払・掃(読み)はらう

精選版 日本国語大辞典 「払・掃」の意味・読み・例文・類語

はら・う はらふ【払・掃】

〘他ワ五(ハ四)〙
① 有害・無益・不用のものを取り除く。除去する。
(イ) 取り捨てる。取り除く。退ける。
万葉(8C後)一〇・一九八四「この頃の恋の繁けく夏草の刈り掃(はらへ)ども生ひしく如し」
※新古今(1205)秋上・四一八「雲はみなはらひはてたる秋風を松に残して月を見る哉〈藤原良経〉」
(ロ) ちりなどのよごれを除き捨てて清める。はき清める。掃除する。
※万葉(8C後)一四・三四八九「梓弓欲良の山辺の繁かくに妹ろを立ててさ寝処波良布(ハラフ)も」
源氏(1001‐14頃)葵「二条院にはかたかたはらひみがきて男女待ち聞えたり」
(ハ) 罪やけがれを除き去る。→祓う
(ニ) 雪、霜、露などを取り除く。また、涙をぬぐう。
※源氏(1001‐14頃)御法「御涙をはらひあへ給はず」
更級日記(1059頃)「まして思へ水のかりねのほどだにぞうはげの霜をはらひわびける」
(ホ) 服従しないものを討ち退ける。乱をしずめる。平定する。
※万葉(8C後)二・一九九「ちはやぶる 人を和(やは)せと まつろはぬ 国を治めと〈一に云ふ掃部(はらへ)と〉」
(ヘ) 放逐する。追いやる。
書紀(720)神代上「遂に神逐(かむやらひ)の理を以て逐之(ハラフ)〈略〉逐之、此をば波羅賦(ハラフ)と云ふ」
(ト) 目前の人を引き下がらせる。先払いをする。また、人払いをする。
落窪(10C後)二「帯刀さきに立ちて、道なる人々はらふ」
② (「あたりをはらう」などの形で) まわりのものを圧倒する。威圧する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ 人に売り渡す。売りはらう。処分する。
※虎明本狂言・合柿(室町末‐近世初)「うぢがきが大なりが致てござるに依て〈略〉在所にてはらふ事がならぬ程に」
④ 上下または左右にはたくような動作をする。
(イ) 軽くたたく。かすめ打つ。はたく。
※後拾遺(1086)春上・七五「池水のみ草もとらで青柳のはらふしづえにまかせてぞ見る〈藤原経衡〉」
(ロ) 刀などを左右に振る。横ざまに切る。なぎ倒す。
※太平記(14C後)七「敵の靉(むらがっ)て引へたる中へ走り懸り、東西を掃(ハラ)ひ、南北へ追廻し」
(ハ) 軽くはたくようにして、眉づけをする。眉を作る。〔随筆守貞漫稿(1837‐53)〕
⑤ 代金を渡す。支払う。
※談義本・根無草(1763‐69)前「借(さがり)の有る茶屋船宿は払ひ給へ清め給へと」
⑥ (注意、関心尊敬、または犠牲努力をはらう、などの形で) 自ら気持をそちらに向けたり力を傾けたりする。
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉四六「毫も人力に対して尊敬を払(ハラ)はない引き方をする」
青年(1910‐11)〈森鴎外〉一一「犠牲を払(ハラ)ふとか献身的態度に出るとか」
⑦ (「そろばんをはらう」の形で) そろばんの玉を、計算する前の御破算の状態にもどす。

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