世界(読み)せかい

精選版 日本国語大辞典 「世界」の意味・読み・例文・類語

せ‐かい【世界】

〘名〙
① 仏語。
(イ) (lokadhātu の漢訳から。「世」は過去・現在・未来の三世、「界」は東西南北上下の意) 衆生(しゅじょう)が住む時間と空間との全体をいう。人や生物が住む山川国土。娑婆世界。三千大千世界。
文華秀麗集(818)中・和菅清公傷忠法師〈嵯峨天皇〉「不知何世界、出現救蒼生
※正法眼蔵(1231‐53)古仏心「いはゆる世界は、十方みな仏世界なり」 〔法華経‐序品〕
(ロ) 仏の境界や浄土のような無為の世界。
② (より抽象的に) 人間をとりまき、人間がそこで暮らしているある範囲の総体。
(イ) 人間社会の全体。人が生活する地域。世間。世の中。
※竹取(9C末‐10C初)「世界の男、あてなるも賤(いや)しきも、いかで此かぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでてまどふ」
曾我物語(南北朝頃)一「疑ひ事わりなれども、せかいをせばめられ、耻辱にかへて助かるなり」
(ロ)
(イ) を、自分が属している既知の地域、それ以外の未知の地域などと分けた場合、それぞれの範囲の地域。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「しらぬせかいに、とし若うしていきつたはり給つつ、悲しきめの限りを見給て」
(ハ) 地球上のすべてのひろがり。特に、諸国家の集合体。万国。地球。
※和蘭天説(1795)凡例「遠西の人世界(セカイ)万国に商舶を通じ、到ざるの邦鮮し」
③ あたり一帯。そこらじゅう。
※竹取(9C末‐10C初)「いかがしけん、疾(はや)き風吹て、世界暗がりて、ふねを吹もてありく」
④ 遊興の行なわれる場。また、その遊興。
※洒落本・跖婦人伝(1753)「幼少より、世界(せカイ)の、粋の中に、もまれて、諸訳手管の仕かけ迄、一つとして、くらからず」
歌舞伎浄瑠璃で、戯曲の背景となる特定の時代・所・人物群の類型。「義経記の世界」「東山の世界」。
※滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上「まづ世界(セケヘ)が曾我で、虎、少将、月小夜と三役の早変を出しやした」
⑥ 同一種類のものの集まり。職業、世代、専門分野などで、ある種の共通点をもつ人が形成する社会。また、共通性をもつ動物が形成する社会。「政治の世界」「子どもの世界」「魚の世界」
⑦ 文学、演劇、美術、音楽などで、ある創作物が作りあげている、全体の場。また、創作者が作り上げている全体を観念的にとらえたもの。「源氏物語の世界」「ピカソの世界」
⑧ 自分が得意とする分野。自由にふるまえる範囲。
黄表紙・心学早染艸(1790)下「是からはおいらがせかいだ」
⑨ (world Welt の訳語) 哲学で、同一の空間、時間内に存在し、相互作用によって結びつけられているすべての事物や過程を含む全体。宇宙。認識論では、客観的感性界、概念的に構成された機械的世界、心理的世界、直接体験の世界などを含む全体。〔哲学字彙(1881)〕

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デジタル大辞泉 「世界」の意味・読み・例文・類語

せ‐かい【世界】

7が原義》
地球上のすべての地域・国家。「世界ひとつ」「世界をまたにかける」
自分が認識している人間社会の全体。人の生活する環境。世間。世の中。「新しい世界を開く」「住む世界が違う」
職業・専門分野、また、世代などの、同類の集まり。「医者の世界」「子供の世界
ある特定の活動範囲・領域。「学問の世界」「芸能の世界」「勝負の世界
歌舞伎浄瑠璃で、戯曲の背景となる特定の時代・人物群の類型。義経記太平記など、民衆に親しみのある歴史的事件が世界とされた。
自分が自由にできる、ある特定の範囲。「自分の世界に閉じこもる」
《〈梵〉lokadhātuの訳。「世」は過去・現在・未来の3世、「界」は東西南北上下をさす》仏語。
須弥山しゅみせんを中心とした4州の称。これを単位に三千大千世界を数える。
㋑一人の仏陀の治める国土。
㋒宇宙のこと。
このあたり。あたり一帯。
「―暗がりて」〈竹取
地方。他郷。
「―にものし給ふとも、忘れで消息し給へ」〈大和・六四〉
10 遊里などの遊興の場。
「京町に何かお―が、おできなすったさうでござりますね」〈洒・通言総籬
[類語](1諸国列国各国万国両国列強万邦・国際社会・内外中外四海しかい八紘はっこう宇内うだい/(2人間界天下この世現世人世世の中世間社会巷間世上人中浮き世/(4)(6領分領域境域分野方面部門ジャンルフィールド

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改訂新版 世界大百科事典 「世界」の意味・わかりやすい解説

世界 (せかい)

もと仏教の術語で,生物が生存し輪廻する空間を意味する。サンスクリットのローカダートゥlokadhātuの訳。ローカlokaは空間を意味しダートゥdhātuは層stratumを意味する。lokaは語根ルチruc-〈光る〉と関係し,もともと〈林開地〉,したがって〈あき地〉の意であった。ラテン語のルケオluceo〈光る〉,ルクスlucus〈森〉と同じ関係である。サンスクリットのlokaには必ずしも〈時間〉の意味はないが,その漢訳語〈世〉にはそれがある。したがって漢訳語によれば〈世界〉は宇宙を時間(世)と空間(界)の両面からとらえたものということができる。インドの仏教教学でも〈世界〉の項目下に〈時間〉(アドバンadhvan)や世界の消滅が論じられているから,サンスクリットの〈世界〉にも時間の概念が含まれていると考えてよいだろう。《楞厳(りようごん)経》巻四には〈東・西・南・北・東南・西南・東北・西北・上・下を界となし,過去・未来・現在を世となす〉とある。
執筆者: なお,仏教用語であった〈世界〉は,やがて〈世の中〉〈世間〉を意味する詩語として中国の唐詩に多く使用され,日本においても《竹取物語》などにその用例がみられる。江戸時代になって,当時の世界地図をもとにした〈世界図屛風〉が巷間に流布したが,この〈世界〉は,地球,万国の意である。1867年初版のヘボンの《和英語林集成》には,これを踏襲して地球,万国の意として〈世界〉の語がみえる。そして井上哲次郎らの編集した《哲学字彙》(3版,1912)は,world,cosmosの訳語に〈宇宙〉とともに〈世界〉をもあてている。
宇宙 →世界観
執筆者:

世界 (せかい)

歌舞伎,人形浄瑠璃劇作用語。作品の背景となる時代,事件をさす概念。実際にはその中の登場人物の役名,それらの人物の基本的性格(役柄),人物相互の関係,基本的な筋,脚色さるべき基本的な局面や展開などまでを含む概念である。主として,江戸時代の人々に周知の通俗日本史や伝承などを基礎として成立しているが,原拠や原典そのものをさすのではなく,中世芸能をはじめ先行の歌舞伎や人形浄瑠璃でくりかえし脚色上演されてきた中で形成された類型的な内容を持つ。したがって個々の〈世界〉は恒久不変的なものでなく,時代的な流行もあり,類型の形成により新生し名目のみ残り使用されなくもなる。作者は役者や観客に共通の知識となっている〈世界〉の上に新しく案出した〈趣向〉を脚色したり,複数の〈世界〉を混合したりして作品を作る。〈世界〉の用語は1757年(宝暦7)7月江戸中村座の役割番付の小名題に〈仕組〉や〈趣向〉とともに記されており,すでに劇作用語として成立している。69年(明和6)刊《根無草後編》には江戸の芝居の年中行事としての〈世界定め〉の語も見られるが,当期の京坂の歌舞伎,浄瑠璃の文献に見当たらず,《世界綱目》後記の筆写経路にも京坂の作者名が見られないことから,〈世界〉の用語や概念は江戸時代中期の江戸歌舞伎界での成立と見られる。《戯財録》には〈世界〉と〈趣向〉に関する著名な説が見えている。中期以後,黄表紙などの戯作文学にもほぼ同義の用語として使用されるようになった。
執筆者:

世界 (せかい)

岩波書店発行の月刊総合雑誌。第2次大戦の敗戦直後,岩波茂雄は,戦争への反省から,国民の間に批判精神を培う月刊雑誌の必要を痛感し,友人安倍能成らのすすめもあって,1946年1月創刊した。初代編集長吉野源三郎は,占領下,アメリカ一辺倒になりがちな情報をひろく世界にもとめ,平和と民主主義を基調とするこの雑誌の性格を確立した。とくに国論を二分した講和問題については,平和問題談話会メンバーをはじめ,あげて全面講和論を展開,非常な反響を呼んだ。以降,60年安保,日中復交,ベトナム戦争,沖縄復帰,憲法問題,金大中事件等々,現代日本の主要問題を持続的に追求しており,その一貫性ある編集が,特色をなしている。
執筆者:

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「世界」の解説

世界
せかい

1946年(昭和21)1月創刊の岩波書店の月刊総合雑誌。戦争への反省に立って,岩波茂雄が安倍能成(よししげ)・吉野源三郎らと創刊。平和と民主主義を基調として,時局の問題を長期的・世界的視野からとらえる編集方針で,51年全面講和論,60年安保改定反対論を展開したほか,日中復交・ベトナム戦争・沖縄復帰・金大中事件など現代日本の主要な問題を特集。小説でも野上弥生子・安部公房・堀田善衛・伊藤整などの問題作が掲載された。

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普及版 字通 「世界」の読み・字形・画数・意味

【世界】せかい

この世。

字通「世」の項目を見る

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デジタル大辞泉プラス 「世界」の解説

世界

日本の総合雑誌のひとつ。1946年1月創刊。岩波書店刊。初代編集長は吉野源三郎。

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世界大百科事典(旧版)内の世界の言及

【顔見世】より


[顔見世狂言]
 江戸・京坂において〈顔見世〉興行に演じた特殊な狂言をとくに〈顔見世狂言〉という。江戸では9月12日にその座の立作者の原案にもとづき〈世界定〉が行われた。〈世界〉とは,狂言の背景をなす時代をいい,顔見世狂言には〈御位(みくらい)争いの世界〉(業平,行平),〈前太平記の世界〉(頼光四天王),〈奥州攻めの世界〉(八幡太郎,貞任),〈鉢木の世界〉(鎌倉時代),〈東山の世界〉(不破,名古屋),〈出世奴の世界〉(秀吉)などで,その一つが選定されて脚色される。…

【歌舞伎】より

女方の写実的な演技術が模索されるとともに,立役,敵役その他の役柄がしだいに成立して,それぞれの演技のくふうが進む。寛文年間(1661‐73)には〈続狂言〉が成立し,これ以前の風俗スケッチ的寸劇から,一定のストーリーを持った劇的世界を獲得するに至る。劇の進行に時間的な飛躍を示す記号としての引幕が用いられるようになり,複雑な筋の展開を可能にした。…

【時代物】より

…人形浄瑠璃,歌舞伎狂言の分類の一つ。江戸時代よりも古い時代のさまざまな事件を題材に扱って仕組みの骨格(〈世界〉)とし,人物の名も歴史上知られている名をそのまま(あるいは一部をもじって)使う狂言である。当代の市井町人社会を題材とする世話物に対して,公卿や武家の社会を扱うが,時代物でも世話の場面が含まれるのが通例。…

【岩波書店[株]】より

…しかし昭和10年代は言論統制がきびしくなり,山田盛太郎,矢内原忠雄,津田左右吉らの著書は発禁,押収処分を受け,出版社側も苦難の道を歩むこととなる。第2次世界大戦後,46年に発刊された月刊誌《世界》は,吉野源三郎を初代編集長とし,憲法擁護,民主主義,平和の立場を貫き,論壇でも指導的地位に立っている。また《現代叢書》を刊行し,児童文学の分野にも進出,戦前からの科学書とあわせ数多くのロングセラーを生み出した。…

【総合雑誌】より

…《中央公論》(1887年創刊の《反省会雑誌》が99年に改題)の編集長滝田樗陰(ちよいん)は,吉野作造を起用して民本主義の論説評論を連打するとともに若い作家群を発掘して魅力を加えた。山本実彦(さねひこ)が経営した《改造》(1919)はマルクス主義やアインシュタインの相対性原理など世界の新しい思想動向を特集することによって青年の関心をリードした。両誌の発行社はそれぞれに女性むけの総合雑誌《婦人公論》(1916),《女性改造》(1922)を刊行して成功するほどに,知的な雑誌は第1次大戦後の革新の風潮ととけあっていた。…

※「世界」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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