韻文(読み)いんぶん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文
いんぶん

一定の韻律と形式を伴った文章。漢詩文においては韻字を句末に配して声調を整え、西欧の詩では脚韻や律動が活用された。わが国の韻文は短歌、俳句に代表されるが、ほかに長歌、今様(いまよう)、旋頭歌(せどうか)、和讚(わさん)、片歌(かたうた)などがあった。一般に韻文すなわち詩と考えられているが、かりに韻文で書かれていても、そこに詩精神がなければそれは詩とはいえない。たとえば、1869年(明治2)に刊行された福沢諭吉の『世界国尽(くにづくし)』は、七五調で書かれた世界地理の案内書ではあったが、詩とは無縁なものである。また、韻文は散文と対比されるが、ポール・バレリーは両者の違いを、韻文を舞踏とすれば、散文は歩行にあたると説明している。

[窪田般彌]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文
いんぶん
verse

韻律押韻といった一定の規律に従って書かれた言語表現のことで,散文 proseと対置される。英語の verseやフランス語の versはラテン語の versus (回転) を語源とし,同じリズムの繰返し・回帰という性質を表わす。口承時代には記憶しやすいために歴史的,宗教的叙述にも韻文が用いられたが,文字が用いられるようになると,そのような規則性は主として詩に限られるようになり,詩 poetryと同義とされたこともあるが,散文詩といった言葉からもわかるとおり,詩は韻文で書かれるとはかぎらないし,韻文だからといって詩とはいえない。

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精選版 日本国語大辞典 「韻文」の意味・読み・例文・類語

いん‐ぶん ヰン‥【韻文】

〘名〙 韻律による表現効果を意識した、文章、詩歌などの類。中国では、音声の高低を主体とし、一定の韻字を句末に用いて調子を整え、日本では、短歌、俳句などのように、各語の音節数の配列にたよって構成し、西洋では、音声の長短、アクセントの強弱の配列などによって声調を整えるなど、言語圏によって異なる。⇔散文
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉春「韻文でも翫味為やうと云ふ、那様(そんな)心懸の読者」

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百科事典マイペディア 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文【いんぶん】

韻律,形式,字数などに拘束される言語表現のこと。戯曲や物語,経典や歴史,教訓などに用いられた例も多く,作品としての〈〉とは必ずしも一致しない。古代では韻文が詩の条件であったが,叙事詩,劇詩,抒情詩の順で散文形式も許されるようになった。散文の対。→散文詩
→関連項目サテュリコン詩劇ソフロン駢文レトリックロマンス

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デジタル大辞泉 「韻文」の意味・読み・例文・類語

いん‐ぶん〔ヰン‐〕【韻文】

一定の韻律をもち、形式の整った文章。漢文では句末に韻字を置いたなどをいい、和文では和歌俳句などをいう。狭義には詩と同義に用いられる。⇔散文
[類語]うた詩歌詩賦しふ吟詠ポエムバース詩編叙情詩叙事詩定型詩自由詩バラードソネット新体詩

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世界大百科事典 第2版 「韻文」の意味・わかりやすい解説

いんぶん【韻文 verse】

その言語に特有の韻律の規則に従い,詩の行を形づくるように配慮して書かれた文章。この配慮のない文章を〈散文prose〉と呼ぶが,その対語としての〈韻文〉は事実上は〈詩行〉と同語である。韻律の規則を守るといっても,韻文を一読してただちにそれと認知する特徴は,韻よりもむしろ律,すなわちリズムにあると考えられる。〈韻文〉は必ずしも,作品としての〈〉の同義語ではない。戯曲や物語が韻文で書かれた例は多く,古代には経典や歴史,教訓などにもしばしば韻文を用いた。

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世界大百科事典内の韻文の言及

【韻律】より

…強勢と高低との関係も日本語,英語,中国語ともに同様であって,日本語は高さアクセント,英語は強さアクセントということはなく,どの国語も高さと強さの合成アクセントをもつものである。【土居 光知】
【中国詩】
 中国においては,もっぱら知識人によって作られ,本来は単に詩と呼ばれ,日本においては漢詩,現代中国においては旧詩と呼ばれている韻文のジャンルで,高度の完成された韻律が見られる。このジャンルはまた,中国におけるもっとも主要な韻文でもある。…

【詩劇】より

韻文を用いた演劇。演劇において詩的言語が散文的言語に先行したことは,歴史が証明している。…

※「韻文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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