通俗小説
つうぞくしょうせつ
娯楽性が強く、大衆に広く迎え入れられている読み物をいう。いわゆる純文学に対立する概念が伴う。幕末以前に取材した俗受けする髷物(まげもの)小説が大衆小説とよばれるのに対して、通俗小説は現代の家庭生活に取材し、読者に媚(こ)びる要素をつねにもつところに特色がある。歴史的にみると明治の家庭小説にその源流が求められる。尾崎紅葉(こうよう)の『金色夜叉(こんじきやしゃ)』(1897~1902)、徳冨蘆花(とくとみろか)の『不如帰(ほととぎす)』(1908~09)などがそうであり、大正中期の久米(くめ)正雄の『蛍草(ほたるぐさ)』(1918)や菊池寛の『真珠夫人』(1920)などを経て、昭和期の小島政二郎(まさじろう)、吉屋信子(のぶこ)、石坂洋次郎らの作品につながる。第二次世界大戦後になると、通俗の概念は題材的にエロティシズムやサラリーマン物や推理物をも含め、多様化していくこととなる。
[関口安義]
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つうぞく‐しょうせつ ‥セウセツ【通俗小説】
〘名〙 芸術的
価値に
重きを置かないで、
一般大衆の娯楽・慰安を目的とした小説。大正期以降、主として純文学に対して用いられた。
※桐畑(1920)〈里見弴〉好敵手「通俗小説(ツウゾクセウセツ)で泣かされてゐる女学生や」
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デジタル大辞泉
「通俗小説」の意味・読み・例文・類語
つうぞく‐しょうせつ〔‐セウセツ〕【通俗小説】
芸術的価値に重点を置かず、一般大衆の好みに応じて書かれた娯楽性の高い小説。
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つうぞくしょうせつ【通俗小説】
文芸用語。筋のおもしろさを中心にした小説で,芸術性よりも娯楽性や大衆性に力点の置かれているものをいう。内容的にはその時代の好みや流行を追い,社会風俗を描いたものが多い。したがって狭義には現代風俗小説をさす。文学史的には,日本では明治30年代に流行した家庭小説に始まり,大正中期に至り,新聞の発行部数が100万部をこえ,大衆雑誌や婦人雑誌が続発した状況を背景に,久米正雄や菊池寛などの有力な作家が進出して多数の読者を確保して以来,通俗小説の隆盛を迎える。
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世界大百科事典内の通俗小説の言及
【真珠夫人】より
…しかし,崇拝者の一人,青木稔を義理の娘美奈子が慕っていることを知った彼女は,稔をしりぞけるが,その真意を誤解した彼に刺されて死ぬ。驕慢な妖婦として描かれた瑠璃子には,大正期の〈新しい女〉の幻想が投影されており,家庭小説の枠組を破った新しい通俗小説の誕生を告知する画期的な作品である。【前田 愛】。…
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