日本大百科全書(ニッポニカ) 「液体」の意味・わかりやすい解説
液体
えきたい
物質の状態の一つ。圧力や容器の形によって容易に形を変え、流動性を示すものを一般に流体とよんでいる。流体には気体と液体がある。気体はいくら大きな容器に入れても容器全体を満たし、容器に孔(あな)があいていると外界に逃れてしまう。これに対し、液体は、容器の下方にたまり、開いた容器に入れて保つことができる。このような液体を、閉じた容器に入れて圧力を加えれば、すきまがなくなり、密度も大きくなる。
通常の物質には臨界温度というものがあって、この温度より上では、容器の下方にたまるという性質をもつ液体は存在しなくなる。なお水の臨界温度は374.1℃である。臨界温度より上では、圧力と密度がいくら高くても気体とよんでいるが、液体と気体の区別がなくなるということである。臨界温度より低い温度では、飽和蒸気の圧力より高ければ液体に、低ければ気体になり、この場合には同じ物質の気体と液体の密度にはかなりの違いがある。通常、われわれが気体というときには、このような低密度の気体をさすので、この場合には液体に比べると密度がかなり小さい。
気体と液体のほかのもう一つの状態は固体である。固体のなかでも、結晶になっているものでは、その中の分子が規則正しい結晶格子をつくって配列している。金属の場合には、外見は水晶のような単結晶とは違っているが、小さな結晶が集まっており、小さな結晶の中では、それぞれ分子は規則正しく並んでいる。固体というと、通常はこのような結晶性の固体をさすことが多い。結晶性固体と液体とのいちばん大きな相違は、X線回折写真がまったく異なることである。結晶性固体では、規則正しい格子によっておこる回折により、きれいな同心円の環状の像ができるが、液体の場合には幅広いぼやけた環ができるだけである。このことは、液体の中では、分子の配列は規則性がないことを示している。しかし、液体の分子は、気体の場合のように、ほとんど完全に無秩序になっているわけではなく、非常に小さい範囲に限れば、少数の分子は、ある程度の規則性をもって並んでいるが、広い範囲でみれば、まったく無秩序とみてよい。
中性子線の回折の実験によると、液体の分子は、振動をしながら、ゆっくり移動していることが明らかにされている。一般に、固体が融解して液体になると、すきまが多くなり、密度が減少する。氷の結晶のように、すきまの多い構造をもつものの場合には、融解するとかえって密度が大きくなるが、このような例は少ない。われわれが通常固体と考えているもののなかに、結晶性でないものがある。このようなものを非晶質(アモルファス)固体というが、分子が液体と同じように無秩序に配列している。ガラスもその一例であるが、これは過冷却された液体とみられている。
[小野 周]
液体の性質
結晶性固体の場合には、結晶格子が変形しにくいため、その形を保ち、ずれの応力に対しても抵抗をする。したがって、ずれの弾性(剛性)をもつ。これに対して、液体では、分子が相対的に位置を変えやすいので、容易に変形し、ずれの弾性率はゼロである。このため、液体の中では、固体と違って、横波は存在せず、縦波が伝播(でんぱ)するだけである。もちろん、液体の表面で、表面張力や重力によっておこる表面波は横波である。また、ずれの応力に対しては、抵抗なしに変形するので、静止した液内では、ずれの応力は存在せず、液体内にとった任意の面に対する力は、つねにこの面に垂直で、したがって、その力は面の向きによらない。このことは、静止している液体内の圧力は、どの面にも垂直で、また表面や器壁に対しても垂直になることを意味する。このような圧力を静水圧とよんでいる。また、液体内の圧力を大きくすれば、液体内の圧力は、すべての場所で同じ大きさだけ増加する。これをパスカルの原理という。
液体が運動しているときには、ずれの応力を生じる。これが液体の粘性である。このため、液体も、非常に急激な形の変化に対し剛性を示す。前に述べたガラスの場合には、粘性が極端に大きくなったものとみることができる。実際にガラスなどは、力をかけておくと、非常にゆっくりではあるが変形をするといわれている。液体内の分子は、振動しながら移動するが、異種の分子の拡散の場合にも事情は同じであって、液体内の拡散は、固体に比べると大きいが、気体に比べると小さい。
ここで述べたことの多くは、純粋な液体でなく2成分以上でできている溶液などにもそのまま当てはまる。また液体と結晶性固体の相違として、液体はいつも等方性をもつことがあげられる。
[小野 周]