日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩石」の意味・わかりやすい解説
岩石
がんせき
rock
地球の固体部分、すなわち地殻とマントルをつくっている物質。この物質はガラスやプラスチックのように均質一様なものではなく、何種類かの鉱物の結晶粒が無数に集まってできた、鉱物の集合体である。そして、その集合体における鉱物の種類の組合せ、量比、結晶の大きさ、組織が一様である場合に、一つの岩石種とみなす。一つの岩石種が占める地殻の部分は、キロメートルで測るほど広大なこともあり、一方、顕微鏡下で認められるほど小さいこともある。また、その形も一定ではない。本項においては、地質学、岩石学上の観点からの記述にとどめ、土木・建築については「石材」の項を、また人間生活および民俗とのかかわりについては「石」「岩」「岩石崇拝」の項を参照されたい。
[橋本光男]
産状と大区分
(1)成層岩体と貫入岩体 地殻を構成している岩石の空間的な形と広がり、すなわち地質学的な産出状態には、大きく分けると成層岩体と貫入岩体との二つがある。
成層岩体とは地層のことであって、それは元来、水平な板のような形をしている。もっとも、平面的な形態や広がりは明らかでないことが多い。地殻変動の著しかった地域では、褶曲(しゅうきょく)や断層によって、地層は甚だしく変形しているが、それが板である性質は失われない。堆積(たいせき)岩はほとんどつねに成層岩体をなす。変成作用を受けても、成層状態は保存されることが多いので、堆積岩起源の変成岩も成層岩体であることが普通である。
これに対して貫入岩体は、成層岩体の規則正しい積み重なりを貫いて、いろいろな形をなすものである。あるものは割れ目に沿って岩脈をなし、また別のものは地層の面に沿って岩床となる。さらに、周囲の地層のつくる構造とは無関係に、不規則な形で広い地域を占める。貫入岩体は、地下で発生したマグマが地殻の上部に侵入してつくる場合が多く、したがって、ほとんど火成岩である。変成作用を受けても、貫入岩体としての形は保存されることがあり、この場合、変成岩も貫入岩体をなす。マグマが地表に流出あるいは噴出して溶岩や火山灰層をつくる場合、これらは成層岩体となる。このように、地殻を構成する岩石は、その存在状態から、成層岩と貫入岩に区分することができる。
(2)表成岩と内成岩 堆積岩はその構成物質である砂や泥、あるいは微小生物の遺骸(いがい)が、海底や地表に堆積したものである。また溶岩や火山灰も、マグマが地表に噴出し固結したものである。このように、地球表面で生成した岩石は表成岩石とよぶことができる。これに対して、地下の深い所でマグマが固結したものや、地殻内部に働く変成作用の結果生成した変成岩は内成岩石ということができる。このように岩石の生成した場所に基づいて、表成岩と内成岩とに二分することもできる。
(3)成因による区分 岩石の大区分として現在広く用いられているのは、堆積岩、火成岩、変成岩の三つに分けるか、あるいは火成岩を火山岩と深成岩の二つに分けて、合計四つに区分する仕方で、この分け方は岩石の成因に基づいている。ここで成因というのは、それぞれの岩石が経過してきた簡単な、あるいは複雑な生成史のなかでとくに重要と考えられるか、または注目すべき段階のことである。堆積岩は、その構成物質が地球表面(一般には海底)に堆積したものであるという点が重要視される一群の岩石のことである。岩石が変成作用を受けて変成岩になっても、その前史に注目する限り、堆積岩であるとしてよい。次に、マグマの固結作用によって生成した点が重要であるような一群の岩石が火成岩である。マグマが地表に噴出し、火山灰や溶岩として定置したものは、物質の由来を重視すれば火成岩というべきであるが、地表での定置状態に注目すれば堆積岩とみることもできる。さらに、堆積岩や火成岩が変成作用を受けて、新しい組織と鉱物組成をもつようになった場合、その新しい状態に注目すれば変成岩とよぶことができる。しかし、それぞれの前史を重視すれば、依然として堆積岩や火成岩と考えることもできる。
以上の関係を一つの例によって説明してみよう。古い時代の地層中に挟まれている玄武岩質凝灰岩は、その物質の起源はマグマであって、したがって火成岩とみなすことができる。しかし、それは地層をなし、ときには化石を含むから堆積岩でもある。さらに詳しく観察すると、いろいろな変成鉱物を含み、明らかに変成作用を受けたことを示しているから変成岩でもある。つまり、この場合、一つの岩石が見方によって火成岩でも、堆積岩でも、また変成岩でもありうるわけで、このように複雑な歴史をもった岩石は、どれか一つにかたづけてしまうことはできない。
岩石を三区分するためには、その成因がわからなければならない。成因のわからない岩石は区分のしようがない。岩石のなかには火成岩なのか変成岩なのかいまもって論争の絶えない例もある。
[橋本光男]
堆積岩
堆積岩は砂や泥、あるいは生物の骨格や殻(から)などのように、細かいばらばらの粒子が海底や陸上にたまってできた岩石である。
(1)砕屑岩(さいせつがん) 地表に露出する岩石は絶えず風雨にさらされているため、しだいに崩壊あるいは分解していく。岩石には節理や片理のような大きな割れ目ばかりでなく、構成鉱物どうしの間や鉱物自体の中にも、無数の細かい割れ目がある。雨水や地下水はこれらの割れ目に浸透し、そこで鉱物と反応してそれを分解するとともに、岩石を崩壊へと導く。その結果、岩石は直径数メートルもある巨大な岩塊から、微小な砂粒や泥粒に至る、さまざまの大きさの破片になる。また鉱物の変質作用によって、きわめて微細な粘土鉱物が生成する。このようにして生ずる大小さまざまの岩石片や鉱物片などを砕屑物という。
砕屑物は、それが生成した場所にとどまらず、流水や風によって遠く運ばれ、堆積して堆積岩の構成分となる。運搬される砕屑物は途中でふるい分けられ、ある程度大きさのそろったものになることが多い。そこで砕屑物の集合は、その粒径に従って、大きなほうから、礫(れき)、砂、シルト、粘土に分類される。そして、それらが固まって岩石になった砕屑岩は、礫岩、砂岩、シルト岩、粘土岩に分けられる。シルトと粘土を肉眼や手触りで区別することはむずかしいので、この二つはまとめて泥とよばれ、シルト岩と粘土岩もまとめて泥岩とされることが多い。
砕屑岩の以上の分類は、構成粒子の大きさだけを考慮したもので、形や質はさしあたって考えに入れていない。しかし、実際には形や質をも考慮しなければならないことが少なくない。たとえば、礫岩の礫が普通の丸いものではなくて、角張ったものであれば、角礫岩とよんで区別する。また、砂岩でも、砂粒の質を考えに入れると、石英の多い石英砂岩や、長石粒に富むアルコース、他の鉱物や岩石片を多量に含むグレイワッケなどが区別される。なお、堆積岩にしばしば含まれる貝化石などは、砕屑物の一種と考えてよい。したがって、大形化石をたくさん含む岩石は礫岩の一種であり、小形化石に富むものは砂岩と考えてよい。
(2)チャートと石灰岩 堆積岩のなかには前述のような砕屑物をほとんど含まず、微細な生物の骨格や殻のみからなるものがある。
放散虫の殻や海綿の骨針の破片などのように、シリカSiO2(二酸化ケイ素)からできている微小生物の遺骸からなる堆積岩はチャートである。これは非常に細粒緻密(ちみつ)な岩石で、化学組成におけるシリカの量は90%を超えることが多い。日本の中・古生層にはこのようなチャートが多量にあり、ときには珪石(けいせき)として採掘、利用されている。
チャートに対して、有孔虫、サンゴ、ウミユリ、二枚貝、巻き貝、石灰藻(せっかいそう)などのように、炭酸カルシウムCaCO3の殻や骨格をもつ生物の遺骸は、堆積して石灰岩をつくる。
天然の堆積岩の多くは、これらのチャートや石灰岩と前述の砕屑岩との中間的なものであり、また後述の火山砕屑岩との中間のものもあって、いろいろなものの混合物である。一つの堆積岩を、どれかのグループの特性だけで分類することは困難なことが少なくない。
(3)特殊な堆積岩 堆積岩の仲間には特殊なものがある。たとえば、過去の塩湖を示す岩塩やカリ塩などの蒸発岩、鉄の酸化物からなる鉄鉱層、鳥の糞(ふん)からできた燐(りん)鉱などである。また、石炭も堆積岩の一つである。
[橋本光男]
火山岩または細粒火成岩
火成岩のなかで、きわめて細粒かあるいはガラス質のものを火山岩という。このような岩石は火山の溶岩や、比較的浅い地下で固結した貫入岩体のものであることが多い。噴出岩ということもある。
火山岩では細粒ないしガラス質の石基中に大形の斑晶(はんしょう)が散在して、斑状組織をなすことがしばしばある。しかし、火山岩は石基の組成に基づいて分類される。その場合、石基の鉱物組成を基準にするのが実際的であるが、石基がガラス質であるときには化学組成が用いられる。
火山岩を構成するおもな鉱物には二つのグループがある。一つは石英や長石のように無色透明であって鉄やマグネシウムを含まないもの、他は橄欖(かんらん)石、輝石、角閃(かくせん)石、黒雲母(くろうんも)のように有色であり、鉄やマグネシウムで特徴づけられるものである。そこで、岩石(石基)中の有色鉱物の総量を百分率で表したものを、その岩石(石基)の色指数という。斑晶に乏しい火山岩が、完全に鉱物の結晶だけからできていてガラス質を含まず、また風化などによる変色がないならば、肉眼で見たときの色は、色指数が高ければ黒っぽく、低ければ白っぽい。しかし、実際には、岩石の色は色指数以外の多様な原因によっても左右されるから、色指数の大きさと岩石の色の明暗とはかならずしも対応しない。
火山岩は石基の色指数に基づいて、指数の大きいほうから、玄武岩(60~35)、安山岩(35~10)、流紋岩(10以下)に分けられる。もっとも、それぞれの色指数の範囲は、人によって多少違った範囲をとることもあり、同じ色指数の岩石が玄武岩とよばれたり安山岩とよばれたりする。それをどう名づけるかは、したがって重大な問題ではない。
火山岩の化学組成は色指数と関係があり、色指数の増加に伴ってシリカの量が少なくなる。色指数が10以下の流紋岩ではシリカは約70%、安山岩では約60%、色指数が35を超える玄武岩では約50%である。そして、シリカの量の変動に伴って、ほかの成分もある程度規則的に変動する。たとえば、シリカの多い火山岩はマグネシアMgO(酸化マグネシウム)に乏しく、アルカリNa2O,K2Oに富む。そこで火山岩は化学組成だけによっても、分類の体系をつくることが可能である。
流紋岩にはガラス質のものが少なくない。ときには完全にガラス質のみからなるものがあって、黒曜石とか黒曜岩とよばれている。黒曜石の色は黒、赤、緑、灰、無色などさまざまであるが、これはいずれも微量な混入物や鉄の酸化によるもので、流紋岩の組成には変わりはない。軽石もガラス質流紋岩の一種である。ガラス質でない流紋岩は石英、アルカリ長石、少量の黒雲母などからなる石基中に、同じく石英、アルカリ長石、黒雲母などの斑晶を含む。安山岩は多くの場合、斑晶の豊富な斑状組織を示し、斜長石、黒雲母、角閃石、輝石、橄欖石などのいくつかを含む。日本の火山には安山岩を産するものが多い。
玄武岩は斜長石と輝石を主成分とし、ときには橄欖石を含む。地球上の火山岩のなかでもっとも多量に、かつ広範に産し、しばしば広大な玄武岩台地を形成する。たとえば、インド半島のデカン高原の玄武岩台地は、50万平方キロメートル以上の面積を占め、それは日本全土よりも広い。また、大西洋や太平洋、インド洋などの大洋の海底で、堆積物に覆われた基盤岩は、どこでも玄武岩である。
以上述べてきた火山岩類には、ほとんどつねに石英あるいは他のシリカ鉱物(鱗珪(りんけい)石やクリストバル石)が含まれている。しかし、火山岩にはシリカに対してソーダNa2OやカリK2Oが多いため、シリカ鉱物を含まないものがあり、また、シリカの不足がさらに甚だしくなると、準長石(霞(かすみ)石や白榴(はくりゅう)石)が生ずるようになる。シリカに乏しく、それに対してソーダやカリに富む火山岩のグループをアルカリ火山岩類という。アルカリ火山岩で玄武岩に相当するものは粗面玄武岩やベイサナイト、安山岩に相当するものは粗面安山岩やテフライト、流紋岩に相当するものは粗面岩やフォノライトである。
[橋本光男]
火山砕屑岩
マグマが地表に噴出するとき、それは溶岩ばかりでなく、火山岩塊や火山灰にもなる。これらのばらばらな岩塊あるいは破片は、砕屑物と同じように、噴出したのち地表に降下堆積して成層岩体となる。この種の岩石を火山砕屑岩または火砕岩という。火山砕屑岩は火山岩と考えることもできるし、堆積岩の一種とみることもできる。堆積岩と考えれば、その構成物の大きさによって分類、命名することになるが、火山砕屑岩の分類基準と普通の砕屑岩のそれとは、いくらか異なる。比較的大きな火山岩塊を含む火砕岩は、岩塊の量と基質の量との比に基づいて、比の大きいものを火山角礫岩、小さいものを凝灰角礫岩とよぶ。また、小さな岩塊(火山礫)を多く含むものは火山礫凝灰岩であり、細粒の火山灰からなるものは単に凝灰岩とよぶ。なお、火砕岩の構成物質は主として火山岩と同質のものであるから、その組成を考えに入れれば、安山岩質の凝灰角礫岩であるとか、玄武岩質の凝灰岩であるというようによぶことが望ましい。
[橋本光男]
深成岩または粗粒火成岩
火成岩のなかで粗粒のものを深成岩という。深成岩は地下の深い所で生成した貫入岩体の岩石に多い。地下で生成すると、マグマがゆっくり冷却するので、岩石が粗粒になるという考えから、粗粒の火成岩を深成岩とよんでいるが、同一の岩体でも粗粒の部分と細粒の部分と両方あることもあるので、粗粒であるからといって深い所で生成したというわけにはいかない。岩石の組織の粗い・細かいは生成の深さだけで決まるものではなく、マグマの冷却の速さや、流体が存在するかどうかなどによっても著しく左右される。そのことから考えれば、深成岩や火山岩ということばも、本当は好ましいものではない。なお、粗粒あるいは細粒といっても、明確な基準があるわけではない。組織のうえで深成岩と火山岩、あるいはときに半深成岩などを区分するのは、いわば便宜上のことであるともいえる。
深成岩についても、火山岩の石基の場合と同じように、色指数を求めることができる。深成岩は斑状組織を示すことが少ないから、求められる色指数の大小と岩石の肉眼的な色(明暗)や化学組成との間には、斑晶が多かったり、ときにはガラス質であるような火山岩の場合よりも、密接な関係がある。たとえば色指数の大きな斑糲(はんれい)岩は暗い色を呈しシリカに乏しいが、色指数の小さな白っぽい花崗(かこう)岩はシリカに富む。そこで深成岩は、まず色指数が40に達しない明るい色のものと、40を超えるため黒っぽいものとに2大別される。そして、前者は無色鉱物の種類と量比とに基づいてさらに細分され、後者は有色鉱物によって区分される。
(1)色指数が40に達しない深成岩は、花崗岩、閃長岩および閃緑岩で、これらはいずれも長石を主成分とする。そのなかで、主成分の一つに石英の加わったものが広義の花崗岩である。広義の花崗岩は、さらに長石が主としてカリ長石であるような狭義の花崗岩、カリ長石と斜長石とを等量に含む花崗閃緑岩、長石として斜長石のみを含む石英閃緑岩の三つに細分される。すなわち、広義の花崗岩の仲間は次のようになる。
・狭義の花崗岩 石英とカリ長石
・花崗閃緑岩 石英とカリ長石と斜長石
・石英閃緑岩 石英と斜長石
花崗岩は有色鉱物として、黒雲母や角閃石を含むことが多いが、ときには白雲母を含むこともあり、まれには輝石を伴う。
花崗岩は大きな貫入岩体をつくることが多い。とくに、造山帯では堆積岩や変成岩の成層岩体を貫いて、巨大な花崗岩体が形成されている。古い地質時代の岩石からなる大陸の中心部では、広大な地域が花崗岩あるいはそれに近い岩石から成り立っている。このようにして、花崗岩は地球上でもっとも量が多く、分布も広い深成岩であり、大陸地殻の上部は事実上花崗岩でできていると考えられる。
色指数が40に達しない白っぽい深成岩で、主成分として石英を含まず、長石だけを含むものは、閃長岩と閃緑岩である。前者はその長石が主としてカリ長石であるような深成岩で、シリカに対してアルカリ(カリやソーダ)が多い。アルカリが著しく多いものではシリカが不足して、シリカに不飽和な霞石が生ずる(霞石閃長岩)。そのようなアルカリに富む深成岩には、有色鉱物としても、アルカリ角閃石、アルカリ輝石などが含まれることが多い。一方、主成分の長石がカリ長石でなく斜長石である深成岩は閃緑岩とよばれる。閃緑岩はシリカにもアルカリにも乏しく、その化学組成は火山岩のなかでは安山岩のそれに近い。有色鉱物としてもっとも普通のものは、カルシウム角閃石やカルシウム輝石である。なお、閃緑岩は花崗岩や閃長岩に比べて色指数が高く、そのためいくぶん黒っぽくみえることが多い。
(2)色指数が40を超える深成岩は、斑糲岩、橄欖石斑糲岩、橄欖岩である。これらの深成岩は石英を含まないのが普通で、また前二者はある程度無色鉱物(主として斜長石)を含むが、橄欖岩はそれにも乏しく、ほとんど有色鉱物からなる。このようなわけで、色指数の大きいこれらの深成岩は、いずれもシリカに乏しい。斑糲岩と橄欖石斑糲岩は45~50%のシリカ含有量をもち、化学組成上は玄武岩に相当する。橄欖岩のシリカの量はさらに少なく、40%あるいはそれ以下である。
斑糲岩は斜長石と輝石とからなる深成岩で、輝石の種類によって、次のように区分される。
・正規斑糲岩 斜長石+単斜輝石
・ノーライト 斜長石+斜方輝石
・ユークライト 斜長石+単斜輝石+斜方輝石
これらの構成鉱物に橄欖石が主成分として加わったものが橄欖石斑糲岩のグループであり、その細分は前述に従って、橄欖石正規斑糲岩、橄欖石ノーライトおよび橄欖石ユークライトとなる。
橄欖岩は無色鉱物をほとんど含まず、有色鉱物、とくに橄欖石をもっとも主要な成分とする粗粒な岩石である。そしてこの橄欖石は多くの場合、鉄に乏しくマグネシウムに富む苦土橄欖石である。苦土橄欖石は容易に変質して蛇紋石になるので、橄欖岩は蛇紋岩になっていることが多い。これらの岩石は互いに相伴って、造山帯の中で大小の岩体をなして産する。また橄欖岩のあるものは、玄武岩中の包有岩片として産する例も多い。
多くの人々は、橄欖岩のおもなものは、上部マントルを構成している物質が、地殻変動の結果、造山帯中にもたらされたか、あるいは玄武岩マグマにとらえられて、地表に放出されたものであろうと考えている。また、玄武岩中の包有岩片の中には、マグマから晶出した橄欖石が集積してできたものもある。いずれにしても、橄欖岩の多くは他の火成岩のようにマグマが冷却固結して生じたものとはいいがたい。むしろマントルにおいては、橄欖岩からマグマが生ずるものと考えられている。このような成因の岩石を、他のものといっしょに火成岩に含ませることは、かならずしも適切とはいえないが、ここでは従来の慣習に従って火成岩に含めて解説した。
[橋本光男]
変成岩
堆積岩は海底で生成したものであるから、粘土鉱物のような低温で安定な鉱物を含んでおり、また、構成粒子の間に平衡が成立しているとは限らない。一方、火成岩や火山砕屑岩は、高温のマグマから生じたもので、高温で安定な輝石や橄欖石を含み、その組合せも高温で平衡に達したものである。堆積岩や火成岩で構成されている一連の地層が、地殻変動のため地下深くに押し込められたり、マグマの貫入を受けたりして、それらがもともと生成した条件とはまったく異なった条件のもとに置かれると、岩石をつくっている鉱物の間に化学反応がおこり、その場の条件に適合した新しい鉱物の組合せに変化する。それとともに、もとの岩石のもっていた組織も改変される。こうしてできた新しい鉱物組成と組織の岩石が変成岩であり、変成岩を生成する現象が変成作用である。変成作用の本質は造岩鉱物の間におこる反応であって、その際、岩石全体の化学組成はほとんど変化しないのが普通である。いいかえると、変成岩は化学組成上は、それぞれもとの堆積岩や火成岩と同質であり、鉱物組成や組織だけが変化したものである。
変成作用には大きく分けると二つある。一つは広域変成作用であり、広い地域にわたって岩石の再構成作用のおこるものである。他は火成岩貫入岩体の周りに局地的におこる接触変成作用である。広域変成作用は岩石の変形をもおこすことが多く、そのため片理が生じ、結晶片岩や片麻岩ができる。接触変成作用は変形を伴わないので、方向性に乏しい組織のホルンフェルスが生ずる。
変成岩の性質は、このようにして、もとの岩石の化学組成と変成作用の条件、とくに温度と圧力、および変形作用によって規定される。
(1)泥岩や砂岩が比較的低い温度(200℃前後)の広域変成作用を受けると、白雲母や緑泥石に富み片理の著しい結晶片岩ができる。温度が高い(400~600℃)ときには、黒雲母が生成し、さらに岩石の組成いかんによっては、ざくろ石、十字石、藍晶(らんしょう)石、紅柱石、菫青(きんせい)石などもでき、もっと高い温度では珪線(けいせん)石や斜方輝石が生成する。温度の高いときには、鉱物の粒も大きく成長し、そのため片理も弱くなって、片麻岩とよばれる岩石ができる。
(2)玄武岩や安山岩が低温の広域変成作用を受けると、緑簾(りょくれん)石、緑泥石、アクチノ閃石などを含む緑色片岩になる。温度が高くなると、斜長石と普通角閃石を主成分とする角閃岩を生じ、そしてさらに高温では単斜輝石や斜方輝石も現れる。一方、変成作用のときの圧力が十分に高い場合には、緑色片岩に藍閃石、ローソン石、アルカリ輝石、パンペリー石などの鉱物が生ずる。そして、圧力も温度もともに高いときには、玄武岩質の岩石は、オンファス輝石とざくろ石のみからなるエクロジャイトになる。したがって、エクロジャイトは玄武岩の高圧型ともいえる岩石である。
(3)接触変成作用のときには、広域変成作用のときに比べて、圧力に対する温度の比が大きい。つまり、圧力が相対的に低く、高圧鉱物は生成しない。また、温度の低いときには岩石の再構成作用はおこらず、そのため緑色片岩などに相当するホルンフェルスは生じないのが普通である。貫入岩体に近い温度の高い所では、黒雲母、紅柱石、菫青石、普通角閃石、輝石、珪灰石などを生じ、これらを主成分として含む各種のホルンフェルスが形成される。
[橋本光男]
岩石の利用
岩石の利用には二つある。一つは露頭から原石を切り出し、そのままの状態で成形し、石材として利用することである。石材としてとくによく使われるのは、花崗岩と石灰岩で、前者は堅牢(けんろう)で、磨き上げると美しく、また大材が得られるなどの利点があるため、土木建築用石材としてもっとも重要である。一方、後者は色彩や模様の美しさのためと、風化に弱いためとで、内張り用石材、装飾用石材、彫刻用石材としての用途が広い。
岩石のもう一つの利用は、工業原料としてのそれである。なかでもセメント原料としての石灰岩、珪石(チャート)、粘土などや、ガラス原料としての珪石、陶磁器の原料としての粘土や陶土などが重要である。また、各種の金属の原料鉱石や石炭なども、広い意味では岩石の利用ということができる。
[橋本光男]
採集
岩石は地殻を構成する物質そのものであり、われわれは、それを薄片にして観察したり、粉砕して分析する目的で採集するのであるから、どの岩石をどのくらいの量を採集するかは、研究の目的に応じてさまざまである。岩石の標本には自然に決まった形や大きさというものはない。また、岩石はかならず露頭から直接とるべきで、河原や路傍に落ちているものを拾ったのではほとんど意味がない。道具としては岩石採集用として特別に焼きを入れたハンマーを用いる。採集したらその場で、その地点を地図に記入し、地質的産状などをかならずメモする。整理番号もその場で打ち、標本、地図、メモに同じ番号を書き付けておき、あとで混乱を生じないようにする。
[橋本光男]
『都城秋穂・久城育夫著『岩石学』全3巻(1972~1977・共立出版)』▽『橋本光男著『日本の変成岩』(1987・岩波書店)』▽『益富寿之助著『原色岩石図鑑』(1987・保育社)』▽『松井義人・坂野昇平編『岩石・鉱物の地球化学』(1992・岩波書店)』▽『クリス・ペラント著、砂川一郎監修『岩石と鉱物の写真図鑑――オールカラー世界の岩石と鉱物500』(1997・日本ヴォーグ社)』▽『坂野昇平・鳥海光弘・小畑正明・西山忠男著『岩石形成のダイナミクス』(2000・東京大学出版会)』▽『周藤賢治・小山内康人著『岩石学概論』上下(2002・共立出版)』▽『木股三善・宮野敬編『原色新鉱物岩石検索図鑑』新版(2003・北隆館)』