精選版 日本国語大辞典 「好」の意味・読み・例文・類語
す・く【好】
[1] 〘自カ四〙
① 好色に振る舞う。恋に打ち込む。
※伊勢物語(10C前)四〇「昔の若人は、さるすける物思ひをなんしける」
② 風流の道に深く心をよせる。風雅の道に趣味がある。
※枕(10C終)一八〇「そのころいたうすいたるものにいはれ、心ばせなどある人の」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)四「哥道のはやりし時、貧しき木薬屋に好(スケ)る人有て」
③ (「…に好く」の形で) その物事に興味を持つ。愛好する。
※梵舜本沙石集(1283)四「或は詩歌管絃に数奇、或転変田猟を好み」
④ 好感を持つ。愛情を感ずる。
※歌舞伎・傾城壬生大念仏(1702)上「すいた男じゃ〈略〉近付にならふ」
[2] 〘他カ五(四)〙
① 愛着を感ずる。このむ。
※古今連談集(1444‐48頃)下「いづれも道をすくと云て、花やかなる方は聞えざる也」
② 異性に対して恋心やあこがれの気持を抱く。愛情を感じる。
※何処へ(1908)〈正宗白鳥〉一一「しかし君のシスターが好いてりゃ仕方がないさ」
[語誌](1)上代の確例はない。中古においては漢文訓読体では「このむ」が、和文(なかでも散文)では「すく」が用いられた。
(2)中古中期までは対象となる語を格助詞で提示しないのが普通で、(一)③のように、格助詞「に」で対象を示す例が見えるのは中世前期からであり、以後中世ではこの用法が主流となった。
(3)(二)のように、格助詞「を」をとる他動詞の例は中世後期より見られ、近世期を通じて徐々に使用例を増していく。
(4)現代語で多用される、特定の人への愛情を表わす「すく」の使用は近世になってからで、「きらふ」との対義関係の成立がその契機と考えられる。
(2)中古中期までは対象となる語を格助詞で提示しないのが普通で、(一)③のように、格助詞「に」で対象を示す例が見えるのは中世前期からであり、以後中世ではこの用法が主流となった。
(3)(二)のように、格助詞「を」をとる他動詞の例は中世後期より見られ、近世期を通じて徐々に使用例を増していく。
(4)現代語で多用される、特定の人への愛情を表わす「すく」の使用は近世になってからで、「きらふ」との対義関係の成立がその契機と考えられる。
この・む【好】
〘他マ五(四)〙 (多くのものの中から特にそのものをよしとして選び出す)
① 他とくらべて特にそれを好きになる。気に入る。興味をもつ。愛する。
※万葉(8C後)一五・三七五八「さす竹の大宮人は今もかも人なぶりのみ許能美(コノミ)たるらむ」
※東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉十一月暦「中には派手な鴇色、薄萌黄地の紅入り友禅を好(コノ)む者もあり」
② 趣味的なものを、たしなむ。趣味として身につける。
※源氏(1001‐14頃)絵合「上はよろづの事にすぐれて絵を興ある物におぼしたり。たててこのませ給へばにや、になく書かせ給ふ」
③ 風流があらわれるように趣向をこらす。風流にする。
※平中(965頃)一九「この男の家には前栽このみて造りければ、おもしろき菊など、いとあまたぞ植ゑたりける」
④ 得意とする。
※平家(13C前)四「ぬりこめどうの弓に、このむ白柄の大長刀とりそへて」
⑤ 特にそれを選び望む。注文する。所望する。
※政基公旅引付‐永正元年(1504)四月一三日「文言可二好申一とて、先案文を遣了」
※浮世草子・世間娘容気(1717)四「思ふやうな小袖を好(コノ)み、そなたと談合してこしらへたひに」
⑥ 特にそのことを欲する。特にしたいと思う。→このんで(好)。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※読本・雨月物語(1776)貧福論「己がこのむまにまに世を山林にのがれてしづかに一生を終る」
このみ【好】
[1] 〘名〙 (動詞「このむ(好)」の連用形の名詞化)
① 好むこと。好くこと。嗜好。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「この方の御このみにはもて離れ給はざりけり」
② のぞみ。希望。注文。
③ 趣向。風流。数奇。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四「取出したる一品は、昔蒔絵の織部形、好(コノ)みを尽せし三ツ組の、懐中盃下重ね」
[2] 〘語素〙 (体言に付く。「…ごのみ」の形で用いる)
① そのものをもっぱら好む意を表わす。「色好み」
※宇津保(970‐999頃)内侍督「これ、二なき使ごのみなり」
② その者が好む趣向である意を表わす。「音羽屋好み」
③ そのものについて好悪などを選別する意を表わす。「場所好み」「人好み」など。
このまし・い【好】
〘形口〙 このま
し 〘形シク〙 (動詞「このむ(好)」の形容詞化)

① 好きである。気に入っている。このもしい。
※源氏(1001‐14頃)帚木「うちつけのすきずきしさなどはこのましからぬ御本上にて」
② おもむきがあって感じがよい。好感がもてる。このもしい。
※枕(10C終)一二四「まして、情ありこのましう、人に知られなどしたる人は、おろかなりと思はすべうももてなさずかし」
※血を吐く(1925)〈葛西善蔵〉「F君は未来のある新時代の青年官吏〈略〉として、甚だ好ましい印象を与へた」
③ 好色らしい。すきがまし。すきずきし。
※源氏(1001‐14頃)葵「殿上人どものこのましきなどは、朝夕の露わけありくを、その比の役になむするなど」
④ 望ましい。そうすべきである。
※ぎやどぺかどる(1599)上「樹木の為の好事といふは、潤ひ深き恵みを受るよりも尚好ましき事あらんや」
このまし‐げ
〘形動〙
このまし‐さ
〘名〙
こう カウ【好】
[1] 〘名〙
① 親しい交わり。親睦。よしみ。
※日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉二「勝兵の余威を以て来て好を求め数々西辺に寇せり」 〔詩経‐衛風・木瓜〕
② このむこと。すくこと。愛すること。
※評判記・色道大鏡(1678)一五「好(コウ)不好(ふこう)をほしいままにし、万事我意にまかせり」 〔論衡‐累害〕
③ 仏語。仏のすぐれた身体について、大きな特徴を三十二あげて「相」というのに対して、副次的な特徴を「好」といって八十種を数える。合わせて「相好(そうごう)」といい、三十二相八十種好(しゅごう)をいう。
※往生要集(984‐985)大文四「相好間雑、以為二観法一」 〔大智度論‐二九〕
[2] 〘接頭〙 名詞の上に付けて、「よい」「このましい」「立派な」の意を表わす。「好景気」「好人物」「好条件」など。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉九「往々事を做すに勤敏なる好性質あることなり」
このもし・い【好】
〘形口〙 このも
し 〘形シク〙

① =このましい(好)
※落窪(10C後)二「今めかしくこのもしく事もほしからず」
※浮世草子・好色一代男(1682)八「又上方女郎のせぬ事也。同じ着物揃て有し事、このもし」
② うらやましい。欲しいと思う。
※歌舞伎・お染久松色読販(1813)序幕「家体の方をこのもしそうに、立ったり居たりしていろいろ思入」
このもし‐が・る
〘他ラ四〙
このもし‐げ
〘形動〙
このもし‐さ
〘名〙
ずき【好】
〘語素〙 名詞に付いて、その物事を好むこと、または、それを好む人の意を表わす。「酒好き」「遊び好き」「物好き」など。「人好き」「男好き」のように他人が好感をもつことにもいう。
※玉塵抄(1563)四「茶ずきした者なり茶経三篇を作たぞ」
※暑中休暇(1892)〈巖谷小波〉四「動物の標本を見てより、急に虫好(ズ)きに成て」
このま
し【好】
〘形シク〙 ⇒このましい(好)
このも
し【好】
〘形シク〙 ⇒このもしい(好)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報