空港公害(読み)くうこうこうがい

改訂新版 世界大百科事典 「空港公害」の意味・わかりやすい解説

空港公害 (くうこうこうがい)

近時,航空機は大型化・ジェット化され,航空交通は一段と高速性と大量輸送性を高めてきた。しかし,その拠点である空港自体は従来の規模を若干拡張する程度のものが多く,加えるに,その大半は内陸部の人家の密集した地域に立地されているために,周辺住民に対して,騒音をはじめ種々の被害を与えている。ジェット機では乗用車の実に10万台分にあたる騒音を発するが,この航空機騒音は高周波成分を含む金属的音質を有しており,また音源空中にあるため建物などによる遮へい効果がなく,直接広範囲に音をまき散らすことになる。例えば,大阪国際空港の周辺の住民居住地では107ホンに制限されているものの,地下鉄の中が80ホン,電車の通るガード下で100ホンといわれていることから,その騒音の激しさは想像がつくであろう。さらに排気ガス振動,墜落の危険性による恐怖感など,住民に与える苦痛は多岐にわたっている。これら空港の存在に伴って生ずる各種の被害を総合して空港公害という。

 騒音は空港周辺住民の会話を妨げ,テレビ,ラジオの視聴の楽しみを奪い,読書や勉強を妨げ,家庭のだんらんを阻害し,さらに睡眠を妨害する。このような日常の生活妨害にとどまらず騒音や振動はいらだちや不快感などの精神的被害をもたらし,聴力低下やストレスを介して生理機能に影響を与え,高血圧,胃腸障害などの健康被害さえ与える。

 このような空港公害を軽減するために,〈公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律〉(略称航空機騒音防止法)が制定(1967)されており,運輸大臣が指定する特定空港の周辺で騒音のうるささの程度WECPNL(加重等価持続知覚騒音レベルweighted equivalent continuous perceived noise level--航空機の音質,音量,飛行回数,音の継続時間,昼夜の時間帯別頻度を総合した騒音単位)75以上を1種区域として,住宅や学校,病院などの防音工事を実施し,85以上の2種区域では騒音地域外に移転を希望する住民に対して移転補償をし,95以上の3種区域では土地の買入れによる緩衝緑地帯の造成などの対策を実施している。防衛基地についても〈防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律〉(1974)により,民間空港とほぼ同様の対策がとられている。しかし,このような対策の実施にもかかわらず,空港周辺住民の被害は依然深刻であり,それらの救済を求める訴訟各地で提起されている。有名なものとして大阪空港公害事件があり,そのほかにも横田基地,厚木基地,福岡空港,小松基地,嘉手納基地でそれぞれ一定の時間帯の飛行禁止と損害賠償を求めて争われている。この問題を解決するためには,航空機騒音防止法等を強化するとともに,関西新空港が海上に建設されたように,空港立地そのものの抜本的方策をはかる必要があろう。
空港 →航空機騒音 →騒音
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