(読み)し(英語表記)cí

精選版 日本国語大辞典 「詞」の意味・読み・例文・類語

し【詞】

〘名〙
ことば。文章。詩歌。
※文芸類纂(1878)〈榊原芳野編〉四「詞〈略〉長篇長短句等の変体もありしが詞を作りし者もありしと見えて」 〔庾信‐謝趙王示新詩啓〕
② 中国、古典文学の一ジャンル。唐代に流行した新しい歌謡の歌詞が、やがて文学形式として定着したもの。一句の字数が不定で、俗語を多用する。宋代に栄え、宋を代表する文学とされる。填詞(てんし)、詩余などとも呼ばれる。〔填詞図譜(1806)〕
③ 日本語の単語を文法上の性質から二つに大分類した一つ。自立語をいう。助詞、助動詞を辞(じ)というのに対する。⇔

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デジタル大辞泉 「詞」の意味・読み・例文・類語

し【詞】[漢字項目]

[音](漢) [訓]ことば
学習漢字]6年
ことば。文句。「賀詞献詞祝詞序詞誓詞題詞弔詞
文法上の単語の部類。「動詞品詞副詞名詞
詩文。詩歌。「詞章詞宗しそう歌詞作詞
中国の韻文の一体。一句の字数がふぞろいなもの。「宋詞
[名のり]こと・なり・のり・ふみ
[難読]台詞せりふ祝詞のりと

し【詞】

ことば。文章や詩歌。また、特に、歌詞。「に曲をつける」
中国の韻文の一。唐末から宋代にかけて流行。もとは楽曲に合わせて作られた歌詩。1句の長短は不定で俗語を多く使う。塡詩てんし・詩余・長短句ともいう。
単語を文法上の性質から二つに分類したものの一。に対する。単独で文節を構成しうる語。名詞動詞形容詞形容動詞副詞連体詞感動詞接続詞がこれに属する。自立語。時枝誠記ときえだもときの学説では接続詞・感動詞などは辞に入る。

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改訂新版 世界大百科事典 「詞」の意味・わかりやすい解説

詞 (し)

中国における韻文文学の様式の一種で,歌辞文芸でもある。もとは唐代における燕楽(宴楽,儀式用の雅楽に対し,宴席などの音楽をいう)の歌辞をいい,それがしだいに伝統的な詩とは違った文学的性格を備え,宋代になって大いに流行した。〈漢文,唐詩,宋詞,元曲〉といわれるように,詞は宋代をもって様式を完成し,この時代の特有な文学としての位置をしめる。詞というほかにいろいろな呼び方があり,詩余,曲子詞,長短句,塡詞,近体楽府(がふ)などともいう。

韻文としての詞の形式(句法,押韻法,韻律など)は楽曲に規定される。詞の楽曲の名を詞牌というが,詞の形式を網羅的に整理した清の康熙帝勅撰の《詞譜》によれば,詞牌の数は826調といい,同一詞牌で形式の異なるもの(同調異体)を数えると2306体と称する。ただ常用される詞牌はせいぜい100調くらいなものである。最も短いのは〈竹枝〉の14字,長いのは〈鶯啼序〉の240字,60字くらいまでの短編小令といい,長編を慢詞という。宋の初めまではほとんどが小令で,慢詞の流行は比較的遅い。後世は小令,中調,長調と3段階に分け,58字までを小令,59字から90字までを中調,91字以上を長調とする説があるが,あまり根拠はない。押韻法も今体詩のように単純ではなく,異種の韻を交互に(ab ab)あるいは挟むように(ab ba)踏むなど,変化に富む。韻の分類も特殊で,のちに帰納的に整理した著述が何種かあるが,清の戈載かさい)の《詞林正韻》が代表的である。

唐代に西域の音楽(胡楽)が流入して中国の音楽は大きく変わり,伝統的な楽府(がふ)は歌われなくなる。新興の燕楽の歌辞としては今体詩ことに七言絶句がよく歌われた(李白〈清平調〉など)。ただ七言四句では複雑な楽曲に合わないので,いろいろに変形させて歌ったらしく,それがやがて長短句の詞となったという。ただ一方では自由な句形の通俗歌謡も存在したに違いない。甘粛省敦煌から発見された古文書には,時代は不明だが通俗的な長短句の歌辞が少なからずみえている(任二北《敦煌曲校録》など)。中唐以後は文人たちも長短句の詞を作るようになり,白居易の〈憶江南〉,張志和の〈漁父〉などの例がある。ついで晩唐の詩人温庭筠(おんていいん)は,この歌謡の形式をもって創造的な文学的世界を開拓した。その詞は華麗な筆致で孤独な佳人を描きつつ,自らの不遇の憂悶を託する。唐の滅亡後,五代の多くの地方政権のうち,蜀と南唐の宮廷において詞が流行し,蜀の宰相韋荘,南唐では国主李璟(りえい),李煜(りいく)父子(《南唐二主詞》)と宰相の馮延巳(ふうえんし)などが優れた詞を作った。また蜀では最初の詞の精華集《花間集》が編まれている(940)。

 北宋のなかば仁宗(在位1022-62)の代に詞は飛躍的に発展する。柳永(《楽章集》)は通俗歌謡の手法を大胆にとりいれ,かつ慢詞流行の端緒を開いた。はじめ都の開封で遊興にふけり,濃艶な詞が評判となるが,晩年は失意の苦悩と旅愁とが渾然と融合した名作を生んだ。同じころ張先(《張子野詞》)には文人官僚としての日常生活における佳作が多い。詞における和韻の応酬も彼を中心としてはじまったようである。北宋後半になると,詩人文章家として有名な蘇軾(そしよく)(《東坡楽府》)をはじめ,黄庭堅,秦観など,文人官僚はみな詞を作るようになる。北宋末の周邦彦(《片玉詞》《清真詞》)は慢詞の手法を柳永から受けつぎながら,卑俗さを脱して典雅幽遠な詞風を完成した。音楽に通じ,したがって韻律も精密で,後世〈詞家の正宗〉と尊重される。南宋になると,対金戦争に活躍した辛棄疾(しんきしつ)(《稼軒詞》)のような〈豪放派〉と呼ばれる詞人もいるが,姜夔(きようき)(《白石道人歌曲》),呉文英(《夢窓甲乙丙丁稿》),さらに宋末では周密(《草窓詞》),張炎(《山中白雲詞》)などが周邦彦のあとを受け,精巧で典雅な詞をひろめた。これらの詞人は北宋の文人官僚とは異なり,もっぱら詩文書画などの文事だけで世に重んじられる特殊な階層で,詞はこうした文人たちによってひたすらに洗練される。その精緻な用語表現,厳正な韻律,繊細かつ幽遠な雅趣は,中国における抒情的韻文の洗練の極致を示すといえよう。

 元代になると散曲という通俗的な歌辞文芸が流行して詞は衰え,特に楽曲は伝承を絶って歌辞文芸という性格は失われた。のち清代になって江南地方に趣味の高雅を誇る文人階層が形成されると,詞は韻文文学として復活する。元,明の間には《草堂詩余》のような通俗的な詞集のみが流布したが,明末に汲古閣の《宋名家詞》が現れて宋の詞集復元の先鞭をつけ,清代では朱彝尊(しゆいそん)《詞綜》,康熙帝勅撰《歴代詩余》,王鵬運《四印斎所刻詞》,朱孝臧《彊村叢書》などが宋詞をひろめ,創作も盛んで〈浙派〉〈常州詞派〉などの詞社が形成される。研究も進んで〈詞学〉と称され,その余波は現代にも及んでいる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「詞」の意味・わかりやすい解説



Ci

中国,韻文の一形態。特に宋代に栄え,唐詩,宋詩,元曲と並称されて時代を代表する文学形式であった。唐代に西域から「胡楽」が輸入されて流行したが,その曲に合せて歌った歌詞が起源。中唐頃に専門の詩人が意識的に楽譜に合せた歌詞を創作するようになって,ジャンルとしての詞がほぼ確立した。メロディー (曲子) に合せた歌詞であるから「曲子詞」ともいい,既成の譜に歌詞をうめる (填) ので「填詞 (てんし) 」,既成のメロディーによりかかる (倚) ので「倚声」という。また1句の長さがふぞろいなので「長短句」ともいい,詩から生れた余りものという意で「詩余」,さらに漢代以来の歌辞文学である楽府 (がふ) になぞらえて「楽府」とも「近体楽府」ともいう。中唐に確立し,晩唐に温庭 筠,五代に李 煜 (りいく) が現れ,傑作を生んだ。北宋に入って晏殊欧陽修らが五代の詞を継承,やがて長編形式の慢詞が生れ,張先柳永が宋独自の詞を開拓した。宋詞は作風によって豪放派と婉約派に二大別されるが,北宋において前者を代表するものが蘇軾 (そしょく) で,柳永のあとを継ぐ周邦彦 (しゅうほうげん) が後者を代表する。南宋に入って辛棄疾陸游が蘇軾を継ぎ,姜 夔 (きょうき) が周邦彦のあとを継いで,呉文英にいたって極点に達する。元,明にはほとんどあげるべき作者もないが,清に入って再び流行をみ,納蘭性徳朱彝尊 (しゅいそん) らの作者が現れるとともに選集が編まれ,音律上の研究も進められた。

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百科事典マイペディア 「詞」の意味・わかりやすい解説

詞【し】

中国の韻文の一種。中国語ではツー。詩余,填詞(てんし),長短句とも。不規則な長さからなる詩行の自由詩で,形式は楽曲に規定される。もとは唐代における燕楽の歌辞をいい,それがしだいに伝統的な詩とは違った文学的性格を備え,宋代になって大いに流行した。五代南唐後主の李【いく】(りいく)や馮延巳(ふうえんし)などが優れた作品を作った。元代に散曲の流行に圧倒されて以後,ほとんど作られなくなったが,清代に復活。宋代のものが詞楽(ツアク)として朝鮮半島に伝わり,今日,器楽曲として残っている。
→関連項目有智子内親王欧陽炯温庭【いん】京本通俗小説朱彝尊辛棄疾蘇軾兪平伯李【いく】

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「詞」の解説

詞(し)

詩余,填詞(てんし)とも称する。中国の韻文(いんぶん)の一種。楽曲の歌詞。周代の詩,六朝の楽府(がふ)の流れを受け,西域から輸入された外国音楽に刺激され,中唐に発生。晩唐の温庭筠(おんていいん),五代の李煜(りいく)らによって洗練され,北宋では唐詩に対する宋詞として上下階層に広くつくられ,最盛期に達した。宴席の娯楽,遊戯にとどまらず,柳永(りゅうえい),蘇軾(そしょく),辛棄疾(しんきしつ)らにより句法,韻律が整えられ,古典詩に匹敵する地位に高められた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「詞」の解説


中国の韻文の一様式。詩余・塡詞 (てんし) ・倚声 (いせい) ともいう
外国音楽の影響で中唐ごろ発生。初め琴などの伴奏で女性の姿態や心情を歌う庶民的歌曲の辞であったが,唐末期・五代に韻文として成熟し,宋代には音楽を離れて題材を広げ,叙情文学として発達した。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【歌謡】より

…しかし,現在の日本での使い方は,明治以降の日本文学の研究者によるもので,読まれる詩歌に対して,歌われる詩歌を強調することを目的とした。今日では,歌詞と音楽という二分法が一般的であるが,時代や文化によっては,この両者が未分化のままで,歌謡が生みだされることも多いため,文学研究では,この語を拡大して使うこともある。また,日本音楽についての〈歌い物〉と〈語り物〉という現行の二分法からみれば,歌謡は歌い物と重なる面が広いが,定義によっては,語り物の中に多くの歌謡を見いだすことも可能である。…

【詩】より

…文字に記されて残っているものとしては,古代オリエントの《ギルガメシュ叙事詩》や古代インドの二大叙事詩,古代エジプトの〈ピラミッド・テキスト〉や神々への賛歌,古代ギリシアのホメロスの叙事詩,旧約聖書中の韻文テキスト,古代中国の《詩経》などが名高い。日本の場合は,《古事記》《日本書紀》《風土記》などに古代の歌垣や婚姻の歌,国ほめや神ほめの歌が記録されているほか,祝詞(のりと)などの宗教的テキスト,《万葉集》の中の伝承歌謡などがあり,また沖縄の《おもろさうし》や,時代は下るがアイヌ民族の口誦叙事詩群〈ユーカラ〉も知られている。口承文芸
【西欧の詩】
 ひとくちに西欧の詩といっても,ギリシアからローマに至る古代のそれと,中世から現代に至るヨーロッパのそれとは,本来は別個のものと考えるべきだろう。…

【抒情詩】より

…とくに叙事詩,劇詩が衰退した近代・現代においては,詩はほとんどすべて抒情詩とみなすことができるし,抒情詩がすなわち詩を代表しているのが実情である
[ヨーロッパ]
 抒情詩と訳される西欧諸語の源はギリシア語にさかのぼり,リラlyra(竪琴)およびそれに関連するものを表すlyrikosに発している。つまり,この語はまず最初は竪琴にあわせて詩人がうたう歌を指していたのであり,詩人は作詞者であるとともに作曲者,演奏者でもあった。また詩人が合唱団の指揮者となって,宗教,祭祀等々にかかわる集団的感情を表現しようとする民衆を代表する立場に立つこともあった。…

【中国文学】より

…庾信(ゆしん)の〈哀江南の賦〉は多量の典故を用いて,南朝の滅亡をうたった壮大な叙事詩というべき大作であった。
[楽府]
 楽府(がふ)は漢代の宮廷に設けられた役所の名から,その楽人が演奏した曲の歌詞の総称となった。地方の俗謡とそのかえうたを含む。…

※「詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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