家庭小説
かていしょうせつ
文芸用語。日本の文学史上で明治30年代に悲惨小説、観念小説の反動として出てきた家庭生活を素材にした小説をいう。一名、光明小説ともいい、封建的な家庭関係の矛盾に苦しむ女性を主人公とし、彼女がキリスト教や儒教の教え、または純粋な愛情によって問題の解決を得るというのがパターンになっている。それだけに、そこには家庭内の矛盾はいちおう描き出されるが、それを暴き、徹底的に対決究明する姿勢に乏しく、安易な結末、常識的・通俗的解決に終わってしまうものが多かった。代表的作品に徳冨蘆花(とくとみろか)の『不如帰(ほととぎす)』(1898~99)、菊池幽芳(ゆうほう)の『己(おの)が罪』(1899~1900)、中村春雨(しゅんう)の『無果花(いちじく)』(1902)、草村北星(ほくせい)の『浜子』(1902)、田口掬汀(きくてい)の『伯爵夫人』(1905)などがある。
[畑 実]
『『明治文学全集93 明治家庭小説集』(1969・筑摩書房)』
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家庭小説
かていしょうせつ
主として家庭の女性読者を対象にした,道徳的に健全な通俗小説。光明小説,健全小説ともいわれる。日清戦争後の明治30年代(1897~1906)に深刻小説に対立するものとして成立し,多くは新聞小説のかたちで発表された。上流・中流家庭における封建的な男女・家族関係から生ずる悲劇を扱ったものが多いが,旧来の儒教的道徳(→儒教)や常識を打破する体のものはなく,感傷的な通俗読み物にとどまった。代表的作品は,徳冨蘆花の『不如帰』(1898~99),菊池幽芳の『己が罪』(1899~1900)など。
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かてい‐しょうせつ ‥セウセツ【家庭小説】
〘名〙 家庭婦人などを対象とした健全な内容の小説。家庭向きの小説。明治三〇年代に流行。上流・中流社会における儒教的・キリスト教的道徳と調和し、家族間の
愛憎や道徳を多く
題材としている。
※「浜子」を読む(1903)〈小島烏水〉「本篇は『家庭小説』として些の猥気が好(よ)く、清新の一字を許すことを躊躇しない」
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デジタル大辞泉
「家庭小説」の意味・読み・例文・類語
かてい‐しょうせつ〔‐セウセツ〕【家庭小説】
1 家庭内部の種々な出来事を題材とする小説。
2 家庭内のだれでもが読めるような健全で通俗的な小説。徳富蘆花「不如帰」をはじめ明治30年代に流行。
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かていしょうせつ【家庭小説】
文芸用語。1900年(明治33)前後に流行した通俗小説の一種で,おもに家庭婦人を読者の対象として書かれた長編の現代小説をいう。平易な文章で,比較的に筋も単純で人物も類型的だが,健全な家庭,社会の道徳をむねとした作風であり,女性読者の好尚を反映した当代風俗小説の一面もあった。必ずしもハッピー・エンドを心がけてはいないが,ときに明るい解決を目ざしたものもあり,〈光明小説〉と呼ばれた(中村春雨の《無花果(いちじく)》(1901)など)。
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世界大百科事典内の家庭小説の言及
【女流文学】より
…女流文学という文学上のジャンルがあるわけではないが,抒情的表現にすぐれた才能が示されることが多い一方,強い構成力を要する劇作ではすぐれた女性作家は近年までまれであったといえよう。17~19世紀のフランスにおけるサロン文学や,欧米の家庭小説などは女流文学の成果が結実した例であるが,日本の平安時代のように女流文学が隆盛をきわめた例は類をみない。近代になって女性の社会的地位が向上するに伴い,女性の文学活動も活発になり,今日では多くの国々ですぐれた女流作家が輩出している。…
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