分子化合物(読み)ブンシカゴウブツ(英語表記)molecular compound

デジタル大辞泉 「分子化合物」の意味・読み・例文・類語

ぶんし‐かごうぶつ〔‐クワガフブツ〕【分子化合物】

2種以上の分子それぞれの組成を変えずに結合した化合物

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精選版 日本国語大辞典 「分子化合物」の意味・読み・例文・類語

ぶんし‐かごうぶつ ‥クヮガフブツ【分子化合物】

〘名〙 安定して存在し得る分子どうしが、電荷移動水素結合水和溶媒和などにより結合した化合物。付加加合物の一種。両成分間の結合が比較的弱く、容易にもとの成分に解離する場合にいうことが多い。例えば硫酸銅青色結晶は硫酸銅(CuSO4)と水(H2O)から成る分子化合物である。

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改訂新版 世界大百科事典 「分子化合物」の意味・わかりやすい解説

分子化合物 (ぶんしかごうぶつ)
molecular compound

異なる分子が一定の分子数比で付加して生じる化合物で,分子間化合物ともいう。多くの場合に成分分子とは異なる性質を示す。広い意味では,CaCl2・4CH3OH,C6H5CH3・SbCl3や種々のクラスレート化合物なども含めるが,最も重要なのは電荷移動錯体と称される一群の化合物で,普通に分子化合物という場合はこの一群を指す。古くから知られている例はキンヒドロンp-ベンゾキノンとハイドロキノンの1:1の化合物)やナフタレン,アントラセンなど多環式芳香族化合物ピクリン酸の間に生じるピクレートなどである。

これらは成分分子より長波長の光を吸収し,特有の色を呈する。この長波長の新しい吸収帯の出現はR.S.マリケンの電荷移動理論により量子論的に説明され(1950),分子間の結合力の主要な部分は,成分分子が接触した状態と一方から他方電子が1個移って共有結合した状態の間の共鳴によって理解できることがわかった。その後,種々の分光法,物性測定による研究が進められ,理論を実証するとともに多数の錯体がつくられている。なかでも,電子を受け取る成分(電子受容体)となるテトラシアノパラキノジメタンおよび電子を与える成分(電子供与体)となるテトラチアフルバレンの種々の錯体は,電気的,磁気的な性質に従来有機化合物ではみられない特徴を示すのでよく研究されている。ちなみに,この両者から生じる分子化合物は55K以上の温度で金属的な電気伝導を示す。


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「分子化合物」の意味・わかりやすい解説

分子化合物
ぶんしかごうぶつ
molecular compound

広義には高次化合物に同じ。すなわち単独でも安定に存在することのできる分子の間でさらに結合を生じて形成される化合物。たとえば水素結合によって生じるギ酸やフッ化水素の二量体,配位結合による錯化合物,複塩,結晶水を含む化合物などがある。狭義には電子供与体と電子受容体の結合によって生じる電荷移動錯体 (分子錯体) のこと。電子供与体としては芳香族化合物,二重結合をもつ不飽和化合物,非共有電子対をもつアルコールや窒素を含む有機化合物などがあり,電子受容体としてはハロゲン分子,ヨードホルムやクロロホルムのような有機ハロゲン化物などがある。電子供与体と電子受容体から分子化合物を生じる結合力の原因は R.S.マリケンの理論によれば,両者の間に働く弱い分子間力と,電子供与体から電子受容体への電子の移動 (電荷移動) によって生じる共有結合と,さらに電子移動の結果,相対的に電子供与体に電子不足を生じて正電荷を,電子受容体に電子過剰を生じて負電荷をもつことにより形成される一種のイオン結合の3種の結合力によると説明される。たとえばヨウ素は元来赤紫色であるが,そのベンゼン溶液が褐色を示すのはヨウ素とベンゼンの間で分子化合物 (電荷移動錯体) を生じるためである。

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化学辞典 第2版 「分子化合物」の解説

分子化合物
ブンシカゴウブツ
molecular compound

単独で安定に存在しうる分子A,Bが互いに結合してできる化合物のうちで,比較的簡単にもとの成分に解離できるものをいう.A・BまたはA・nBのような組成をもち,AとBとが同一化合物の場合もある.付加化合物の一種であるが,不飽和結合に対する付加反応による生成物や,アンモニウム塩,そのほかの安定なオニウム化合物は分子化合物とはよばない.例としては,電荷移動力による電荷移動錯体,水素結合によるフッ化水素の二量体デオキシコール酸と種々の有機化合物が結合してできたコレイン酸,また塩類の水和物,溶媒和物などがある.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「分子化合物」の意味・わかりやすい解説

分子化合物
ぶんしかごうぶつ
molecular compound

古典的化学結合論によってはそれぞれ単独に分子として考えられる2種以上の化合物あるいは単体が一定の組成比で複合し、一つの化合物となるものの総称。化学結合論の発展にしたがってそれらの分子間の相互作用、結合様式が明らかになるにつれて、水和物を含む溶媒和物、錯体、分子錯体、電荷移動錯体、包接化合物などに分類されるようになった。狭義の分子化合物は分子間化合物intermolecular compoundともよばれるが、分子間にはファン・デル・ワールス力あるいは水素結合力などが作用していることが多い。導電性有機化合物や機能性材料として、特殊な性質をもつ分子を組み合わせた分子化合物の設計合成も行われている。

[岩本振武]

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百科事典マイペディア 「分子化合物」の意味・わかりやすい解説

分子化合物【ぶんしかごうぶつ】

分子間化合物,分子錯体とも。一つの分子と他の分子とがさらに結合してできる化合物。一般に高次化合物とも呼ばれる。クラスレート化合物のような付加化合物,水和物などもこれに含められることが多い。

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