世中・世間(読み)よのなか

精選版 日本国語大辞典 「世中・世間」の意味・読み・例文・類語

よ‐の‐なか【世中・世間】

〘名〙
[一] この世に生きる人間の構成する社会。また、その社会でのさまざまな人間関係。
前世来世に対して、現世。この世。
万葉(8C後)五・七九三「余能奈可(ヨノナカ)は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり」
方丈記(1212)「淀みに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし、世中にある人と栖と、またかくの如し」
② 出家悟道の世界に対して、凡俗の住む世界。俗世。俗世間娑婆(しゃば)
古今(905‐914)雑下・九三九「あはれてふことこそうたて世中を思はなれぬほだしなりけれ〈小野小町〉」
③ 人が他と関係し合いながら生活する場。社会。世間。また、世間での生活やならわし。
※万葉(8C後)一五・三七六一「与能奈可(ヨノナカ)の常の道理(ことわり)かくさまになり来にけらしすゑし種子から」
源氏(1001‐14頃)須磨「世中いと煩はしく、はしたなきことのみまされば」
④ 国。天下。世界。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「世中のまつりごとなど、殊に変るけぢめもなかりけり」
⑤ 勢力の及ぶ範囲。力を発揮できる領分。天下。
滑稽本・八笑人(1820‐49)三「ヲット〆たり、サアこっちの世の中だぞ」
⑥ 世の常であること。世間普通であること。
※万葉(8C後)四・六四三「世間(よのなか)の女にしあらば吾が渡るあなせの河を渡りかねめや」
⑦ 社会の情勢世相世情。→世の中騒がし
※栄花(1028‐92頃)もとのしづく「騒がしき世の中に、このけがらひぬる事と、むつがり給ふを」
⑧ 社会での境遇。世間の待遇。また、世間の評価。
※源氏(1001‐14頃)乙女「官(つかさ)、かうぶり心にかなひ、世のなかさかりにおごりならひぬれば」
生計世渡り
※源氏(1001‐14頃)梅枝「親なくて、世中かたほにありとも」
⑩ 男女の情。夫婦仲。
※伊勢物語(10C前)一〇二「歌はよまざりけれど、世中を思ひ知りたりけり」
[二] 時の流れの一区切り。
① 人の一生。生涯寿命。また、人生。
※万葉(8C後)一七・三九六三「世間(よのなか)は数なきものか春花の散りのまがひに死ぬべき思へば」
② 統治者の在位期間。天皇の治世。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「よの中はいとよく保ち給ふべしとこそ見れ」
③ 当節。当世。その時分
※宇津保(970‐999頃)春日詣「よの中に名高き逸物(いちもち)の者共をなむ、童陪従にも殿上の童をなむしたりける」
[三] 人間界をとりまく自然環境。
① 世間をとりまく空間的なひろがり。外界の様子。四方の自然。あたり。
※古今(905‐914)春上・五三「世中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし〈在原業平〉」
② 天候。気候。
※仮名草子・小さかづき(1672)五「はるあきの世の中もよく、五穀もおもひのほかたくさんにみのり」
③ 農作物、特に稲の作柄。また、豊作。
※今昔(1120頃か)二四「大江定基朝臣、参河守にて有ける時、世中辛くして、露食物无かりける」
[四] (格助詞「の」「に」を伴って) 世にまたとない。世の。
※源氏(1001‐14頃)夕霧「おとどの、つらくもてなし給うしに、世中のしれがましき名を取りしかど」
[語誌](1)仏典に見える「世間」に由来する語。「万葉集」には「世間」と書いて「よのなか」とよませたらしい例が約三〇ある。
(2)「万葉集」の「よのなか(世間)」も、「竹取物語」や「源氏物語」の「世間(せけん)」も、単に「人の世」の意味で使われており、仏教語の「世間」が人間だけでなく天上・修羅・畜生・餓鬼・地獄の六道もみな含んでいるのとは異なる。

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