疫病(読み)エキビョウ(英語表記)epidemic

翻訳|epidemic

デジタル大辞泉 「疫病」の意味・読み・例文・類語

えき‐びょう〔‐ビヤウ〕【疫病】

悪性の伝染病。はやりやまい。疫癘えきれい。えやみ。やくびょう。
[類語]伝染病はやり病感染症

やく‐びょう〔‐ビヤウ〕【疫病】

悪性の伝染病。えやみ。えきびょう。

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精選版 日本国語大辞典 「疫病」の意味・読み・例文・類語

えき‐びょう ‥ビャウ【疫病】

〘名〙 悪性の伝染病。流行病。えやみ。やくびょう。疫癘(えきれい)
※改正増補和英語林集成(1886)「Ekibyō エキビャウ 疫病」
[補注]古くは多く「やくびょう」か。

やく‐びょう ‥ビャウ【疫病】

〘名〙 伝染性の激しい熱病。えやみ。時のけ。えきびょう。
※続日本紀‐慶雲三年(706)閏正月乙丑「勅、令祈神祇、由天下疫病也」

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改訂新版 世界大百科事典 「疫病」の意味・わかりやすい解説

疫病 (えきびょう)
epidemic

流行病ともいう。ヒトからヒトへつぎつぎに広がり,集団発生する病気をいう。病原微生物も治療法もわからなかった近年まで人々にたいへん恐れられた。比較的限られた地方に患者が限局するときを小流行,全国的規模で患者が発生したときを大流行,世界的規模で患者が発生したときを汎流行という。最近の汎流行の例として,1957年に発生したA2インフルエンザ(アジア風邪)がある。患者または保菌者,または保菌動物が病原微生物を体外に排出し,これに直接接触するか,または食器,玩具などを介して間接的に接触したり,飛沫によったり,飲食物を介して経口的に,また傷口を通して伝播していく。さらに,カやハエ,ダニなどの節足動物を介して伝播することも少なくない。そして抵抗力(免疫,遺伝,栄養状態など)の弱い人が病気となる。近年,抗生物質の開発などにより大きな流行は少なくなったが,現在,日本では猩紅(しようこう)熱,インフルエンザ(集団風邪),麻疹(はしか),風疹,流行性耳下腺炎(おたふく風邪)などの流行がみられる。しかし,これらについても治療法や予防法(ワクチン接種)が確立されつつある。
執筆者:

疫病は日本語では《古事記》や《日本書紀》には病,疫疾,疫気などと書かれ,エヤミ,エノヤマイ,トキノケなどと読み,鎌倉時代から江戸時代にかけては疫癘,時疫,ハヤリモノ,ハヤリヤマイなどと呼ばれていた。英語のエピデミックギリシア語のエピデモスepidēmos(〈民衆の上に〉の意)から出た言葉である。

 人類の歴史が始まってこのかた,人間の命を奪った最大の原因となったのは疫病であり,戦争や天災による死因をはるかに上まわる。したがって人間の歴史に与えた疫病の役割はきわめて大きい。文明時代に入って以後の人間の歴史にとりわけ深いつめあとを残した疫病としては,ペストマラリア,痘瘡,麻疹,発疹チフス腸チフス,赤痢,コレラ,インフルエンザなどの急性伝染病,癩(らい)(ハンセン病),結核などの慢性伝染病,それに性病の梅毒などがあげられる。これらの大部分は,もとはある限定された土地の地方病(風土病)であったが,文明・文化の発展・交流により,人が動き,物が動くにともない,他の地域へと伝播し,世界的流行となったものである。文明はつねに疫病と抱合せであり,文明伝播のコースはまた疫病伝播のコースとも重なり合う。シルクロードはペストロードであり,〈ローマの道〉はマラリアの道でもあった。歴史世界で長く文明をリードしてきたヨーロッパに例をとると,13世紀の癩,14世紀のペスト,16世紀の梅毒,17~18世紀の痘瘡,発疹チフス,19世紀のコレラ,結核,20世紀のインフルエンザというように,それぞれの時代の社会なり文明なりは,それ特有の疫病をもっており,その疫病はその文明の変革,社会の改革によって消滅していくが,次の時代には別の疫病が出現していくことがわかる。また疫病は戦争・天災・貧困と深い相関関係をもっているが,中世末期とペスト,ルネサンスと梅毒,産業革命と結核,近代化とコレラのように,時代の激動期,社会の変改期に新しい疫病が出現・流行するという歴史的因果関係をもっているといえる。こうして文明は疫病をつくり,また疫病は文明を変え,動かしていく。古代のギリシアやローマを滅ぼした一因はマラリアであった。中世末期ヨーロッパを襲ったペストは近代を開く陣痛となり,発疹チフスはナポレオンをロシアから敗退させる一因となった。その後のたび重なる戦争では軍隊極微コレラ菌赤痢菌のために壊滅した例も知られ,また結核や梅毒は近代思想,さらには文学・美術などに深い影を落としてきた。

 疫病の病理が明らかになるのは,細菌学が成立した19世紀後半のことであり,一般の人々の常識になるのは最近のことである。それまでの長い間は,疫病は神罰であるとか,疫神(厄病神)という超自然的なものがはやらせるなどと考えられ,疫神をまつる民俗・風習が各地に根強く広がっていた。
執筆者:

疫病 (えきびょう)
late blight

卵菌類のPhytophthora属菌の寄生によって起こる病害で,植物に水浸状の病斑を生じ,病状が進むとべとべとに腐って枯れる病気。最も有名な疫病はジャガイモ疫病である。この病気の記録は古く,19世紀アイルランドにジャガイモの大凶作をもたらしたことはよく知られる。葉の縁ににじんだような暗紫色の斑点ができ,梅雨期には急激に拡大して,ひどいときは数日で畑全面が枯れ上がる。葉を裏返すと,病斑を囲むようにして毛状の白いカビが生えているが,これは胞子囊柄と遊走子囊である。この中に形成された遊走子は,土や植物表面の水滴や水の被膜の中を泳いでいって健全な植物を侵す。翌年の発生の源となるのは病気にかかったいも(塊茎)が多い。まんえんが心配されるときは銅剤を散布すると効果がある。近年ハウス栽培のトマトにも疫病の被害が多くなっている。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「疫病」の意味・わかりやすい解説

疫病【えきびょう】

(1)伝染病のうち,だいたい急性で,全身症状を呈し,集団的に発生するものの古い呼称。〈やくびょう〉とも読む。《古事記》では役病(えやみ),《日本書紀》では疾疫・疾気(えのやまい)と記している。(2)農業上の疫病は,卵菌類のフィトフトラ属菌による病気で,ジャガイモ,タバコ,トマト,ウリ類など多くの植物の葉,茎,果実をおかす。代表的なものはジャガイモ疫病で,被害も最も大きい。はじめ水浸状,やがて緑褐色の病斑を生じ,軟化する。湿度の高いときは病斑上に霜状の胞子を見る。防除は銅剤,ジネブ剤など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「疫病」の意味・わかりやすい解説

疫病
えきびょう

植物病の1つ。疫病菌 Phytophthoraの寄生により,植物の各部に発生する。たとえばジャガイモ疫病では,葉は病気の初期に暗緑色,水浸状の病斑を生じ,まもなく暗褐色となりその表裏にきわめて細かい白色の菌糸体を生じる。病気が進んだ葉では葉縁が巻上がり,茎は暗褐色の条斑をつくり,ひどくなると茎や葉が熱湯を浴びたようになる。地下茎もおかされ,内部は軟化腐敗する。この菌は藻菌類に属し,ジャガイモのほかナス,イチジク,タバコ,チョウセンニンジン,リンゴなど多くの農作物に疫病を引起す。

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普及版 字通 「疫病」の読み・字形・画数・意味

【疫病】えきびよう・やくびよう

えやみ。

字通「疫」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の疫病の言及

【伝染病】より

…昔から〈はやり病(やまい)〉〈疫病〉として人から恐れられてきた病気のことで,病原微生物の感染によって発病する。日本では,感染と伝染の区別があいまいで,この二つは同義語のように用いられることが多いが,感染infectionとは病原微生物が生体に侵入して増殖し,生体に害を与える場合(この病的異常状態が感染症infectious disease)をいい,伝染とは感染症の経過中,感染生体から分泌物や排出物とともに病原体が出て,それが接触または媒介によって他の生体を感染させる場合をいう。…

【風土病】より

…かつては各種のビタミン欠乏症が,全世界的に風土病的疾病をひき起こしていた。【川口 啓明】
[疫病と風土病]
 疫病(エピデミック)は,もともとは地球上のある地域に限局して流行していた風土病(エンデミック)である。癩,マラリア,ペスト,天然痘(痘瘡),はしか(麻疹),発疹チフス,コレラなど世界史につめあとを残した疫病も,それぞれの原発地があり,そこで小流行を繰り返していたのが,文明の発展あるいは文化の交流につれて,世界的流行(パンデミー)となったものである。…

【厄病神】より

…疫病や災厄をもたらすという神。行疫神,疫病神,疱瘡神なども同種の神である。…

※「疫病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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