出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
宗教を構成する基本的要素として思想、儀礼、教団などがあげられるが、説教はその宗教思想を口頭で伝達するたいせつな手段として、多くの歴史宗教や世界宗教で、聖職者や教団人のもっとも重要視するところとなっている。
とくに、宗教儀礼が信者の感覚的、情緒的側面を満足させる働きを担っているのに対して、説教は、信者に対しその宗教のもつ思想内容を伝達することで知的な側面を充足させる、という役割を果たしているといえる。説教と同等の役割をもつものとして、文書による伝達があるが、口頭による説教はより直接的に信者に訴えることができるという意味で、宗教伝道には不可欠の手段となっている。仏教においては、説経、説法、説戒、談義、法談、勧化、法座、等々とよばれてきた。日本仏教における説教は文献上では、598年(推古天皇6)の聖徳太子の勝鬘経(しょうまんぎょう)についての講経に始まるという。その後、中世になると、単に教説を説いたり経典の内容を説明するという説教、いわば法話とは別に、音楽性や芸能性を帯びた説教が出現してきた。安居院(あんごいん)流、三井寺(みいでら)流とよばれ、その後の日本伝統芸能の基礎ともなったとされている。
キリスト教においては、ユダヤ教の伝統を引き継ぎ、すでにその発祥当初から説教は、聖餐(せいさん)とともに重要なものとなっていた。とくに宗教改革をもたらしたプロテスタントは、外面的、形式的な儀礼中心の信仰を否定し、内面的、合理的な信仰を強調したため、説教をとりわけ重要視することになった。そのため、キリスト教では、他宗教以上に説教が体系的に研究・整理されることになった。キリスト教では、説教の目的、内容、形態によって、伝道説教、講解説教、主題説教、教理的説教、倫理的説教、弁証論的説教、日課説教、自由説教などに分けられている。
[星野英紀]
一般に宗教集会において,その教えを信徒および未信徒に説く言葉。仏教では,説法,唱導,説経など諸種の呼び名がある。今日,説教をその布教の最も重要な手段として重視するのは,プロテスタント教会である。古来キリスト教会では,集会(礼拝)において,聖書朗読と,その聖書の言葉の意味を会衆に説き明かして聞かせる説教とが重視されてきた。カトリック教会や東方正教会では,説教の重要性が薄れ,これを再び強調したのが宗教改革である。プロテスタント教会では,教会がたてた説教者が行う説教を聞き,そこに神の語りかけを聞き取ることが,礼拝のひとつの中心をなす。牧師はこの言葉を語る奉仕に専念すべき務めをもつといわれる。聖書の言葉の内容を現代に生きる人々にふさわしく語り直すことがその任務である。聖書の言葉の説き明かしに主眼を置く講解説教と,何かひとつの主題を論じる主題説教など,説教にはいろいろな種類がある。
→説教師
執筆者:加藤 常昭
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