日本大百科全書(ニッポニカ) 「草原」の意味・わかりやすい解説
草原
そうげん
grass land
草本を主体とし、木本植物を欠くかわずかに低木を交えるだけのさまざまの植物群落の総称。狭義にはステップやプレーリー、グレート・プレーンズ、パンパなど温帯草原のみをさすが、広義には熱帯のサバンナや、ツンドラ、高山草原など樹木の生育困難な寒冷地域に出現する草原、さらには西ヨーロッパの牧野のような人為的につくられた草原も含む。温帯草原は草原の代表的なもので、いわゆる草原気候(ステップ気候)下に出現する。これは、森林が成立するほどの雨量はないが、砂漠ほどは乾燥しないという気候で、湿潤地域とは乾燥限界、砂漠とは乾燥限界の年降水量の半分(砂漠限界)をもって境とされる。温帯草原では草本類から多量の腐植が供給されるため肥沃(ひよく)な土壌(チェルノゼム、プレーリー土、栗色(くりいろ)土)が形成されている。雨量が少なく、地下水面が深いという欠点はあるが、世界的には農耕地化されて穀倉地帯となっている所が多く、アメリカ合衆国やオーストラリアのように商業的な牧畜地帯となった所も多い。熱帯サバンナやツンドラ、高山草原は、これと比べると土地利用は遅れており、一部を除き遊牧に利用されているだけにすぎない。
[小泉武栄]
生態学上の草原
草本植物が密生し、木本植物が少ないか、あるいはまったく存在しない群落。多くの草原群落ではイネ科草本植物が量的に優勢である。自然には、普通、乾燥や低温などのため森林が成立しないような地域に成立する。温帯草原(ステップ、プレーリー)は、大陸内部の冬が寒冷で夏に乾燥する地域に広がる。熱帯で一定の乾期をもつ地域には、多少の樹木を混生する熱帯草原(サバンナ)が発達する。両者の面積をあわせると約2400万平方キロメートル、陸地面積の約16%を占める。このほか、低温の地(高山草原)や過湿の地(湿原)にも草原群落は成立する。
森林気候の地域にも人工草原(牧草地)や、半人工的に成立し、維持される草原が多い。日本の山野にみられるススキ、ササ、シバなどのつくる山地草原、ヨシ、オギからなる低地草原は、草刈り、家畜の放牧、火入れなどによって維持される半自然草原である。これを放置すると木本植物が侵入し、しだいに森林に移り変わる。
日本の自然草原として、亜寒帯や亜高山帯の土壌が不安定な湿地に発達する高茎草原(高さ2~3メートルの多年生広葉草本からなる草原)、高山帯にみられる高山草原、ミズゴケなどの泥炭地に発達する高層湿原などがあるが、いずれも小規模である。
草原の生産力は森林に比べて低く、1平方メートル当りの1年間の有機物生産量をみると、温帯草原で平均600グラム、熱帯草原で平均900グラム、日本のススキ草原で600~1200グラムとなっている。
[岩城英夫]
動物相
世界各地のさまざまなタイプの草原には、それぞれ特有の動物相が発達している。このうち熱帯草原と温帯草原はイネ科を主としたものであり、それらを主食とする動物とその捕食者がそこでの動物相を形成する。草食獣で重要なものは有蹄(ゆうてい)類であり、有蹄類の生息する大陸ではどこでも草原は有蹄類が中心となっている。アフリカではヌー(ウシカモシカ)やオリックス、シマウマが、ユーラシア大陸のステップではサイガレイヨウなどが、北アメリカのプレーリーではエダツノレイヨウ(かつてはアメリカバイソン)がその地位を占める。有蹄類の生息しないオーストラリアでは有袋類のカンガルーが、南アメリカではパンパスチャビーなどの齧歯(げっし)類が有蹄類のかわりの地位を占める。しかし、これらイネ科を中心とする草原の多くは、現在では家畜の放牧場となっている。イネ科のかわりにコケモモを主とする寒冷地草原では、トナカイやジャコウウシの有蹄類がやはり主力となっている。鳥類の草原への進出で重要なものは穀類食の小鳥(ハタオリドリ、ホオジロ類)である。
日本の草原には、ハタネズミなどの齧歯類がわずかにみられるだけで大形草食獣はいない。日本の草地の動物では昆虫類がよく知られており、東北地方の川辺の草地では253種の昆虫が記録されている。このなかにはアワヨトウ、ウリハムシモドキなど、イネを食害するものが多く、ときには大発生する。
[大澤秀行]