ノエシス(英語表記)Noesis[ドイツ]

デジタル大辞泉 「ノエシス」の意味・読み・例文・類語

ノエシス(〈ドイツ〉Noesis)

フッサール現象学用語意識作用側面。⇔ノエマ

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精選版 日本国語大辞典 「ノエシス」の意味・読み・例文・類語

ノエシス

〘名〙 (Noesis) フッサールの現象学の用語。意識の作用的側面。意識が志向的対象意味を与える作用。志向的作用。→ノエマ
※叡智的世界(1928)〈西田幾多郎〉三「自覚的一般者に於て自己自身を直に志向するもの、云はばノエシスの中にノエマを含むものが個人的自覚である」

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改訂新版 世界大百科事典 「ノエシス」の意味・わかりやすい解説

ノエシス
Noesis[ドイツ]

ギリシア語のヌース(精神,理性),およびそれと同系のノエイン(思惟する,知覚する,直観する)からの派生語noēsisに由来するフッサールの現象学の術語。フッサール自身,ある個所でノエインを〈直接的に見ること〉と訳し,〈対象を本質的に与える意識としての見ること一般〉は,したがって感性的直観だけでなく,むしろ本質直観が〈あらゆる理性的主張の正当性の究極の源泉〉であると述べている。ここにも現象学の直観主義的性格を認めうるが,しかし彼の場合,直観の能力としての感性と思惟の能力としての悟性は,例えばカントの場合ほど明確な対立関係に置かれておらず,むしろ相互流動的な相対的概念である。彼がわざわざ外来語を採用した理由も,ノエインがもともと直観作用も思惟作用も意味するためかと思われる。現に彼はノエシスの種類として,知覚,想起判断願望意志などを挙げている。

 ではノエシスとは何か。フッサールはこの語を広狭二義的に使っている。彼によれば,具体的な志向的体験(意識体験)はまず,それに実的に内在する二つの層から成り立っている。その一つは,それ自身は非志向的なヒュレ(質料)的層,すなわち感覚与件の層であり,もう一つは,感覚与件を活性化し統握することによって,対象を志向し,対象に意味を与える機能を行う層である。彼はこの第2の層をノエシス的契機,略して(狭義の)ノエシスと呼び,そして広い意味では,具体的な志向的体験の全体をもノエシスと呼んでいる。ところで,ノエシス的な志向作用が働けば,当然その相関者として,志向され思念されているものそのもの,すなわち意識されている意味的内容そのものが,必ず存立する。これがギリシア語noēmaに由来するノエマNoemaであり,このノエマもノエシスとは別のしかたで,すなわち実的にではなく志向的に意識体験に属するといえる。そしてノエマはその意味を介して対象に,実在する事物に,関係するとされる。なおフッサールが好んで用いるラテン語のコギトはノエシスの,コギタトゥムはノエマの同義語とみなしてよい。
現象学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ノエシス」の意味・わかりやすい解説

ノエシス
noesis

ノエマ noemaとともに E.フッサールの現象学における術語で,両者は意識の契機として相関的な関係にある。ギリシア語の nous,noeinに由来する。フッサールによれば,意識は常になにものかについての意識であり,したがって意識には作用的側面と対象的側面があり,前者がノエシス,後者がノエマと呼ばれる。ノエシスは単に志向作用であるばかりではなく,意味を付与する作用でもある。そしてこの作用に対応し,この作用によって構成されたものがノエマである。ノエシスは reell (実有的) であるのに対し,ノエマは ideell (観念的) である。日本では,西田幾多郎の絶対無の思想に取入れられている。 (→志向性 )  

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百科事典マイペディア 「ノエシス」の意味・わかりやすい解説

ノエシス

フッサール現象学の用語。ギリシア語のnousおよびnoeinに由来し,対象を志向し,これに意味を付与する意識体験をいう。具体的には知覚,想起,判断,願望など。意識されている意味内容そのものがノエマNoemaで,ノエシスは必ずノエマをともなう。

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世界大百科事典(旧版)内のノエシスの言及

【フッサール】より

…それゆえ現象学者は対象の実在を素朴に認める態度を一時中止(エポケー)すると同時に,反省のまなざしを自分自身の意識作用そのものへ向けるための現象学的還元(または超越論的還元)を行わねばならない。この還元の結果あらゆる対象は,もはや端的な超越者とはみなされず,もっぱら意識の志向的相関者として,すなわち認識されている限りにおいて,意識体験の領域に志向的に内在するノエマ的対象(思念されている対象)として,その認識の可能性と存在性格を究明されることになる(ノエシス)。この超越論的還元と並行して現象学者はさらに,個々の事実をその本質(形相=イデア)へ還元する形相的還元を行わねばならない。…

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