疫病(伝染病)(読み)えきびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「疫病(伝染病)」の意味・わかりやすい解説

疫病(伝染病)
えきびょう

かなり広い地域に集団的に発生、伝播(でんぱ)する急性伝染病をいい、全身的な症状を示して急性な経過をとる。現在では流行病とよばれることが多い。

[井之口章次]

疫病よけ

疫病をはやらせるのは、疫神疫病神(えきびょうがみ)、疫神(えやみのかみ)ともいう)という霊的なものが、よそからやってくるもののように昔は考えられていた。したがって疫病を除くためには、疫神に対処する方法が考えられた。それには大別して、(1)村境注連縄(しめなわ)などを張るもの、(2)疫病の源を藁(わら)人形その他の形代(かたしろ)につけて、それを村から外へ送り出し、また海や川へ流し捨てる形、(3)疫神をなだめ祀(まつ)り、予防しようとするものなどがあり、このうち(2)の送り流す形式がもっとも一般的である。

 まず(1)の形式には、近村に疫病が流行すると、村境に御札(おふだ)を立てたり注連縄を張ったりして、わが村に悪霊の入ってこないようにする形と、村内に流行病が発生し、(2)のようにして疫病をよそへ送り出したのち、ふたたび戻ってこないように注連縄を張るものとがある。また疫病締め出しの呪法(じゅほう)は、村なり集落なりが共同して行い、共同祈願の形式をとるのが一般であるが、ときには個人呪術として、各家で自家の軒先門口だけに、疫病を締め出すための設備をすることもある。高知県の山村では、集落境に3~4尺(約90~120センチメートル)のつくりかけの大草履(ぞうり)の片方だけをつるす所があり、この集落にはこんな大草履を履く巨人がいるぞと脅かすのだと説明している。茨城県の一部では、かぜの流行したとき、箸(はし)に綿を巻いたものと唐辛子(とうがらし)と一厘銭とを篠竹(しのだけ)に結び付けて三叉路(さんさろ)に立てた。大阪府泉南郡の一部には、鰶(このしろ)を5尾ほど村の入口の道に埋める所もある。江戸時代の紀行文に、秋田県山本郡の一部で、疱瘡(ほうそう)よけのために、大藁沓(わらぐつ)を軒にかけ、「軽部安右衛門(やすえもん)宿」と書いた札を挿した家があったという。

 (2)の形式は全国に広く分布しており、藁人形を担いで鉦(かね)太鼓を鳴らしながら村中を歩き、これを村境で焼き捨てるとか、藁船をこしらえて海へ流し捨てるものであり、虫送りなどの形式に似ている。このとき鉄砲を撃つ所もある。個人祈願でも同様のことを小規模に行っているが、種痘が行われるようになっても疱瘡送りの形が継承され、種痘後12日目などに、桟俵(さんだわら)に赤飯と赤い御幣(ごへい)をつけ、辻(つじ)に捨ててくる風習が広く行われている。

 (3)の形式としては、年の暮れか正月に祀る例が多く、たとえば香川県の小豆(しょうど)島では、大晦日(おおみそか)に近くの四つ辻から厄病神を迎えてきて、正月三が日は土間の片隅で疱瘡神と風邪の神を祀り、「常の日にはけっしておいでくださいますな」などといって、3日には元の場所へ送り出す所作をしている。

[井之口章次]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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