薄雪物語(読み)うすゆきものがたり

精選版 日本国語大辞典 「薄雪物語」の意味・読み・例文・類語

うすゆきものがたり【薄雪物語】

江戸前期の仮名草子。二巻二冊。作者未詳。慶長末年(一六一五頃)刊の古活字本以後、各種の版本があり、近世中期まで盛行。青年武士園部左衛門と一条殿の身内薄雪姫との悲恋を二人の恋文の往復形式で描く書簡体小説。艷書小説としての要素が歓迎され、仮名草子・浮世草子の後続作品を生む契機となった。

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デジタル大辞泉 「薄雪物語」の意味・読み・例文・類語

うすゆきものがたり【薄雪物語】

江戸前期の仮名草子。2巻2冊。作者未詳。成立は慶長年間(1596~1615)。寛永9年(1632)刊。園部左衛門と薄雪姫の悲恋を、二人の手紙の形で描いた物語。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

薄雪物語
うすゆきものがたり

仮名草子。2巻2冊。作者未詳。1620年代の成立。深草の里に住む園部(そのべ)の衛門(えもん)は、あるとき清水寺(きよみずでら)へ参詣(さんけい)して薄雪を見そめ、侍女仲立ちで恋文を送り、2人の間に手紙の往復が始まる。中世以前の恋物語を数多く引きながらの恋文の往復が続いたのち、2人の恋は成就するが、衛門の旅行中に薄雪は病死する。絶望した衛門は出家遁世(とんせい)し、道心堅固に日を送って26歳で往生を遂げる、という筋。物語の展開は中世物語を踏襲しており、近世の時代相を反映しているとはいえないが、その大半を手紙の往復によって構成する趣向には新しさがみられ、近世に流行する書簡体小説の始発点としての位置を占める。それと同時に、中世以前の著名な恋物語の多くを平明に要約し読者を啓蒙(けいもう)する内容は近世人の常識的な教養を形成する役割を果たし、江戸時代全体を通じて読み継がれる作品となったため、後世まで多くの影響を及ぼしている。

[谷脇理史]

『野田寿雄校注『日本古典全書 仮名草子集 上』(1960・朝日新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

薄雪物語 (うすゆきものがたり)

仮名草子。1614年(慶長19)ころ刊。2巻。恋愛小説であるが作者は不明。園部衛門が清水寺で薄雪という人妻を見初め,数々の恋文を送り,薄雪も返事を書き,ついに恋愛は成就する。その後衛門の留守中に薄雪は病死し,衛門は高野山に入り出家するという筋。大半は衛門と薄雪の往復書簡で構成され,江戸時代の手紙体小説のはしりとなった。この小説はベストセラーになり,何度も再版されたが,それはここに挙げられた25通の手紙が恋文の文例として読まれたからである。手紙には豊富な故事,多くの和歌,謎や洒落のユーモアがあっておもしろい。その後への影響も大きい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

薄雪物語
うすゆきものがたり

仮名草子。作者未詳。2巻。寛永9 (1632) 年刊。深草の園部左衛門が薄雪姫を清水寺で見そめ,艶書を贈ると,返書はあるが姫は従わない。数回手紙の贈答ののち,2人は契りを結ぶが,姫は左衛門の旅行中に病死し,左衛門は出家する。『うらみのすけ』に似た恋愛物語であるが,艶書の贈答がその大部分を占めており,近世における書簡体小説,艶書小説の最初の作。流行した作品であるが,当時においては小説としてより実用性を帯びた艶書文範として読まれていた。影響作も仮名草子『錦木』 (61) ,浮世草子『新薄雪物語』 (1716) など少くない。

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百科事典マイペディア 「薄雪物語」の意味・わかりやすい解説

薄雪物語【うすゆきものがたり】

江戸初期の仮名草子。2巻。作者不明。古活字本,1614年ころ刊。好評で何度も再版され,十数種の版がある。書簡体小説で,園部衛門と人妻薄雪の恋を,二人の文(ふみ)のやりとりで描いたもの。二人が契りを結んだ後,男の留守中に女が死に,男は悲嘆にくれて出家する。小説の筋立てもさることながら,実用的な恋文の文例集として読まれた。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「薄雪物語」の解説

薄雪物語
(通称)
うすゆき ものがたり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
薄雪今中将姫
初演
元禄13.3(江戸・山村座)

薄雪物語
うすゆき ものがたり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
貞享2(江戸・森田座)

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世界大百科事典(旧版)内の薄雪物語の言及

【新薄雪物語】より

…人形は園部兵衛・正宗を桐竹勘十郎,園部左衛門を桐竹門三郎,幸崎(さいさき)伊賀守を竹川七郎治,薄雪姫を吉田文三郎,団九郎を吉田才治ほか。直接の原拠は1632年(寛永9)に刊行の浮世草子《薄雪物語》であるが,これはまず,85年(貞享2)江戸森田座の歌舞伎《薄雪物語》で劇化され大当りをとって以来,《薄雪今中将姫》(1700初演)などが上演されたが,これらの影響を受けて人形浄瑠璃に作られたと思われる。花の清水寺の出会い以来,相愛の仲の園部兵衛の息左衛門と幸崎伊賀守の娘薄雪とは秋月大膳に謀られて将軍呪詛(じゆそ)の疑いを受け,両方の父が子に代わって切腹する。…

※「薄雪物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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