コギト(英語表記)cogito[ラテン]

精選版 日本国語大辞典 「コギト」の意味・読み・例文・類語

コギト

文芸同人誌。昭和七年(一九三二創刊、同一九年廃刊。誌名はデカルトのことば「コギト、エルゴ・スム」に由来する。編集発行人は肥下恒夫、同人に保田与重郎田中克己伊東静雄蔵原伸二郎など。ドイツロマン派の影響が強く高踏的。

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デジタル大辞泉 「コギト」の意味・読み・例文・類語

コギト

文芸同人誌。昭和7年(1932)、保田与重郎、田中克己、肥下恒夫らが創刊。昭和19年(1944)終刊。同人はほかに、伊東静雄伊藤佐喜雄ら。誌名はデカルト言葉コギトエルゴスム(我思う、故に我あり)」にちなむ。

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改訂新版 世界大百科事典 「コギト」の意味・わかりやすい解説

コギト
cogito[ラテン]

コギトはもともと〈考える〉とか〈意識する〉という意味のラテン語cogitareの一人称単数形にすぎないが,今日ではむしろ〈自己意識〉を含意し,精神や自我本質を自己意識に見ようとする立場と結びつけて語られる。かつてデカルトが《方法叙説》(1637)の中で,絶対不可疑真理を発見すべく,まずあらゆるものを疑ってみるという〈方法的懐疑〉から出発し,その結果〈そう考えている私は何ものかでなければならぬ〉として〈我思う,故に我在りJe pense,donc je suis〉の命題に到達し,これを〈哲学の第一原理〉と呼んだことに由来する(コギト・エルゴ・スムcogito,ergo sumはその命題のラテン語訳)。以来,精神や自我とコギトとのかかわりをめぐって,さまざまな論議が戦わされており,今日に至っている。

 (1)コギトを重んずる現代の哲学としては,何よりもまず実存主義の哲学があげられる。例えばハイデッガーは,人間をたえず〈前存在論的〉に〈自己了解〉しているものととらえ,そうした人間の在り方を〈実存〉と呼んだが,サルトルはそのような自己了解を〈非定立的自己意識〉と規定して,実存をコギトに直結させようとした。われわれは自分自身を反省するまでもなく,いつもすでにおのれを非対象的,非定立的に意識しており,したがって人間のどんな在り方も自由な選択の結果にほかならないというわけであった。(2)しかし,われわれがつねに自己意識をもっているかどうかは問題であって,現代でも経験主義的な立場では,コギトを単なる〈意識内容(コギタティオ)〉の告知とみなし,コギトをむしろIt thinks within me(ラッセル)と言い換えようとする傾向がある。(3)それにしても,経験の統一ということを考えれば,われわれもカントのように,〈すべての表象には‘われ思う’が伴いえなければならない〉と言うことはできる。その点では,意識の働きに,受動的で非人称的な層から能動的で一人称的な層に至るまでの動的展開を想定した晩年のフッサールの思想は,再考に値するものであろう。
意識
執筆者:

コギト

文芸同人雑誌。1932年3月~44年9月。通巻146号。編集兼発行人は肥下恒夫(ひげつねお)。保田与重郎(やすだよじゆうろう),田中克己(かつみ),肥下,伊藤佐喜雄,伊東静雄,小高根(おだかね)二郎,中島栄次郎らがおもな同人。大阪高校出身者が主体。ほかに《四季》《日本浪曼派》同人も寄稿した。誌名は,デカルトの〈コギト・エルゴ・スム(われ思う,ゆえにわれ在り)〉から採り,その高踏的な姿勢を示している。創刊号の〈編集後記〉で,保田は,〈私らはコギト′を愛する。私らは最も深く古典を愛する。私らはこの国の省みられぬ古典を愛する〉といい,ドイツ・ロマン派への憧憬と,日本の古典への愛着を示している。昭和10年代ロマン主義の源流になった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コギト」の意味・わかりやすい解説

コギト
こぎと

文芸同人雑誌。1932年(昭和7)3月創刊。44年9月廃刊。通巻146号。編集兼発行人は肥下恒夫(ひげつねお)で、同人に保田与重郎(やすだよじゅうろう)、田中克己(かつみ)、中島栄次郎、伊東静雄、伊藤佐喜雄(さきお)、蔵原(くらはら)伸二郎らがいた。誌名は、デカルトの「cogito(コギト), ergo(エルゴ) sum(スム)」(われ思う、故(ゆえ)にわれ在(あ)り)に由来する。満州事変後のロマン主義的気運のなかで、いち早く創刊された高踏的な同人雑誌で、ドイツ・ロマン派とくにシュレーゲル、ヘルダーリンの影響が強く、詩精神の高揚をうたい、日本の古典を顕彰した。保田の「戴冠(たいかん)詩人の御一人者」「和泉(いずみ)式部家集私鈔(ししょう)」などのエッセイ、伊東の「わがひとに与ふる哀歌」その他の詩が掲載され、また、同誌に載った保田執筆の『「日本浪曼(ろうまん)派」広告』は大きな反響をよんだ。

[大久保典夫]

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世界大百科事典(旧版)内のコギトの言及

【意識】より

… 意識という語のとくに近代的な意味は上述の(2)にあると考えられるが,その確立はデカルトとともに始まったと言ってよい(彼は多くはコギタティオcogitatioという語を使ったが)。彼が精神を〈考えるもの(レス・コギタンス)〉と規定したとき,そのコギトとは自己意識にほかならなかったからである。意識という語で,さめた心の状態や意図的な何かを意味する今日のわれわれの用法も,そこに通ずるであろう。…

【表象】より

… ところが,近代に入ってsubjectumとobjectumの意味が逆転するのに対応して,repraesentatioの意味にもあるズレが生ずる。たとえばデカルトのもとではあらゆる基体のなかでももっとも卓越した基体subjectumである〈われ思う(コギト)〉の対象,つまりこの〈われ〉によって〈思われるものcogitatum〉だけが真の存在者とみなされる。いいかえれば,主観subjectumとしての〈われ〉が“おのれの前に据えなおしsich vorstelle”,その対象objectumとして“おのれの前に再現前化se représenter”したものだけが真の存在者たりうるのである。…

※「コギト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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