拾遺往生伝(読み)しゅういおうじょうでん

改訂新版 世界大百科事典 「拾遺往生伝」の意味・わかりやすい解説

拾遺往生伝 (しゅういおうじょうでん)

続本朝往生伝》の後をうけ,往生者の行業を漢文体で記したもの。三善為康撰。上中下あわせて95人の伝を収める。上・中巻は僧,俗人男子,尼,俗人女子の順,下巻は採訪順に書きつがれ,1111年(天永2)没の大和国阿弥陀房で終わる。国史,別伝,寺院縁起,《法華験記》を素材とし,伝聞にもよっており,地域も広範囲にわたる。とくに先行往生伝が往生者の範疇に加えなかった高僧,持経者,神仙などを加えたのは,浄土行そのものより往生奇瑞の有無によって編者が往生者として扱ったからと思われる。筆録の態度も,質直と慈悲を旨とした念仏者為康の姿勢がつらぬかれている。
往生伝
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拾遺往生伝」の意味・わかりやすい解説

拾遺往生伝
しゅういおうじょうでん

平安後期の往生伝。3巻。三善為康(みよしためやす)著。1111年(天永2)以後まもなく成立書名は、大江匡房(おおえのまさふさ)『続本朝往生伝』の拾遺の意。『続本朝往生伝』に漏れた往生者(とくに念仏を修することで阿弥陀仏(あみだぶつ)の浄土に往生した人)95名の略伝を記す。上巻においてはもっぱら僧が、中・下巻においては俗人や女人往生者が取り上げられ、庶民的傾向が著しい。悪人往生者が多いことにも注目されるが、人物造型は類型的で、文学的価値はさほど高くない。『法華験記(ほっけげんき)』の影響も顕著である。『日本拾遺往生伝』とも称する。

[多田一臣]

『井上光貞・大曽根章介校注『日本思想大系7 往生伝・法華験記』(1974・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 日本史小辞典 改訂新版 「拾遺往生伝」の解説

拾遺往生伝
しゅういおうじょうでん

「日本拾遺往生伝」とも。平安時代,三善為康(みよしのためやす)が著した往生伝。3巻。本来1巻だったが中・下巻が順次編集された。大江匡房(まさふさ)「続本朝往生伝」の後をうけ,95人の伝記を収める。「本朝法華験記」にもとづく記事が多い。往生者の没年の最下限は1111年(天永2)で,「続本朝往生伝」の成立(1101年頃か)以後,この頃までに編集されたか。慶政(けいせい)の奥書をもつ真福寺蔵本は重文。「日本思想大系」所収。

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