だに(読み)ダニ

デジタル大辞泉 「だに」の意味・読み・例文・類語

だに[副助]

[副助]名詞活用語連体形連用形副詞助詞に付く。
仮定意志・願望・命令などの表現を下に伴って、取り上げた事柄が最小限であることを強く示す。せめて…だけでも。
「ここに心にもあらでかくまかるに、昇らむを―見送り給へ」〈竹取
軽い事柄をあげて他のより重い事柄のあることを類推させる意を表す。…さえも。…でさえ。…だって。
消息せうそこを―言ふべくもあらぬ女のあたり(=身辺)を思ひける」〈伊勢・七三〉
[補説]上代では1が主で、2は「すら」の領域であったが、平安時代には多く打消しの表現と呼応する形で「すら」の領域をも兼ねるようになった。また、平安時代の末ごろからは添加の意の「さへ」に近い用法も現れ、室町時代には2の用法は「さへ」が代用するようになった。

だ‐に[連語]

[連語]断定助動詞「だ」+接続助詞「に」》
終助詞的に用いて)軽い感動の意を添える。…だからなあ。…なのになあ。
ちょう仕立物に掛ったとこ―」〈逍遥・内地雑居未来之夢〉
逆接的な接続を表す。…なのに。
「あれは夏あるくもん―霜枯には珍らしいの」〈滑・浮世床・初〉
順接的な接続を表す。…だから。
「久しぶり―、ちょっと参らうかと思ひやす」〈洒・辰巳之園

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精選版 日本国語大辞典 「だに」の意味・読み・例文・類語

だに

〘副助〙 体言または体言に準ずるもの、およびそれらに助詞の付いたもの、副詞などを受ける。
① 期待される最小限のものごと・状態を指示する。従って「だに」を含む句の述語は、命令・意志・願望・仮定あるいは否定・反語である事がほとんどである。せめて…だけでも。→語誌(1)(2)。
書紀(720)皇極二年一〇月・歌謡「岩の上に 小猿米焼く 米多儞(タニ)も 食(た)げて通らせ 山羊(かましし)老翁(をぢ)
万葉(8C後)四・六六一「恋ひ恋ひて逢へる時谷(だに)うつくしき言(こと)つくしてよ長くと思はば」
② 程度の甚だしい一事(軽重いずれの方向にも)を挙げて他を類推させる。類推される事柄が、「況や・まして」の語に導かれて示される場合もある。本来は「すら」の用法であったが、中古以後「すら」を圧倒する。…さえ。…までも。→語誌(3)(4)。
※万葉(8C後)四・五三七「言清くいたくもな言ひ一日(ひとひ)太爾(ダニ)君いし無くはあへかたきかも」
古今(905‐914)春下・一〇六「吹く風を鳴きて恨みよ鶯は我やは花に手だにふれたる〈よみ人しらず〉」
[語誌](1)①の否定・反語の表現に用いられた場合は「(せめて…だけでもと願っているのに、その)…さえも…せぬ」の意で、最小限の期待・希望が前提となっているが、その前提は言外に隠れ、「…さえも…せぬ」の意が前面に現われている。ここに、②へと転ずる契機がある。
(2)上代においてはこの①が用法の主流であるが、中世以後は殆ど用いられなくなり、「さえ」がこれに代る。
(3)②は上代にも「万葉集」に見えるが、わずかである。
(4)中世前期において②は用法の主流を占めていたが、中世後期に至り、急速に勢力を失い、「さえ」に取ってかわられる。
(5)語源については、「唯それ一つだけ」の意を表わす「唯に」の約とする説〔改撰標準日本文法=松下大三郎〕、「直に」の約音とする説〔万葉考・広日本文典別記=大槻文彦〕、デアルニの義とする説〔名言通〕などがある。

だ‐に

[1] (断定の助動詞「だ」に接続助詞「に」の付いたもの)
① 順接的な関係での接続を表わす。…だから。
※洒落本・辰巳之園(1770)「久しぶりだに、鳥渡参ろふかと思ひやす」
② 事柄に対する不満の感情をこめて、逆接的な関係での接続を表わす。…なのに。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「髪結床といふものは早く起る筈だに馬鹿々々しい」
[2] (断定の助動詞「だ」に終助詞「に」の付いたもの) 文末の断定に軽い感動をこめる。…なのに。
※内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉一一「恰(ちゃう)ど、仕立物に掛ったとこだに」

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