黙示文学
もくしぶんがく
apocalyptic literature
紀元前2世紀から後1世紀ごろ、ユダヤ教やキリスト教に普及した宗教文学をいう。「黙示」とは「幻」visionと訳されるが、原語のギリシア語動詞アポカルプトーは、覆いを除いてあらわにすることを意味している。その背景には、天上界の秩序、とりわけ将来のできごと、この世の終末が隠された秘密に属している、という考え方が基本にある。古代ユダヤ教ならびに初期キリスト教において、黙示文学とよばれる特殊な文学形式が人々の間に好んで取り上げられたのは、この世の終わりに関する秘密を明らかにし、神の支配の実現と悪霊の破滅を、さまざまな暗喩(あんゆ)を駆使し、写実的、絵画的に描き出す手法としてであった。ユダヤ教の場合、黙示文学は早くから預言と密接に結合し、たとえば「イザヤ書」24章から27章にみられる断片として伝えられているが、もっとも完結した作品としては「ダニエル書」をあげることができる。これは、前165年、シリアのアンティオコス4世Antiochus Ⅳ(前175~前163)の迫害に反抗して起こったマカベア革命の際に書かれた代表的なユダヤ教黙示文学である。初期キリスト教の黙示文学、たとえば「マルコ伝福音書(ふくいんしょ)」13章や「ヨハネ黙示録」が、ユダヤ教黙示文学の強力な影響のもとに成立したことは指摘するまでもないが、当然のことながらユダヤ教にはみられない、いくつかの特徴があげられる。とりわけ、この世の終末をめぐるできごとの描写のなかに、新たにキリスト再臨の大いなる預言とその成就(じょうじゅ)のしるしが圧倒的な比重をもって登場するが、それは初期キリスト教徒の抱いた「幻」がいかに大きく激しいものであったかを物語っている。
[山形孝夫]
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黙示文学
もくしぶんがく
apocalyptic literature
前 200年頃~200年頃にユダヤ・キリスト教文化圏で書かれた一連の宗教的文学ジャンルの総称。未来の出来事,特にこの世の終末のときのありさまについての秘密の知識を超人間的な手段で知り,これを象徴によって人々に語り,最後まで忠実である人々を神が劇的に救済するという匿名の (ときに高名な預言者の名を借りた) 書物が中心。宗教的圧迫や政治的苦難を社会的背景として生れ,民衆の間に広がった。またエッセネ派や原始キリスト教に深い影響を与えた。聖書正典としては旧約の『ダニエル書』,新約の『ヨハネの黙示録』が代表的。その他聖書,外典を問わずこの文学に属する文書または断片は少くない。これらの文学の解釈をめぐっては,未来を預言するとするもの,荒唐無稽とするものなどさまざまな立場がある。 19世紀以来この種の文学が復活し,現代の SFにもこの傾向がみられる。
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もくし‐ぶんがく【黙示文学】
〘名〙 紀元前二世紀ごろから、紀元一〇〇年ごろにかけて、後期ユダヤ教や初期キリスト教で発達した宗教文学。
旧約聖書の「ダニエル書」、
新約聖書の「
ヨハネ黙示録」など。
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デジタル大辞泉
「黙示文学」の意味・読み・例文・類語
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もくしぶんがく【黙示文学 Apocalyptic literature】
紀元前後のユダヤ教,キリスト教の終末論的色彩の強い一群の文書。〈黙示〉は《ヨハネの黙示録》の表題として初めて出る表現で,神によって開示された秘密を報告する文書を意味する。一般に黙示文学と呼ばれる文書群は,様式の点で一定しておらず(幻の報告,預言,勧告などを内容とすることが多い),また各文書間に思想内容のズレがある。それゆえ,黙示文学の範囲については,学者の意見は分かれる。だれもが黙示文学と認める最初の独立文書は,旧約聖書中の《ダニエル書》(前2世紀中ごろ)である。
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世界大百科事典内の黙示文学の言及
【ヨハネの黙示録】より
…1世紀末のキリスト教黙示文学。新約聖書中の一書で,その最後に置かれる。…
※「黙示文学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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