侵入型化合物(読み)シンニュウガタカゴウブツ

デジタル大辞泉 「侵入型化合物」の意味・読み・例文・類語

しんにゅうがた‐かごうぶつ〔シンニフがたクワガフブツ〕【侵入型化合物】

金属原子結晶格子などの規則的配列隙間に他の小さい非金属原子が入り込んだ化合物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「侵入型化合物」の意味・わかりやすい解説

侵入型化合物
しんにゅうがたかごうぶつ
interstitial compound

金属原子が結晶をつくるときの結晶格子空間格子)のすきまにほかの小さな非金属元素(たとえば水素ホウ素炭素窒素など)の原子が入り込んでできる一種の固溶体をこのようによぶことがある。このとき多くの場合、金属の導電性は失われることなく、また入り込んだ原子が金属の結晶格子を強くするため、融点を高め、硬度を大きくする。たとえば金属パラジウムはきわめてよく水素を吸着し、PdHxのような組成の物質をつくるが、このものは、結晶格子が純パラジウムと本質的に同じであり、その格子の間に水素原子が入り込んで、パラジウムの格子間隔がいくぶん広がっただけのものであり、PdとHとの間には通常の化学結合があるわけではない。したがってxの値は一定の化学量論比をとることなく、連続的に変化できる。すなわち非化学量論的化合物である。遷移金属の水素化物、窒化物、炭化物、ホウ化物などで多くみられる。

[中原勝儼]

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化学辞典 第2版 「侵入型化合物」の解説

侵入型化合物
シンニュウガタカゴウブツ
interstitial compound

金属元素の原子格子間げきに,原子半径の小さいほかの非金属元素の原子が侵入することによってできる化合物.金属の原子半径に対する非金属の原子半径の比が0.59より小さいときに生じ,とくに遷移金属元素の水素化物,ホウ化物,炭化物,窒化物にこの例が多くみられる.侵入型化合物には,電気伝導率熱伝導率金属光沢などの点で金属としての性質がかなり残っているが,一方,極端に高い融点,硬さ,もろさなどの点で金属と異なる性質も備えている.非金属の量が少ないときは,もとの金属格子のすきまに入っているが,量が多くなると別の構造をとるのが普通である.立方最密充填の八面体型のすきまに侵入原子が全部入ると,金属と侵入原子の数の比は1:1となり,TiC,TiN,ZrC,ZrNなどがその例である.すきまの1/2に入るとW2N,Mo2N,1/4に入るとMn4N,Fe4N,Fe4Nなどができる.炭素-鉄系の侵入型化合物は工業的に重要であって,鉄の物理的性質は炭素の含有量によって変化する.白金,パラジウム,ニッケルの侵入型水素化物は,水素化反応における触媒として重要であるが,これらの水素化物が強い還元作用を示すことから,水素分子は金属格子に入ると解離して原子状態で存在すると考えられている.

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百科事典マイペディア 「侵入型化合物」の意味・わかりやすい解説

侵入型化合物【しんにゅうがたかごうぶつ】

金属の結晶格子または原子格子のすきまに,他の小さな非金属元素の原子が侵入してできる定比加合物である。しかし,ある程度,金属格子に溶けこんで,不定比の固溶体となることもある。金属としては遷移金属が普通であり,非金属としては水素,ホウ素,炭素,窒素,酸素などが普通である。多く金属光沢,導電性など金属の特性を残しており,単体金属とは異なり,きわめて硬い。
→関連項目非化学量論的化合物

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世界大百科事典(旧版)内の侵入型化合物の言及

【金属間化合物】より

…半導体材料のAlN,InP,GaAsなどのIII‐V化合物,ZnS,CdTeなどのII‐VI化合物はこの分類の例である(II,III,V,VIは周期表の族)。(2)原子半径効果化合物size factor compound ラーベスLaves相,シグマσ相,侵入型化合物interstitial compoundなどが含まれる。成分原子の半径比がの近くの値(1.05~1.68)をとるときにはA格子位置が16個の隣接B位置,B格子位置が12個の隣接A位置をもつAB2型結晶をとると成分原子は最もよく充てんする構造となる。…

【窒化物】より

…また窒化塩化リン((PNCl2)3,固体),窒化塩化フッ化リン(P4N4Cl2F6,液体)など3種以上の元素から構成される化合物もある。(3)侵入型化合物 窒素原子が原子価則と一致しない数で含まれている一連の化合物で,多くの遷移金属元素との化合物がこれに属する。窒素原子は金属原子のすき間を占めている。…

※「侵入型化合物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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