実験的社会心理学(読み)じっけんてきしゃかいしんりがく(英語表記)experimental social psychology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「実験的社会心理学」の意味・わかりやすい解説

実験的社会心理学
じっけんてきしゃかいしんりがく
experimental social psychology

狭義には、実験手法中心的に用いた社会心理学研究をさすが、しばしば調査的手法による研究も含めて、実験とか調査などのような実証的手法で得たデータに基づいて分析を進める社会心理学をさすこともある。このようなやり方は心理学の研究手法の特徴の一つでもあるので、文献や歴史的資料によったり、研究者の世界観に基づいて論理的に現代の社会心理を解釈する社会学的傾向の社会心理学と対比したりして、広義の実験的社会心理学はしばしば、心理学的社会心理学ともよばれる。

[中村陽吉]

特徴

実験や調査という手法に頼って、社会的枠組みのなかでの個人の行動とか集団的に示す行動などの特徴や法則を明らかにしようとするのが、実験的社会心理学の目的である。したがって、研究者の意見とか解釈よりも、そこで得られた資料の範囲内でいかなる事実が明らかにされているかを示すことに重点が置かれている。もちろん、ただ事実を示せばよいのではなくて、その事実の意味するところについての解釈も必要であるが、その解釈が妥当なものであるか否かについても、さらに実験や調査で得た事実によって検討されなければならない。

 また、実験や調査のやり方が悪いと、そこから得た結果は事実とはほど遠いものになってしまったり、それが事実なのか否かを決めることができなくなってしまう。そのため、調査や実験が科学的に意味のある事実を把握できるように、方法的検討がつねになされている。そして、調査的手法では質問紙(アンケート)や面接などで、政治経済、社会などに関する多くの人々の意見とか行動様式などをとらえることを目ざすが、実験的手法では、特定の条件下で、いかなる要因が働いて当面の行動が生じるのかを、たとえば、攻撃、援助、説得、同調、リーダーシップなどの行動について明らかにしようとするものである。

[中村陽吉]

種類

実験的社会心理学で用いる実験には、大別して次の3種がある。実験室の中に被験者にきてもらい、厳密な条件統制のもとに極力一義的な結果を得ようとする実験室的実験laboratory experiment、条件統制はある程度不十分になっても、現実感のある結果を得るために、われわれの生活場面のなかで実験を行う現場実験field experiment、そしてさらにもう一つ、実際の社会のなかで研究者の意図とかかわりなく生起した自然的あるいは社会的できごと、たとえば地震による災害の発生とか、教育制度の変革などが、人々の行動にいかなる影響を及ぼしたかを調べる自然実験natural experimentである。実験室的実験や現場実験は、研究者が意図的に場面の操作をしてその影響をみるのだが、自然実験は、現実生活のなかに自然に生じた(研究者が操作したのではないという意味で自然)現象が原因となって、いかなる結果を生み出したかをみるもので、実験としては特殊である。

[中村陽吉]

研究史

社会心理学的研究に実験的手法が用いられたのは19世紀末から始められた「個人状況と他者共在状況」との比較についての一連の実験が最初と思われる。そして、レビンK. Lewin(1890―1947)によって1930年代の後半から始められたグループ・ダイナミックスgroup dynamics(実験を中心にした集団の心理的特性に関する研究)や、アメリカの心理学者ホブランドC. I. Hovland(1912―61)らによる1950年代における態度変化attitude changeについての一連の実験などによって、研究手法が進歩し、研究範囲が拡大されてきた。

[中村陽吉]

『水原泰助著『社会心理学入門――理論と実験』(1981・東京大学出版会)』『水原泰助編『個人の社会行動』(『講座社会心理学 第1巻』1977・東京大学出版会)』『末永俊郎編『集団行動』(『講座社会心理学 第2巻』1977・東京大学出版会)』『中村陽吉著『心理学的社会心理学』(1972・光生館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例