忌・斎・諱(読み)いむ

精選版 日本国語大辞典 「忌・斎・諱」の意味・読み・例文・類語

い・む【忌・斎・諱】

[1] 〘他マ五(四)〙
① (主に呪術的な信仰上のことについて) 身を浄め慎んでけがれを避ける。禁忌とする。忌みきらう。
万葉(8C後)一六・三七九一「飛ぶ鳥の 飛鳥壮士(あすかをとこ)長雨(ながめ)(い)み 縫ひし黒沓」
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「十に余りぬる人は、雛遊(ひひなあそび)はいみ侍るものを」
② ある物が他の物のそばにあったり、いっしょになったりすることを禁忌とする。特に漢方で、ある薬が他の物質とまざり合うことを、効能が落ちるとして避けること。
※全九集(1566頃)二「黄芩〈略〉猪の肉をいむ。葱実をにくみ、辰砂牡丹藜蘆をおそるるなり」
③ はばかる。憎む。嫌悪する。「不正を忌む」
史記抄(1477)五「王翦は名将であるに、代将なんどと云へば其名も墜るほどに、諱て不言歟」
④ 何らかの理由で、特定の文字や言葉を使用することを避けて、他のものに代える。
※史記抄(1477)一二「始皇の父の諱が楚ぢゃほどに、忌て荊と云ぞ」
[2] 〘自マ五(四)〙
① けがれを避けて身を浄め慎む。禁忌を避けてひきこもり、身を清浄に保つ。
※類従本信明集(970頃)「神代よりいむといふなる五月雨此方に人を見る由もがな」
② (「いむこと」の形で用いられる例が多い) 仏の戒を受ける。受戒する。
書紀(720)崇峻即位前(図書寮本訓)「出家(いへて)の途は、戒(イム)ことを以て本と為」
[語誌]類義語「いはふ」とは、禁忌を守り清浄を保つという意味を共有しているが、「いはふ」が言葉や行為によって、霊威あるものにはたらきかけ、よいことを求めるという積極性をもつのに対して、「いむ」は、言葉や行為を慎んで、霊威あるものに触れないように敬い避けるという消極的な傾向をもっている。

いみ【忌・斎・諱】

[1] 〘名〙 (動詞「いむ(忌)」の連用形の名詞化)
① 神聖に対する禁忌。心身を清浄に保ち、けがれを避け慎むこと。斎戒
※書紀(720)持統五年二月(北野本室町時代訓)「卿等(いましたち)、天皇の世(みよ)に、仏殿・経蔵を作りて、月ごとの六(むより)の斎(イミ)を行へり」
② (①から転じて) 忌み避けるべきだとされていること。遠慮があること。はばかるべきこと。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「いかで対面給はらん、いみなき身なりせば、そのわたりにこそは物せめ」
※源氏(1001‐14頃)絵合「事のいみあるは、こたみは奉らじ」
③ 死のけがれに対する禁忌。人の死後、喪にこもるべき一定の期間。喪中。喪。服(ぶく)
※大和(947‐957頃)九四「故中務の宮の北の方うせ給ひてのち〈略〉御いみなどすぐしては」
④ 出産のけがれ、月経のけがれ等の血のけがれに対する禁忌。〔日葡辞書(1603‐04)〕
陰陽道などに基づく方角や日の禁忌。方たがえ。物忌。
※蜻蛉(974頃)中「いとつれづれなるを、いみもたがへがてら、しばしほかにとおもひて」
⑥ 「いみだけ(斎竹)」の略。
※六百番歌合(1193頃)夏上「今日祭る神の恵はかねてより卯月のいみのさして知りにき〈藤原季経〉」
[2] 〘語素〙 けがれを清めた。神聖な。「忌服屋(いみはたや)」「斎殿(いみどの)」など。
[語誌]「物忌み」「方忌み」などの語が平安時代から見られ、陰陽道の浸透によって、日常生活においてもさまざまな「忌み」が行なわれた。

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