日本大百科全書(ニッポニカ) 「化合物」の意味・わかりやすい解説
化合物
かごうぶつ
compound
2種以上の元素の原子が化合することによって生じた物質をいう。われわれの周囲にみられる種々の物体を形づくっているものを物質といっているが、科学的に物質というときは、一般に純粋物質を意味する。
[中原勝儼]
純粋物質
純粋物質とは、その製法、所在などのいかんにかかわらず、つねに一定の化学的組成を有し、またどの部分をとってみても性質が同じ、すなわち均一なものをいい、単体と化合物がそれにあたる。単体とは1種類の元素だけからなるもので、化学的な手段で二つ以上の物質に分けることができないものをいい、たとえば硫黄(いおう)やダイヤモンド(炭素の結晶)、あるいは水銀などがそうである。また化合物には、たとえば塩化ナトリウム(不純物の入っていない食塩)、純粋な砂糖、あるいはグルタミン酸ナトリウム(うま味調味料の一つ)や、純粋の水などがそうである。すなわち水を例にとれば、水は酸素と水素との化合物で、どこにあってもその組成は決まっており、どの部分も同じ性質で、しかも水素や酸素とはまったく違っている。
[中原勝儼]
混合物
単体や化合物など、純粋物質が2種類以上ただ単に混合したものを混合物といっている。したがって混合物は、その成分が一定ではなく、任意に変えることができるうえ、物理的な手段で2種類以上に分離することができるもので、見かけは均一なものと不均一なものとがある。全体が一様に同じ、すなわち均一な混合物としては、空気(窒素、酸素、二酸化炭素、水蒸気その他の混合気体)とか、海水(塩化ナトリウムその他の塩類が水に溶けた溶液)やガソリン(各種炭化水素が混合している)、あるいは金と銅との合金などのような固溶体などがその例である。これらは化合物と同じように均一であるが、その組成は一定せず(たとえば海水中の塩化ナトリウムの量は場所によって違うし、加熱濃縮すればその量は多くなる)、また物理的な手段によって分離できる(たとえば空気を冷却して液体とするなどして分留すれば、それぞれの成分に分離することができる)。また不均一なものとしては、部分によって性質が違う多くの物体、材木、紙、岩石などがある。
以上のことをまとめていうと、われわれの周りの物体は、基本的には、純粋物質、すなわち単体および化合物からできているが、それがそのままで存在している場合と、それらが混じりあって混合物として均一になっているもの、およびそれらが不均一に集まっている場合とがある、ということができる。
付加化合物や分子化合物のようなもののうち、上記の定義からいくぶん外れるような二量体分子(たとえば(CH3COOH)2など)や塩類の付加化合物(たとえばCaCl2・4CH3OHなど)も化合物といっている。またさらに、定比例の法則が成立しない(組成の一定でない)、非化学量論的化合物であるベルトライド化合物、クラスレイト化合物(包接化合物)、侵入型化合物なども化合物といっている。
[中原勝儼]
『木田茂夫著『無機化学』(1993・裳華房)』▽『クリストファー・クーパー著、早川真理訳『ザ・サイエンス・ヴィジュアル4 物質』(1993・東京書籍)』▽『アン・ニューマーク著、鴨川幸市訳『ザ・サイエンス・ヴィジュアル7 化学』(1993・東京書籍)』▽『山崎昶編『化学データブック1 無機・分析編』(2003・朝倉書店)』