五月雨
さみだれ
陰暦5月に降る長雨。梅雨と同じであるが、梅雨は主として五月雨の降る季節をさし、五月雨は雨そのものをさすことが多い。雨の降り方としては、前期はしとしと型、後期は集中豪雨型のまとまった降り方をする。「五月雨」の語は上代の用例にはみられず、平安時代に入ってからの語だが、『万葉集』巻19の大伴家持(おおとものやかもち)の「卯(う)の花をくたす長雨(ながめ)の始水(はなみづ)に寄る木屑(こつみ)なす寄らむ子もがも」は、五月雨の異称「卯の花くたし」の早い例であり、「いとどしく賤(しづ)の庵(いほり)のいぶせきに卯の花くたし五月雨ぞ降る」(『千載(せんざい)集』夏・藤原基俊(もととし))などと詠まれた。「五月雨にもの思ひをれば時鳥(ほととぎす)夜深(よぶか)く鳴きていづち行くらむ」(『古今集』夏・紀友則(きのとものり))、「さみだれはもの思ふことぞまさりけるながめの中にながめくれつつ」(『和泉(いずみ)式部集』)のように、「長雨(ながめ)」はもの思い(「眺(なが)め」)をかきたて、歌の贈答の折でもあり、「徒然(つれづれ)」の慰めとして「雨夜の品定め」(『源氏物語』帚木(ははきぎ))なども催された。夏の季語。「五月雨を集めて早し最上川(もがみがわ)」(芭蕉(ばしょう))。
[根本順吉・小町谷照彦]
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さみだれ【五月雨】
〘名〙
① 陰暦五月頃に降りつづく長雨。また、その時期。つゆ。梅雨
(ばいう)。
さつきあめ。《季・夏》
※古今(905‐914)夏・一五四「五月雨に物思ひをれば郭公夜ふかくなきていづちゆくらむ〈紀友則〉」
※俳諧・奥の
細道(1693‐94頃)最上川「五月雨をあつめて早し最上川」
② (「さみだれ」が少しずつ繰り返し降ることから) 継続しないで、繰り返す行動などについていう。「さみだれ式」
[語誌](1)「さ」は「さつき(五月)」の「さ」と同根。「万葉集」など上代の
文献には確認できない。上代では季節にかかわりなく「三日以上(の)雨」〔十巻本和名抄・一〕をいう「なが(あ)め」に包含されていたと思われる。
(2)歌題としては「長元八年関白左大臣頼通歌合」が早く、その後「堀河百首」、そして「金葉集」
以後の
勅撰集で多く立てられ、
夏季の代表的素材となった。
さみだ・る【五月雨】
〘自ラ下二〙 さみだれが降る。
和歌では、多く「さ乱る」の意をかけて用いる。《季・夏》
※宇津保(970‐999頃)内侍督「さみだれたるころほひのつとめて」
※和泉式部日記(11C前)「おほかたにさみだるるとや思ふらむ君恋ひわたる今日のながめを」
さつき‐あめ【五月雨】
※
金槐集(1213)夏「五月あめ降れるにあやめぐさを見てよめる」
※俳諧・猿蓑(1691)二「日の道や
葵傾くさ月あめ〈芭蕉〉」
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デジタル大辞泉
「五月雨」の意味・読み・例文・類語
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五月雨
旧暦五月頃に降る長雨。いまの梅雨の長雨。「さ」はさつき(五月)、「みだれ」は雨が降る“みだれ(水垂)”という説がある。
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五月雨【さみだれ】
旧暦5月(太陽暦ではほぼ6月)に降る雨。梅雨と同じもの。
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世界大百科事典内の五月雨の言及
【雨】より
…(3)雨の降る季節による名称 (a)春雨 春にしとしとと降る霧雨。(b)五月雨(さみだれ) 陰暦5月に降る雨。(c)梅雨(ばいう) 6月上旬から7月上~中旬ごろにかけて降る雨。…
【日本列島】より
… つばな流し茅花(つばな)(チガヤの花)のわたのほぐれるころ,すなわち陰暦4~5月ごろに吹く南風をいう。 卯の花くたし卯の花をくさらす意味から転じて五月雨(さみだれ)のこと,あるいは陰暦4~5月ごろに降る長雨をいう。くたしは腐らすの意味。…
【梅雨】より
…〈つゆ〉ともいう。太陰太陽暦では梅雨の時期が5月にあたるので,五月雨(さみだれ)ともいった。梅雨は東アジアだけにみられる雨季で,6月上旬より7月上旬にかけて日本の南岸から中国の長江流域にかけて前線(梅雨前線)が停滞して長雨を降らせる現象である。…
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