江戸生艶気樺焼(読み)えどうまれうわきのかばやき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「江戸生艶気樺焼」の意味・わかりやすい解説

江戸生艶気樺焼
えどうまれうわきのかばやき

黄表紙。1785年(天明5)山東京伝(さんとうきょうでん)作、自画。書名は江戸名物のうなぎの蒲焼きのもじり。百万長者仇気屋(あだきや)のひとり息子艶二郎(えんじろう)は、醜男(ぶおとこ)ながらうぬぼれが強く、色男の評判をとりたくて、芸者に50両を与え、艶二郎にほれたと家に駆け込ませ、それを瓦版(かわらばん)で売り込んだり、吉原遊女とうそ心中を試みるなど、数々の売名行為の愚行を重ねるが、ことごとく失敗に終わる顛末(てんまつ)を描く。当時すでに艶二郎にはモデルが存在すると詮索(せんさく)が加えられるほどの好評を得るが、かならずしも1人のモデルを拉(らっ)しきてつくりあげられたものではなく、享楽的でとかく名声を求める江戸人の一つの典型を艶二郎に形象化したといえる。本書の成功を受けて、人物設定をそのまま踏襲した洒落本(しゃれぼん)に『通言総籬(つうげんそうまがき)』(1787)がある。

[棚橋正博]

『水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(1958・岩波書店)』『浜田義一郎校注『日本古典文学全集46 黄表紙・川柳・狂歌』(1971・小学館)』『小池正胤他編『江戸の戯作絵本2』(社会思想社・現代教養文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「江戸生艶気樺焼」の意味・わかりやすい解説

江戸生艶気樺焼
えどうまれうわきのかばやき

黄表紙山東京伝作,画。3巻。天明5 (1785) 年刊。百万両分限と呼ばれる仇気 (あだき) 屋の一人息子艶二郎は,醜男でありながらうぬぼれが強く,悪友の道楽息子北里喜之介,太鼓医者輪留井志庵 (わるいしあん) を誘って,金にあかせて色男の評判を立てようと画策する。芸者に金をやって家に駆込みをさせたり,女郎を身請けして駆落ち狂言を仕組んだりするが,すべて失敗する。そのおかしみと江戸庶民のいきいきとした描写が好評を博し,艶二郎という名はうぬぼれ男の代名詞ともなった。また艶二郎の滑稽な牡丹鼻は「京伝鼻」と呼ばれた。以後同趣向の黄表紙,洒落本が数多く生れ,京伝も洒落本『通言総籬 (そうまがき) 』に3人を再登場させている。

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百科事典マイペディア 「江戸生艶気樺焼」の意味・わかりやすい解説

江戸生艶気樺焼【えどうまれうわきのかばやき】

江戸時代の黄表紙。3冊。山東京伝北尾政演(まさのぶ))作・画。1785年刊。醜男の富豪の息子艶次郎(えんじろう)が,うぬぼれから浮名を立てようとして失敗を重ねるという滑稽(こっけい)な作。京伝の名声を定めたもので当時大好評を博した。→通言総籬

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デジタル大辞泉 「江戸生艶気樺焼」の意味・読み・例文・類語

えどうまれうわきのかばやき〔えどうまれうはキのかばやき〕【江戸生艶気樺焼】

黄表紙。3冊。山東京伝作・画。天明5年(1785)刊。醜男ぶおとこのくせにうぬぼれの強い仇気屋艶二郎あだきやえんじろうが、色男の評判をとろうとして次々に失敗する滑稽こっけいを描く。

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世界大百科事典 第2版 「江戸生艶気樺焼」の意味・わかりやすい解説

えどうまれうわきのかばやき【江戸生艶気樺焼】

黄表紙。山東京伝(北尾政演(まさのぶ))画作。3冊。1785年(天明5)刊。百万長者仇気屋(あだきや)のひとり息子艶二郎(えんじろう)は醜いくせにうぬぼれが強く,悪友たちにそそのかされ,色事の浮名を世に広めようと,金にまかせていろいろ試みるが,かえってばかの名が立つばかり。ついに吉原の遊女を身受けして情死のまねごとをしようとするが,盗賊に遭い,まるにされる。実は父親番頭とが戒めのために企てた計略で,以後は心を改めるという筋。

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世界大百科事典内の江戸生艶気樺焼の言及

【艶二郎】より

山東京伝作の黄表紙《江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)》の主人公。1785年(天明5)刊。…

【通言総籬】より

…1冊。作者の当り作の黄表紙《江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)》(1785)の人物名をそのまま移している。うぬぼれの半可通仇気屋(あだきや)艶次郎が,たいこ医者わる井志庵と,とり巻きの北里(きたり)喜之介宅を訪れ,遊女あがりの女房を交えて種々うわさ話をしたあと,3人は吉原に出かけて松田屋にあがって遊ぶ。…

※「江戸生艶気樺焼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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