給与方法には、家畜の養分要求量にあわせて一定量を給飼する制限給飼法と、家畜の好きなだけ自由に採食させる不断給飼法がある。前者のほうが合理的であるが、省力管理の意味で肉畜などでは後者の方法もとられる場合がある。また強制給飼といって、1日数回一定量の練り餌(え)を強制的に食道から嗉嚢(そのう)内へ押し込む給飼法も、アヒルやガチョウの肥育時には行われる。
飼料給与の留意点としては次のようなものがある。
(1)飼料の質や給与方法を急に変えるようなことはしない。
(2)給飼器は十分に備え、個体間の闘争を引き起こさないようにする。
(3)清潔な水を常時飲めるように配慮する。
[正田陽一]
飼料と畜産経営
飼料は、家畜・家禽と並んで畜産物生産上もっとも重要な生産要素で、生産費の50%以上を占めており、その安定的確保とコスト低減を図ることが畜産経営上重要な課題となっている。
わが国の畜産は、生産資材のなかでもっとも重要な飼料を海外に依存しており、とくに飼料穀物(トウモロコシ、コウリャンなど)は、ほとんど全量をアメリカ合衆国などから輸入している(自給率1~2%)。また、飼料の利用面でも諸外国とは異なり、濃厚飼料とくに飼料穀物の利用割合が高くなっている。これは、飼料穀物の利用割合の大きい中小家畜(ニワトリ、ブタなど)の総家畜・家禽頭羽数に占める割合が多いことと、大家畜(乳牛、肉牛)も諸外国に比較して飼料穀物の利用割合が多いためである。このような穀物多消費型畜産が形成されたのは、土地に依存する度合いの少ない中小家畜の規模拡大が大きかったことと、乳牛では濃厚飼料を多給し泌乳量の増大を図ろうとしたこと、および肉牛では脂肪交雑の多い肉(霜降り肉)を生産しようとして飼料穀物を多く給与したことなどによる。
さらに、日本の畜産は、飼料穀物のみならず、粗飼料たとえば牧乾草や稲藁までも諸外国から輸入しており、粗飼料を含めた飼料の純国内産自給率は諸外国に比較して極端に低く、TDN(可消化養分総量)換算で30%強にとどまっている。このような飼料自給率の低さは、土地面積の狭隘(きょうあい)性と、輸入飼料価格が相対的に割安であったことによる。しかしながら国内飼料生産の振興が手薄なことなどから、飼料生産コストの低減が進行せず、したがって価格の不安定な輸入飼料の影響を受けるため、畜産物価格は割高かつ不安定なものとなり、ひいては畜産物の高値構造を形成し畜産物の国際競争力を弱め、国内畜産物市場は脆弱(ぜいじゃく)かつ不安定な状態となっている。このため、飼料自給度を向上させることは、畜産物生産コストの低減、畜産経営の安定化と直結するほか、国土資源の有効利用、地域農業の展開や農山村の振興を図ることとも結び付き、日本の農業上重要な課題といえる。
このほか、飼料の安全性についても、畜産経営の面から検討する必要がある。食品添加物の場合と同様、安全な畜産物を生産することが消費者に対する義務であるが、家畜・家禽の生産性を高めるために抗生物質などを多用する傾向がある。家畜・家禽に対する抗生物質など飼料添加物については、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」により一部規制はされているが、薬浸(づ)けの畜産経営から脱皮して、さらに安全な飼料による健全な畜産経営を構築することが望ましい。
[村田富夫]
『内藤元男監修『畜産大事典』(1978・養賢堂)』▽『田先威和夫・大谷勲・吉原一郎著『家畜飼養学』(1975・朝倉書店)』