邯鄲(読み)カンタン(英語表記)Hán dān

デジタル大辞泉 「邯鄲」の意味・読み・例文・類語

かんたん【邯鄲】[地名]

中国河北省南部の工業都市。製鉄・機械工業が発達。また、綿花・小麦の集散地戦国時代ちょうの都となり、華北の経済・文化の中心地として繁栄した。人口、行政区133万(2000)。ハンタン
謡曲。四番目物。「邯鄲の枕」の故事に取材したもの。
長唄常磐津ときわず地歌などの曲名。を題材としたもの。
三島由紀夫の戯曲。をモチーフとする1幕の近代劇。昭和25年(1950)、雑誌「人間」に発表。同年、劇団テアトロトフンが初演。「近代能楽集」の最初の作品。

かん‐たん【××鄲】

直翅ちょくし目カンタン科の昆虫。体長約1.5センチ。体はスズムシに似て細長く、淡黄緑色。山地の草の間に多く、8~11月ごろに成虫になり、雄はルルルルルと連続した音で鳴く。 秋》「―に鳴きつつまれて老躯濡る/風生

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精選版 日本国語大辞典 「邯鄲」の意味・読み・例文・類語

かんたん【邯鄲】

[1]
[一] 中国、河北省南部の都市。戦国時代、趙の都としてもっとも栄えた。華北平原と山西の丘陵地帯を結ぶ交通要地。ハンタン。→邯鄲の夢邯鄲の枕
[二] 謡曲。四番目物。各流。作者不詳。古名「邯鄲枕」「盧生(ろせい)」。唐の沈既済の「枕中記」に見える「邯鄲の枕」の故事に取材したもの。
[三] 常磐津、長唄の曲名。
[2] 〘名〙
① (「邯鄲」はあて字で、その声からいうか) バッタ(直翅)目カンタン科の昆虫。体長一三ミリメートル内外。体は扁平で細長く、淡い黄緑色であるが死後は黄褐色に変わる。頭は小さく前胸部は台形。前ばねは透明で、うしろばねは細長く、たたむと尾状になる。触角は糸状で体長の二倍くらいある。夏から秋に、大豆などのマメ科植物上にみられ、リューリューと続けてなく。鳴虫として珍重される。日本各地、中国、朝鮮などに分布。《季・秋》
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉下「邯鄲(カンタン)、鉦叩など、間々数寄者の間に飼養せらる」
② 「かんたん(邯鄲)の枕」の故事のこと。また、その故事から、枕して眠ること。睡眠。
※藤河の記(1473頃)「邯鄲遊仙のたのしびもかくこそとおぼえし也」

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改訂新版 世界大百科事典 「邯鄲」の意味・わかりやすい解説

邯鄲 (かんたん)
Hán dān

中国,河北省南部の省専区轄市。人口133万(2000)。太行山脈の東麓と華北平原の間にあり,河北と中原,華北平原と山西高原とを結ぶ交通の要地に位置する。春秋時代から衛の邑(都市)としてあらわれ,戦国の初めに趙の都がおかれると(前386),その地の利から物資の交易地となり,全国の商人が集まる屈指の大都会として大いに繁栄した。趙が秦に滅ぼされて邯鄲郡となり(前228),漢代では一族が封建されて趙王国がおかれたが,邯鄲の繁栄も秦・漢時代までであった。その後は政治的中心でなくなったためにしだいに衰え,邯鄲県として三国時代は魏郡あるいは広平郡に,唐以後は磁州に,明・清では広平府にそれぞれ属し,もっぱら一地方の農産物の集散地として近年にいたった。しかし解放以後になると,紡績や鉄鋼をはじめとする各種工場が建設され,人口も増加して市となり,新しい工業都市としてめざましい発展をとげつつある。なお京広鉄道(北京~広州)に沿う現在の市街は五代(10世紀)に建設されたものである。
執筆者:

邯鄲市近傍には,趙が残した趙王城大北城(王郎城),百家村古墓群などの戦国遺跡と,漢代の遺跡が存在する。邯鄲市の南西3kmに残る戦国時代の故城址は趙王城と呼ばれている。この城址は正方形の主城とそれに接する東城からなり,主城は北壁1475m,東壁1475m,西壁1456m,南壁1387mが計測され,東城は南壁875m,北壁残長600m,東壁残長475mが計測されている。主城中央南寄りには竜台と呼ばれる台が残り,竜台北側にある台榭建築の基壇は,1940年に東亜考古学会による発掘調査が行われている。竜台北側基壇および趙王城内からは,三獣文円瓦当,無文円瓦当,筒瓦,板瓦,塼,土器,刀銭,銅鏃などの遺物が出土している。大北城(王郎城)の城壁遺構は,現在の邯鄲市の外周を取り囲んで存在すると推定される。大北城は北西角がくぼむ不規則な長方形を呈し,南北長約4800m,東西幅約3000mが想定されている。城内からは,戦国・漢代の製鉄遺址,陶窯址,石器製作工房,骨器製作工房などの遺構が発見されている。趙王城と大北城の関係については,大北城を戦国・漢代邯鄲城の主要部とし,趙王城を趙邯鄲城の宮殿区域とする考えがある。邯鄲市の西方5kmの百家村では,戦国墓49基,漢代墓10基の調査が行われている。いずれも長方形竪穴土壙墓で,戦国墓の多くは棺槨を有し,多数の副葬陶器を出土している。
執筆者:

邯鄲 (かんたん)

能の曲名。四番目物。作者不明。シテは盧生(ろせい)。蜀の国の盧生という若者が人生に疑問を持ち,仏道の師を求めて羊飛山へ赴く途中,邯鄲の里で雨宿りをする。宿の女あるじ(アイ)が,不思議な枕を見せて勧めるので昼寝の床につくと,楚国の帝の使(ワキ)が来て盧生を起こし,譲位の勅を伝える。都へ導かれて即位した盧生は,満ち足りた栄華を味わう(〈上歌(あげうた)・下歌(さげうた)〉)。即位50年の酒宴では舞童(子方)の舞を見(〈夢ノ舞〉),自分も立って舞い興じるが(〈楽(がく)〉),それはすべて夢の中の出来事で,宿の寝台に寝ていたのだった(〈ノリ地〉)。起こされてみると,それはアワの飯がたける間のわずかの時間だったと知り,初めは茫然としていた盧生は,やがて人生のなんたるかを悟り,心安らかに故郷に帰る。現実・夢・現実という構成が巧みで,寝台であった作り物の屋台が,いつしか宮殿の玉座に変わるなど,能舞台の特色をよく生かしている。楽には,屋台の上下を使い分けるなど特殊な工夫がある。この作品の典拠は中国唐代の《枕中記》。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「邯鄲」の意味・わかりやすい解説

邯鄲
かんたん

能の曲名。四番目物。作者未詳であるが,典拠は唐代の小説『枕中記』。蜀の国の青年盧生 (シテ) は,仏道の師を求めて楚国の羊飛山へ行く途中,邯鄲の里に泊る。宿の女主人 (アイ) の貸してくれた枕で眠りにつくと,勅使 (ワキ) が迎えに来て,盧生は王位につく。即位して 50年,廷臣 (ワキツレ) のすすめる仙境の酒を飲み,舞童 (子方) とともに舞 (楽) を舞うなど栄華をきわめるが,それはすべて粟の飯が炊ける間の夢であった。人生は夢の世であると悟った盧生は,心安らかに故郷へ帰る。煩悶,歓楽,悟達と3段階の変化の妙に富んだ名作。この能に基づく同名の地歌,箏曲,長唄,河東節・一中節の掛合浄瑠璃,常磐津および三島由紀夫『近代能楽集』中の戯曲がある。

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百科事典マイペディア 「邯鄲」の意味・わかりやすい解説

邯鄲【かんたん】

中国,河北省南部の都市。太行山脈東麓と華北平野との間にあって,山西および湖南省への門戸をなす。京広鉄路に沿い,地方物産の集散地。近年は紡績,製鉄などの工場も建設された。市の周辺には戦国,漢などの遺跡も多く,南西には峰峰炭鉱がある。道士呂翁から枕を借りて,自分の一生を夢みた盧生の〈邯鄲の夢〉の故事は有名。161万人(2014)。

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普及版 字通 「邯鄲」の読み・字形・画数・意味

【邯鄲】かんたん

趙の都。舞容のさかんな所であった。〔荘子、秋水〕且つ子(し)獨り夫(か)の壽陵(呉の都)の餘子の、行を邯鄲に學ぶを聞かざるか。未だ國能(趙の歩行技)を得ざるに、其の故行を失へり。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「邯鄲」の解説

邯鄲
〔常磐津, 長唄, 河東〕
かんたん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
桜田治助(3代) ほか
演者
岸沢式左(5代)
初演
弘化3.7(江戸・市村座)

邯鄲
かんたん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
正徳5.7(大坂・沢村長十郎座)

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旺文社世界史事典 三訂版 「邯鄲」の解説

邯鄲
かんたん
Hándān

中国河北省南部にある都市
戦国時代に趙 (ちよう) の首都となった。山東と山西,北京と中原 (ちゆうげん) を結ぶ交通の要地で,商業が発達した。故事に「邯鄲の夢」がある。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「邯鄲」の解説

邯鄲 (カンタン)

学名:Oecanthus longicauda
動物。コオロギ科の昆虫

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世界大百科事典(旧版)内の邯鄲の言及

【御所桜堀川夜討】より

…正本包紙には〈ごしょさくら〉とある。《平家物語》《義経記》などの土佐坊のことを中心に,伊勢三郎,弁慶,静などの伝説を加え,また謡曲《邯鄲(かんたん)》をもじったり(五段目の景事《花扇邯鄲枕》)して脚色したもの。歌舞伎では,55年(宝暦5)6月京の沢村国太郎座が初演か。…

※「邯鄲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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