構造(社会学)(読み)こうぞう(英語表記)structure

翻訳|structure

日本大百科全書(ニッポニカ) 「構造(社会学)」の意味・わかりやすい解説

構造(社会学)
こうぞう
structure

理論社会学における一概念。この概念に関しては中心的な問題が三つある。一つは構造が構成されるところの「要素」、もう一つは構造が最終的に志向している「目的(性)」、そして最後に構成要素の算術的加算を超える、構造の「全体性」である。建築学、工学、あるいは解剖学などで用いられ、その後他の分野にも一般化されるようになったこの用語は、もともと、ある目的に対する働き(部分機能)の観点から、部分や要素が一定の関係を形づくり、そうしてできあがった全体が、ふたたびより大きな働き(全体機能)をもつという考え方に基づいている。たとえば機関車や家屋は、それぞれ、その部分である多様な素材の組合せ(この場合は主として力学的)によって構造化された全体が、さらに客車貨車を引っ張る動力源として、あるいは外的気候条件から人間を守るシールドとして、一定の機能を果たすことになるわけである。

 しかし、留意すべき点がある。すなわち、連続的で境界維持的、かつ多様に連関した諸部分の集合である「システム」と、それらの構成要素がある特定の時点でとる「構造」とを混同してはならない。構造にはシステムの「特殊化」としての側面があり、それだけに、要素、要素間関係の総体としての全体性、その目的性についても具体的なバリエーションを示すのである。すなわち、一定の命題を証明しようとする仮説は、これを構成する諸概念の論理的な整合関係としてある種の構造をもっているし、また、適応生存を維持する生物有機体は、その諸器官の機能的な秩序関係として、いわゆる解剖学的・生理学的構造を有するわけである。

 社会システムの構造としての社会構造は、通常、地位・役割を構成要素とする機能関係の総体として概念化されているが、これはいうまでもなく社会構造概念の一種にすぎないのであって、要素、要素間関係、目的性の3点にわたって多様な概念化の可能性が存在する。たとえば、マルクスエンゲルス史的唯物論では、全体社会の構造は土台と上部構造との統一体と考えられている。他方、心理学的・観念論的社会学の立場からは、観念や意志の論理的・非論理的結合としての「集合意識」が、その外在性と拘束性のゆえに社会的事実の中核的構造として考えられているのである。

 いうまでもなく、構造概念は、過程、機能、変動などに対して、「静態的な」記述概念であるとする考え方も強い。したがって構造偏重の社会分析をより動態的な機能分析でとってかえようとする試みもあるが、構造のもつ内的ダイナミズムは、その目的性からみて自明のことである。また今日、社会構造との関連でいえば、人々が明示的に認識できる構造に対して、特殊な観察方法で照らし出されるべき社会や集団の深層構造という概念さえもが提唱されているのである。

[中野秀一郎]

『T・パーソンズ、N・J・スメルサー著、富永健一訳『経済と社会』全2巻(1958、59・岩波書店)』『R・K・マートン著、森東吾他訳『社会理論と社会構造』(1961・みすず書房)』

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