改訂新版 世界大百科事典 「村境」の意味・わかりやすい解説
村境 (むらざかい)
ムラ(村)を内外に区分する境。ムラは,理念型としては,家々が集合する集落を中心とし,その周囲に田畑という耕地が展開し,その外側に山野が広がっている。このムラの三重の同心円のうち,村境として境界がはっきりしているのは,一つは範域の境である山野(ときには耕地)が他のムラの山野や耕地と接する所であり,もう一つは社会的な境である集落と耕地の境界である。前者の範域の境はもともとは必ずしも明確なものではなかったと思われるが,中世の惣村(惣(そう))の展開のなかで他のムラとの境界がしだいにはっきりとしてきた。そして,近世初頭の検地とそれに伴う村切は,百姓の耕作する田畑を必ずどこかの村に帰属させ,検地帳に登録したので,支配単位としての近世の村に属する田畑は地図に示すことができるようになり,その境界も明確となった。この範域は原則的に地租改正に引き継がれ,現在の大字(おおあざ)の範囲となっている。範域としての境界においても道祖神(どうそじん)がまつられたり,道切りが行われることもあるが,事例的には少ないので,一般的には村境として強く意識されていない。
ムラの人々が村境として意識し,さまざまな呪術的行事を行う社会的境界は集落と耕地の境である。範域としての境よりもはるかに内側になる。村境といっても集落の周囲すべてのことではない。外からムラへ入ってくる道が集落に入ろうとする地点が村境なのであり,外に通ずる道の数だけ村境はあるといえる。人間や物資だけでなく,ムラに危険をもたらす邪悪な霊もすべて道を通って入ってくる。そこで,この村境でそれら危険なものの侵入を阻止しようとする。正月に村境に太いしめ縄を張る勧請(かんじよう)吊りは近畿地方に多く,その代表的なものであるが,東北地方によく見られる巨大なわら人形や,全国各地で行われる大きなわら蛇を村境に置くのも同様の意味がある。また道祖神もたいていここにまつられている。村境は邪悪なものを呪術的装置を設定して阻止する所であるが,同時に〈坂迎え〉のようにムラにとって望ましい人や霊を送迎する地点でもある。したがって,村境はムラの外れにあるが,外の世界との接点であり,人々の集合する場所であるから,ムラの中心としての広場の役割も果たすのである。
→境
執筆者:福田 アジオ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報