精選版 日本国語大辞典 「猫」の意味・読み・例文・類語
ね‐こ【猫】
〘名〙 (鳴き声に、親愛の気持を表わす「こ」の付いたものという)
① ネコ科に属する家畜化された飼いネコのこと。野生のネコはヤマネコと総称し飼いネコと区別する。体はしなやかで、足指の裏には厚い肉球があり音をたてずに歩く。ひげ(触毛)は暗所の活動に役立ち、瞳孔(どうこう)は明暗に応じて開閉する。社会性の強いイヌに比べ、ネコは本来が単独生活者で、飼いネコであっても野外で自力でネズミや小鳥などを捕食し野良ネコ化しやすい。ペルシアネコ・シャムネコなどの品種があり、毛色によって三毛ネコ・黒ネコ・トラネコなどと区別する。古代エジプト時代に野生のリビアヤマネコを原種に家畜化された。日本で猫を飼うようになったのは、奈良時代に中国から渡来してから。一説によると仏教伝来の際、経典を鼠の害から守るために猫を添えたという。皮は三味線の胴張りに用いる。ねこま。
※霊異記(810‐824)上「我、正月一日狸(ネコ)に成りて汝が家に入りし時〈略〉〈興福寺本訓釈 狸 禰己〉」
※枕(10C終)九「うへにさぶらふ御ねこは、かうぶりにて命婦のおとどとて」
② 表面だけ柔和に見せかけること。知っていても知らないふりをすること、また、そのような人。猫かぶり。「猫をかぶる」
③ 魚好きであること。また、その人。
※雑俳・軽口頓作(1709)「きとくな事・あのまあ魚喰(ネコ)が夏精進」
④ (①の皮を用いるところから) 三味線の異称。
※人情本・娘太平記操早引(1837‐39)初「サアサア騒ぎやせう騒ぎやせう〈略〉猫(ネコ)を一疋持って来て、何ぞ唸って」
⑤ (三味線を使う職業であるところから) 芸妓の異称。
※咄本・芳野山(1773)猫「これかこれかとまちゐけるに、ねこ一人(ひとり)来り」
⑥ (「寝子」からか) 私娼の異称。近世、大坂では堀江(西区北堀江)付近、江戸では本所回向院前(墨田区両国二丁目)などに多かったという。また転じて、江戸ではこれらの岡場所の称。
※随筆・親子草(1797頃)一「本所回向院前、一つ目辨天門前、此二箇所を猫といふ」
⑦ 「ねこぜ(猫背)」の略。
⑧ 「ねこひばち(猫火鉢)」の略。
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉中「置火燵には櫓火燵・行火(あんくゎ)・猫(ネコ)・辻番・大和火燵等の類あり」
⑨ 「ねこぐるま(猫車)」の略。
⑩ 「ねこいらず(猫不要)」の略。
※多甚古村(1939)〈井伏鱒二〉私娼と女給の件「燐のにほひが鼻を衝き、猫を嚥んだなと私は直ぐ感じた」
⑪ (根子とも) 船具の一つ。和船のまつらの端などの押えや当て物として打ちつける小さい木。〔和漢船用集(1766)〕
⑫ ふいごの内側についていて空気の出る穴をふさぐ皮。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑬ 情人。また、色男。寛政(一七八九‐一八〇一)頃、江戸吉原遊郭での流行語。
※洒落本・鄽数可佳妓(1800)一日「『舛楼の客人はねこか』『いいへ、おたんちんのほふサ』」
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