機雷
きらい
mine
敵艦が通ると思われる海峡、港湾、海上交通路の水中に係維、または海底にあらかじめ沈底敷設ないし海面に漂わせて、接触したり接近する艦船を破壊する兵器。機械水雷の略称で、地雷と同じ典型的な待ち受け兵器である。専用の敷設艦のほか水上艦、潜水艦、航空機などによっても敷設されるが、敷設法からの分類により係維式、沈底式、浮流式に分かれ、起爆のさせ方により触発、管制、感応方式に区分される。初めて実戦に用いられたのは、1776年アメリカ独立戦争の際、ブッシュネルDavid Bushnell(1742―1824)が潜航艇「タートル号」に機雷を積んで英艦の艦底に取り付けたときであるとされる。南北戦争では海軍力の劣勢な南部同盟軍が積極的な機雷戦を展開した。日露戦争(1904~1905)では双方の係維機雷が威力を発揮し、旅順港封鎖戦においては連合艦隊の戦艦「初瀬」「八島」が失われ、ロシア太平洋艦隊も旗艦ペトロパブロフスクなどが触雷、沈没、マカロフ司令官が戦死している。
潜水艦の活躍が目だつようになった第一次世界大戦以降、機雷戦は大規模になり、対潜作戦や通商破壊戦にも利用されるに至った。第一次、第二次世界大戦時にイギリス海軍は、ドーバー海峡に約1万個の機雷で対潜機雷堰(たいせんきらいえん)を設置、ドイツ潜水艦の大西洋への最短路を奪った。また自国の海上交通を確保するため、機雷礁(きらいしょう)で保護された安全航路を設けるやり方もとられた。第二次世界大戦において米軍は日本の海運に打撃を加える目的で、B-29爆撃機の行動の6%を機雷敷設にあて、約20の目標海面に1万2000個の機雷を沈めた。その結果、戦争末期には外航航路はもとより青函(せいかん)航路など内航海運すらほとんど停止した。朝鮮戦争(1950~1953)、ベトナム戦争(1960~1975)でも機雷は重用され、朝鮮戦争では北朝鮮側が米艦隊の接近を阻止するため主要港に機雷を敷設、またベトナム戦争では米軍が北ベトナムの主要3港を機雷封鎖して港湾利用を封じた。イラン・イラク戦争(1980~1988)においても、ペルシア湾および紅海に機雷が敷設され、タンカーや貨物船に被害が続出した。しかし以後の「テロとの戦争」では機雷戦はあまり重視されていない。
現在の機雷は起爆方式が、磁気、音響、水圧の変化を感知して爆発する感応機雷中心となっており、さらに感応方式を二つ以上組み合わせて目標の選択能力を高める一方、敷設された機雷を無力化する掃海を困難にさせる複合感応方式がとられている。このほかハイテク技術の発達に伴って、水上艦艇や潜水艦からの遠隔操作で作動・作動停止が指令できる新種の管制機雷や、機雷のように敷設されながら敵艦を探知すると内蔵の魚雷を自動発射するアメリカの対潜用沈底機雷キャプターなども開発された。またソ連は5~20キロトンの核弾頭をつけた原子力機雷を保有していた。陸上の機雷にあたる対人地雷に対しては、1999年に対人地雷全面禁止条約が発効したが、機雷についてその動きはない。各国海軍の補完兵器として開発・備蓄が続けられ、自衛隊も係維式・沈底式機雷を保有している。
[前田哲男]
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機雷
きらい
mine
機械水雷 mechanical mineの略称。水中に敷設され,船が接触,あるいは接近すると爆発する兵器。味方の港湾,航路の防衛と,敵水域の封鎖のために敷設される。機雷は大別して係留機雷,浮遊機雷,沈底機雷があり,また機能的には陸地から電線を使って爆発させる機制水雷と,独自に爆発する機雷がある。後者は衝突によって爆発する触発機雷と,磁気,音響,水圧などの感応機雷とに分れる。最初の機雷はアメリカ独立戦争中に D.ブッシュネルが潜水艇『タートル』に積んで敵船を攻撃するために製作した。これは敵船体にねじによってとめられ,時限装置で爆発したが,ブッシュネルはのちに接触機雷を考案した。次に R.フルトンがフランスの援助を得て独自の機雷を考案した。しかしフランスはこれを採用しなかったので,すぐにイギリスに売込み,イギリスは 1804年にフランス艦隊攻撃に使った。 43年には S.コルトが,機雷用電気発火器を発明し,視発機雷をつくった。その後ドイツは,ガラス瓶がこわれて薬品が流出すると電池の極板に作用して電流を起し爆発するヘルツ角 Herzhornを開発した。これは外に突き出た数本の角を備えていることから角式機雷と呼ばれる。現在の機雷は感応システムを複数装備しているほか,必ずしも艦船が最初に通過したときに爆発するとは限らない複雑なものとなっている。またアメリカ海軍のキャプター機雷のように艦艇が近づくと海底から自動的に魚雷を発射するような機動式機雷もあり,マイクロ・コンピュータの発達で,ますます高度化する方向にある。
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機雷【きらい】
機械水雷の略。爆薬を詰め起爆装置をつけた鋼製の罐(かん)を適度の浮力で係留または浮遊させ,艦船が接触するか,接近して感応すると爆発する兵器。触発でなく磁気,音響,水圧などで起爆するものを感応機雷という。港湾の出口や海峡に敷設し敵艦船の行動を妨害する防御兵器として南北戦争ごろから実用化し,日露戦争で威力を発揮した。第2次大戦では感応機雷を攻撃的に使用,潜水艦による敷設,飛行機による投下が盛んに行われた。ベトナム戦争では米軍の約8000個の機雷敷設でハイフォン港は封鎖され,近年は対潜水艦兵器として重要視されている。機雷の除去を掃海という。→魚雷
→関連項目潜水艦|P3C対潜哨戒機
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き‐らい【機雷】
※死(1964)〈北杜夫〉「新潟の港に機雷を投下しにゆくB29の
編隊が」
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デジタル大辞泉
「機雷」の意味・読み・例文・類語
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きらい【機雷 mine】
機械水雷の略称。水中武器の一種で,金属製の円筒または球形の容器に爆薬と起爆装置などを入れ,海中に敷設し,航行してくる艦船が接触または接近して感応したとき爆発し,その艦船に損傷を与える兵器。
[用法]
港湾の出口,海峡などに多数敷設し,航行してくる艦船を破壊したり,その行動を妨害するために使用する。機雷敷設は,あらかじめ宣言して敷設する場合と,隠密に敷設する場合がある。最近の戦争で機雷が使用された例としては,ベトナム戦争がある。
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世界大百科事典内の機雷の言及
【鉱山】より
…地中に存在する有用鉱物を採取する作業を採鉱といい,この活動の行われる場所を鉱山という。有用鉱物は鉱床として限られた区域に存在することが普通であるが,その存在の状態はきわめて多様である。鉱山ではこれらの多様な鉱床を対象に採取活動が行われるため,鉱山の形態も多様である。
[鉱山の歴史]
鉱山の仕事は,人類が地面に穀物の種子をまき,野原に牛や羊を飼いはじめた時代からあった(あるいは,もっと古くからあったと考えたほうがよいかもしれない)。…
【度量衡】より
…小麦180粒の質量で決めた単位の呼名は,シェケルshekel,シクルsicle,シクルスsiclusなどと地域により異なり(聖書の邦訳ではシケル),実体も8~11gほどの幅を示していた。そして,このシェケルの倍量としてタレントtalent,ミナmina(またはミネmine)という単位が使われたが,近代西欧の衡であるポンドやキログラムも,どこかでミナの跡を引いているといわれる。それはともかくとして,イギリスの伝統的な単位グレインgrain(日本ではグレン,ゲレーンともいう)は文字どおり穀粒によるものであり,古代インドの衡の一つであるグーニャguñjaも,ある種の豆(一説ではトウアズキabrus precatorius)の種子によるものと解されている。…
※「機雷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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