啓示(読み)けいじ(英語表記)revelation 英語

精選版 日本国語大辞典 「啓示」の意味・読み・例文・類語

けい‐じ【啓示】

〘名〙 (「けいし」とも)
① 神が人間に対して、人の力ではとうてい知ることのできないような事をあらわし示すこと。キリスト教では、被造物自然)によるものを一般啓示、キリストによるものを特殊啓示とよぶ。
西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一〇「大衆に無限の権力を啓示する時」
② よくわかるようにあらわし示すこと。
測量船(1930)〈三好達治獅子「かの明瞭の啓示、晴天をよぎって早く消え去った」

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デジタル大辞泉 「啓示」の意味・読み・例文・類語

けい‐じ【啓示】

[名](スル)
よくわかるようにあらわし示すこと。
「その大衆に無限の権力を―する時」〈中村訳・西国立志編
人間の力では知ることのできない宗教的真理を、神が神自身または天使など超自然的存在を介して人間へ伝達すること。天啓。「神の啓示

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「啓示」の意味・わかりやすい解説

啓示
けいじ
revelation 英語
révélation フランス語
Offenbarung ドイツ語

人間の力では不可知の真理や神秘が、神などの超越者によって開示されること。啓示を意味する欧米語の源泉となっているギリシア語「アポカリュプシス」apokálypsisが、隠されているものの覆いが取り除かれることを意味しているように、啓示とは、人間の目には隠されている神的な神秘が覆いを取り去られて示される宗教的なできごとを意味する用語である。このような啓示のできごとに基づく宗教を啓示宗教といい、人間の自然的本性に基づいて宗教的神秘ないし神を認識しうると主張する自然宗教、理性宗教と対比される。宗教学の対象として取り上げられる実証的宗教、すなわち歴史的現象として対象化される宗教は啓示に基づく宗教であって、教祖、教典、教団組織などは、いずれも歴史的なできごととしての啓示を抜きにしては考えられない。たとえばセム的唯一神は、イスラム教では預言者ムハンマド(マホメット)に啓示され、『旧約聖書』ではモシェー(モーセ)に「アブラハムイサクヤコブの神」として啓示され、さらには各時代の預言者を通して啓示される歴史の神である。キリスト教においては、さらに歴史的な存在であったイエス・キリストを通して神の啓示が与えられるだけではなく、イエス・キリストが神の啓示そのものである、という形で明瞭(めいりょう)な啓示宗教が成立する。とくにイエス・キリストが神の啓示といわれる場合、それは単なる知識の伝達にとどまらず、罪によって破れた関係和解を求める意志の伝達として、主体的応答を求める招きの性格をもち、啓示が信仰によって対応されるべきことが明らかにされている。

[熊澤義宣]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「啓示」の意味・わかりやすい解説

啓示
けいじ
revelatio; revelation

神あるいは超越的存在が,一般的意味において人間自身の力では認識できない秘密,特に神が人間の理解をこえて実在する本質が,いわば逆説的な緊張関係においてあらわにされることをいう。人はこの啓示によって神との交わりに入ることを許される。啓示は人間の予測をこえてただ神の側から一方的に訪れるものであるから,キリスト教では,救いを目的とした神の恩寵としての奇跡的行為とみなされる。また神と交わるということは人が神と同化するというのではなくて,むしろ逆説的にみずからの罪と卑小さを悟り真に神を信じ,神を恐れ,救いを待つという意味での人間的関係を神と結ぶことを意味する。キリスト教における啓示は一度限りの決定的な出来事,すなわち神の言葉の受肉としてイエス・キリストにおいて現れたとされるが,このキリストにおける特殊啓示だけを排他的に主張する立場 (K.バルト) ,神の被造物における一般啓示をも認める立場 (自然神学) などがある。

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百科事典マイペディア 「啓示」の意味・わかりやすい解説

啓示【けいじ】

神が人間に自己を啓(ひら)き,真理を示すこと。英語ではrevelation。〈天啓〉〈黙示〉とも。神が超自然的・幻想的な像として現れたり,発言が知的・思弁的な内なる声として聴かれたりする。ユダヤ教,キリスト教,イスラムでは特に重視され,これらを啓示宗教とも呼ぶ。啓示を受ける預言者が大きな権威をもち,啓示の内容が〈書物=啓典〉のかたちで尊ばれるのも三宗教に共通する。

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普及版 字通 「啓示」の読み・字形・画数・意味

【啓示】けいじ

示す。

字通「啓」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の啓示の言及

【基礎神学】より

…カトリック神学の一分野。啓示の真理を取り扱う信仰の学問である教義学体系に対して基礎を与えようとする分野であり,プロテスタント神学では教義学序論(ドイツ語でプロレゴメナ)の用語が用いられるが,実際は,後者は教義学の内容の総論的性格が強く,基礎神学の場合のように,学問の理論的な基礎づけを行うものとは趣を異にする。かつては護教論apologeticaと名づけられたこともあったが,この場合は,その理論づけがキリスト教に反対する人生観,世界観に対して,信仰の学問である神学が理論的に可能であるというばかりでなく,キリスト教の特質を明らかにし,その真理性を弁明する面が強調されたことによる。…

【神学】より

…この点で神学は,宗教を普遍性に基づいて哲学的に研究する宗教哲学とも,客観的・実証的に研究する宗教学,宗教史とも異なる。
【キリスト教神学】
 キリスト教神学は一般的な神概念や普遍的な宗教意識に基づくのではなく,信仰に発する学問として信仰の成立根拠をなす,人間に対する神の自己開示である啓示に基づいて成立する。神学の固有性は自然的な理性認識によっては達せられない啓示に基づく啓示神学である点に認められる。…

【ヘブライズム】より

…ここではヘブライズムの淵源である旧約聖書(一部新約聖書)の根本思想の特色を摘記するにとどめる。 ヘレニズムがヒューマニズムと本質的につながるのに対して,ヘブライズムは神から人への啓示を根幹とするといえよう。これを,われわれ日本人にとっての仏教思想との対比においても確認しておきたい。…

※「啓示」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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