日本大百科全書(ニッポニカ) 「振動」の意味・わかりやすい解説
振動
しんどう
oscillation
vibration
糸でおもりを吊(つ)るした振り子が左右に揺れる運動や、つるまきばねの下端につけたおもりが上下に動く運動のように、位置や量が、ある時間ごとに繰り返し変化する現象。
[飼沼芳郎]
単振動
1直線上を運動する質量mの質点が、その直線上の原点からの変位xに比例する復元力F(x)=-kx(k>0)で原点に引かれる場合には、この質点の時刻tにおける変位x(t)はx(t)=asin(ω0t+δ)で、質点は単振動をする( )。ここに、aは振幅、位相角(ω0t+δ)のω0は角振動数で、ω0=2πν0=2π/Tである。ν0は振動数、Tは周期である。このような復元力の場では、質点は位置のエネルギー(1/2)kx2をもつ。
[飼沼芳郎]
電気振動
コンデンサー(蓄電器)CとソレノイドLの両端を接続したLC回路に生ずる電気振動は、力学的な単振動に類似した現象である。ソレノイドの自己誘導係数Lは質点の質量mに、コンデンサーの容量Cの逆数は復元力の係数kに、コンデンサーの両極板の電荷、プラスQ、マイナスQのQは質点の変位xに、電流Iは質点の速度vに、それぞれ対応する(
)。また、コンデンサーの両極板間に生ずる電場のエネルギーは質点の位置エネルギーに、ソレノイドに流れる電流のつくる磁場のエネルギーは質点の運動エネルギーに対応する。このような対応関係をみれば、LC回路に電気振動が生ずるのは当然のことであると理解できるであろう。[飼沼芳郎]
減衰振動
実際には、質点に抵抗力が働き、振動はしだいに減衰して、ついには静止する。抵抗力が質点の速度に比例する場合には、振動を繰り返すたびに、振幅が指数関数的に減少する。このような振動を減衰振動という。電気振動においても、回路に電気抵抗Rが直列に接続されたLCR回路では、減衰振動がおこる。
[飼沼芳郎]
強制振動
外力が質点に働かぬ場合の振動を自由振動という。自由振動としては減衰振動をする質点に、時間とともに振動的に変化する外力が働き、押したり引いたりを繰り返す場合には、最初の過渡的な振動が減衰したのち、質点は外力と同じ振動数で振動する。これを強制振動という。強制振動において、外力が質点に単位時間にする仕事、すなわち質点が単位時間に吸収するエネルギーの平均値は、外力の振動数が質点の固有振動数(抵抗力ゼロのときの単振動の振動数)に等しいときに最大になる。これを共鳴、または共振という。直列のLCR回路を交流電源に接続した場合にも、電気振動の強制振動がおこる。
[飼沼芳郎]
連成振動、連続物体の振動
水平に張った糸に、おもりの質量も糸の長さも等しい二つの振り子をつけて振動させる。二つの振り子の間には相互作用があり、各振り子の振動は独立ではない。このような種類の振動を一般に連成振動という。この二つの振り子が同一方向に振れるような型、および反対方向に振れる型の振動は互いに独立であり、時間が経過しても振動の様態に変化がない。このような振動を基準振動または固有振動といい、その振動数は基準振動数または固有振動数とよばれる。
連続物体の振動には、支持方法などによって規定される境界条件を満たすような基準振動の型が無数に現れる。この基準振動は連続物体を伝わる波の重ね合わせによって生ずる定在波の振動ともみなされる。基準振動をしている連続物体には振幅最大の腹(はら)の場所と、振幅ゼロの節(ふし)、節線、節面がみられる。連続物体の振動の例としては、ピアノや琴の弦のような両端を固定した弦の横振動、太鼓やドラムの皮のような周囲を枠に固定した膜の振動、木琴のように両端が自由な棒の曲げ振動、つるまきばねの縦振動、オルガンのように一端が閉じ他端が開いた管内の空気柱の振動、クラードニの方法(板の中央とへりの1点を固定し、板のへりをバイオリンの弓でこする方法)による板の振動、音叉(おんさ)の共鳴箱の中の空気の振動、空洞共振器内におけるマイクロ波領域の電磁波の振動などがある。音叉は曲げた棒のような振動をし、その下部は振動の腹になる。鐘は曲げて絞った板のような振動をし、振動の節線が鐘の頂点を通る鉛直面上に現れる。
上端を固定して吊るした針金の軸の周りのねじれ変形の振動、すなわちねじれ振動は、たとえば金属の剛性率(ねじれの弾性率)の測定に用いられる。針金のねじれを利用して微小な力を測定するねじれ秤(ばかり)が、キャベンディッシュの万有引力法則の実験や電気のクーロンの法則の実験に用いられたことはよく知られている。ねじれ秤の針金に働く偶力のモーメントとねじれ角の比の決定にもねじれ振動が用いられた。
[飼沼芳郎]
非線形振動
振動の運動方程式が、変位、速度、加速度などの一次式では表すことができぬ場合の振動を非線形振動という。振り子の振れ角が大きい場合には、復元力が振れ角に比例するという近似を使用することができなくなる。この場合には、振り子の振動の周期は振幅とともに増大し、単振り子の等時性が失われる。ぶらんこの振動は、これに乗ってぶらんこをこぐ人の重心が周期的に上下することによって励起される。これは振り子の糸の長さが周期的に変化することに相当する。糸の長さのように振動を決定するパラメーターを時間的に変化させることによって振動をおこすことをパラメーター励振という。弦の横振動には、弦の張力を周期的に変化させて振動を励起するメルデの実験がよく知られているが、これもパラメーター励振である。バイオリンの弦に弓を押し付けて引くと弦が振動する。チョークで乾いた黒板に線を引くとき、きしんで点線が描かれることがある。これらは、それ自身は振動的でない原因によって持続的な振動がおこるものであり、自励振動とよばれる。いずれの場合にも、二つの物体の相対速度が大きくなると摩擦力が減るという乾性摩擦の性質に関係する。このような摩擦力は負抵抗として働く。普通の正の抵抗が働くと、振動の力学的エネルギーは失われるが、負の抵抗が働くと、力学的エネルギーが外部から供給されて、たとえば に示すように振動が成長し振幅が大きくなる。九州の大分県日田(ひた)市の小鹿田(おんだ)焼の陶器にとびがんなの刻み目をつけるときにも、ろくろの上で回転する生乾きの皿などに金鋸(かねのこぎり)の刃のような薄く弾力的な金属板(かんな)を押し付けたときにおこる自励振動が用いられている。日本式庭園などにみられるししおどし、添水(そうず)は、竹筒の一端を斜めに切り、筒の中央を水平な軸で支え、懸樋(かけひ)の水を竹筒に受け、水がたまると重心が移動して竹筒が傾いて水を吐き出し、元の位置に戻るとき、竹筒の底が石を打って鋭い音を発するものであり、以後このような振動が繰り返される。このような振動は緩和振動とよばれる。ネオン放電管とコンデンサーCを並列につなぎ、これを抵抗Rを通して直流電源につないだ回路では、緩和振動がおき、時間とともに鋸歯状に変化する電圧が発生する( )。ネオン管の放電が停止している間は、コンデンサーに充電が続けられ、その両極板間の電圧がネオン管の放電電圧に到達すると、ネオン管が放電して、電圧が一挙に低下し、放電が停止する。以後これが繰り返される。
連続物体の振動においても、その振幅が十分に小さくないときには、しばしば非線形振動がおき、物体のさまざまな基準振動は互いに独立ではなくなり、それらの基準振動の間に相互作用が生ずる。
[飼沼芳郎]